アクセス制御と継承
クラスとアクセス制御
C++では、インスタンスオブジェクトが状態を保持する変数をデータメンバと呼びますが、オブジェクト指向言語では、一般にインスタンス変数と呼びます。インスタンス変数は、オブジェクトがどのような実装で機能を実現しているかということに直結する情報を持っているので、カプセル化の原則に従い、通常はクラスの外部からのアクセスは許しません。
ただし、一部の属性の値を外部に見せる(アクセスさせる)ことを前提に設計されているクラスもあります。オブジェクト指向言語のいくつかは、インスタンス変数を外部から見えるようにするかどうかを指定する機能を持っています。この指定をアクセス制御、あるいは可視性制御と呼びます。インスタンス変数がどこからアクセス可能かという性質をアクセス属性、あるいはアクセスレベルと呼びますが、指定の種類や内容は言語によって少しずつ違います。
C++の場合、データメンバをクラスの内外のどこからでもアクセス可能にするには、publicという指定をします。逆に外部からのアクセスは許さずに、クラスのメンバ関数の中でだけ利用できるようにするにはprivateという指定をします。
なお、structでクラスを定義すると、メンバはデフォルトでpublicになり、classを使って定義するとデフォルトはprivateになります。
図1-1に簡単な例を示します。publicにするメンバの前にpublic:という指定を置きます。この指定は別の種類の指定が現れるまでずっと有効になりますので、データメンバmonthとdayはpublicになり、secretはprivateになります。secretに対してオブジェクトの外部から代入を行おうとするとコンパイル時にエラーとなります。
アクセス属性はインスタンス変数だけではなく、メソッドにも適用されます。publicが指定されたメソッドはどこからでも利用できますが、privateを指定するとそのクラスの中でしか利用できなくなります。
継承におけるアクセス制御
アクセス制御は、1つのクラスに限定した場合はそれほど問題はありませんが、クラスが継承される場合には少々厄介です。スーパークラスとサブクラスが別のモジュールだとすると、スーパークラスが変更されてもサブクラスの変更をできるだけ少なくしたいという考え方ができます。
しかし、サブクラスではスーパークラスの機能の変更や、スーパークラスの実装を利用した新しい機能の追加をするので、スーパークラスのインスタンス変数やメソッドには自由にアクセスできた方が柔軟性があるのも確かです。
そこでC++には、継承する際にスーパークラスのアクセス属性をどのように引き継ぐのかを指定できる機能があります。また、publicとprivateに加え、継承を考えに入れたアクセス属性としてprotectedが用意されています。この属性を指定すると、クラス自身とそのサブクラスからは自由にアクセスできますが、クラスの外部からはアクセスできません。
図1-2を見てください。これまではstructで定義していたクラスTimeOfDayとPreciseTimeですが、今回はclassで定義しています。データメンバhourとminuteはprotected属性ですので、クラスTimeOfDayとそのサブクラス内ではアクセスできますが、外部からはアクセスできません。メンバ関数setTimeとprintはpublicが指定されているため、どこからでもアクセスできます。
次にPreciseTimeの先頭行を見ると、スーパークラスの指定としてprotected TimeOfDayのように記述してあります。これは、スーパークラスのアクセス属性をどのように引き継ぐかを指定するものです。アクセスの制限は「public → protected → private」の順に厳しくなりますが、スーパークラス名とともに記述された指定より緩い指定は許されなくなります。
図1-2の例ではprotectedを指定しましたので、スーパークラスではpublicだったメンバ関数setTimeとprintは、それぞれprotectedの扱いになり、外部からはアクセスできなくなります(ただしprintはpublic属性で上書きしていますのでアクセス可能になっています)。
ここではC++の例を見ましたが、JavaやC#にも同様な指定があります。属性の種類が多くなり、しかも意味が多少違う部分があるので注意が必要です。