オブジェクト指向はどこに向かうか
あらためてオブジェクト指向
ソフトウエアについて多少でも学んだことがあるなら「オブジェクト指向」という言葉を聞いたことがあると思います。オブジェクト指向は今やソフトウエア開発全般をカバーする方法論となっていますが、もともとはプログラミング言語における記述と思考のスタイルでした。
本連載では、代表的なオブジェクト指向プログラミング言語について基本的な言語仕様を紹介しつつ、オブジェクト指向が何を目指している技術なのかについてあらためて考えてみます。オブジェクト指向の知識は前提とせず、C言語などでプログラムを書いたことがあれば理解できるように書き進めたいと思います。もちろん、オブジェクト指向について論じるには用語や概念をそれなりに知る必要があります。その部分は説明的になってしまいますが、ご存じの場合は知識の再確認と考えてお付き合いください。
なお、本連載では主にC++を使って概念の説明をしますが、C++自体の説明をするのが目的ではありませんので、プログラムの書き方が通常のC++の「本流」からは外れていることをお断りしておきます。しかし、紹介する例はGNU C++で一通り動作確認をしていますので、実際に試してみても問題なく動作します。
オブジェクトの簡単な定義
まず、オブジェクト指向とは何かについて概念上の説明をしておきましょう。
オブジェクト指向とは、情報交換しながら動作する複数のオブジェクトという動作モデルを使い、対象をとらえようとする考え方です。それぞれのオブジェクトは状態を持ち、メッセージを受け取ることによって何かの動作(状態を変える、ほかのオブジェクトにメッセージを送るなど)をします。オブジェクト指向と名のつく技術や応用は数多くありますが、この基本的な概念から外れたものはありません。ただし、プログラミング言語としては、継承、モジュール化とカプセル化、ポリモーフィズムの機能を備えていることが必要であると考えられています。
このような言い回しでは抽象的すぎて分かりにくいかもしれませんが、順を追って概要が把握できるように説明していきます。
まずオブジェクトについてです。プログラミングの領域に限定して説明すると、多くの言語では、オブジェクトはいくつかの値と手続きが組み合わさったものとして実現されます。
例を示しましょう。C++はC言語をベースにしてオブジェクト指向の機能を実現した言語で、Cの構造体もプログラムの中に記述できます。図1-1は時間と分の2つの整数で時刻を表す構造体timeOfDayです。実は、C++ではこれでオブジェクトを定義したことになります。
C言語の構造体定義はデータの構造を示しているだけで、具体的なデータは変数として、あるいは動的に確保したメモリ領域上にいくつも作成できます。オブジェクト指向言語ではオブジェクトの定義をクラスと呼び、実際にメモリ上に存在するオブジェクトをインスタンスオブジェクト(あるいは単にインスタンス)と呼びます。インスタンスも必要に応じていくつも作成することができます。
図1-1もクラス定義ではあるのですが、これでは状態として時刻を表すことができるだけで、動作は定義できていません。オブジェクト指向言語では一般に、オブジェクトの動作記述のことをメソッドと呼びますが、C++の場合にはメンバ関数と呼びます。時刻を設定するメンバ関数setTimeと内容を表示するメンバ関数printを図1-2のように定義してみます。
図1-3にクラスtimeOfDayの使用例を示します。変数aは自動変数で、インスタンスはスタック上に作られます。C++は演算子newを使って新しいインスタンスをヒープ領域に生成できます。変数bはポインタで、生成されたインスタンスを指します。メンバ関数は、変数がポインタかどうかによって演算子「.」または「->」を使って呼び出します。実行結果は図1-4の通りです。