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【新春特別企画】あのロボットのOSってなに?

【新春特別企画】あのロボットのOSってなに?

人型巨大ロボットは2025年に大地に立つ!

監修:長岡技術科学大学 木村 哲也

著者:シンクイット編集部

公開日:2008/1/5(土)

あなたのロボットビジネスプランは大丈夫?

今日本では、経済産業省がロボットビジネス推進協議会を立ち上げ、保険やビジネスマッチング、国際規格の制定などを行おうとしています。しかし関心をよせる技術者が少なく、話が進んでいない状況です。認識するのは、もう目に見える形のロボットができた後ですが「これを売ってくれ」といわれても保険制度がないからビジネスにはなりません。

アメリカのすごいところは、それを見越してすべて国として政策を行っている点です。このままでは日本でロボットを作っているのに、社会制度がないため実用化するのはアメリカの企業ということになりかねません。二足歩行のロボットは研究テーマとして重要ですが、海外からは「売れないものに何億、何十億の資金を突っ込む日本の政府は変わっている」と指摘されています。

とくにこのままではヨーロッパでは売れません。ヨーロッパでは「CEマーク」という安全の型式検定制度があり、取得しないと製品を販売することができません。売りたければきちんとした技術規格を作らなくてはならないのです。アメリカではこういった強制マーク制度はありませんが、もし事故が起こった場合に賠償金が非常に高いのです。

人型ロボットは制御がなくなると転びます。もし4メートルのロボットが転んだら家がつぶれます。そのときに家をつぶした保障を行うだけでなく、ATが持つベネフィットを説明する責任が生じます。「なぜ普通のクローラーのついた建築機械で作業しなかったのか」に対して「かっこいいから」じゃ駄目なのです。

もし「クレーン車やブルドーザでよかった」という結論になれば、賠償金額はあっという間に10〜20倍になり、さらに同じ事故を繰り返すと懲罰的な意味で金額があがっていくのです。

しかし日本では強制マーク制度もなく、事故の賠償金には懲罰的な意味もなく、ある意味では「日本ならロボットが売れる」環境があります。ただし、もし事故が起こってしまえば訴訟が起き、裁判に技術者をとられ、商品開発ができなくなり、会社はつぶれてしまうでしょう。

もし事故が発生して安全配慮義務違反で民法の415条と709条に基づいて訴えられたとき、今のロボット開発体制では対応できません。現在大手の工場の約7割がリスクアセスメントを行っていますが、ロボット開発はリスクアセスメントシートがない状態で進められています。これは非常に怖い状況です。リスクアセスメントシートがなければ裁判で提出を求められても、期日までに作成することは難しく、敗訴が決定するからです。

ヨーロッパ企業の話に戻りますが、ヨーロッパの自動車企業ではECUのサプライヤに「AutomotiveSPICE」という社内のマネジメント体制を義務付けています。さまざまな項目に対して1〜5までのレベルが設定されているのですが、今日本のベンダーでレベル2を目指して活動しています。しかしインドや中国ではすでにレベル5を達成している企業もあるようです。

もしロボットでも同じように「RobotSPICE」ができたとしたら、日本はどうなるでしょうか。バグが発生したらきちんと原因をトレースし、誰が担当したかのドキュメントが残っていて、変更・確認をどのように行ったかという情報が求められます。海外の自動車分野では常識になりつつありますが、日本では「まだまだ」の状況です。

機能安全規格 IEC 61508
SIL(Safety Integlity Level)という確率的基準で安全性を4段階に規定(SIL1〜4)
MTTFはSIL 1は10〜100年、SIL 4は1万年〜10万年
SIL-3は自動搬送車の、SIL-4はプレス機械の安全レベル
ATのOSで必要なのはSIL-4でしょう。
VxWorks(商用OS、unix系)
IEC-61508 SIL-2,3まで対応
火星探査にも使われていて、最もATのOSに近いかも。しかし、その差は、限りなく大きい。
toppers(open source 組み込みOS, μITRON系)
2006年現在で、IEC61508準拠を目指すらしい
安全PLC
工場内では既に使われている。AT用には低機能すぎ
OSEK-OS
自動車ECU用OSの欧州標準OS。日本も国主導で対抗しようとするが、ICのRAMなど、国主導でIT産業育成に成功したためしがない。
耐環境性など考えると、VxWorksとならび、OSEK-OSもATのOSに近い。VxWorksは高機能系の上位層に、OSEK-OSはローカルな制御の下位層か。

ずばり、いつ実用化される?

「2025年」がターゲットイヤーだと思っています。かなりのレベルの基礎技術がそれまでに蓄積され、ATレベルのものが資金さえあれば作れる状況が整うことでしょう。すでにアメリカでは軍事ロボットが量産化されていますから、先にアメリカで登場するのかもしれません。

ただし、これはあくまでも特定の環境においての話です。ロボットが一般社会で使えるためには社会制度の整備が必要です。感覚的には研究室レベルで2020年ごろに開発され「こんなロボットができるんだ。これ使いたいよね」と社会が気づいてからさまざまな条件が整いはじめます。そこから何度かに分けてロボットに対応する社会改革、制度改革が行われ、はじめて普及していくでしょう。

私はレスキューロボットを専門にしていますが、このような誰もが「使おうよ」といってくれるようなものでも、万が一事故を起こした、暴走した際の責任問題がまだクリアになっていません。今は、それをいち早く作り上げたいと思っています。




長岡技術科学大学 木村 哲也
著者プロフィール
長岡技術科学大学 木村 哲也
1995年東京工業大学後期博士課程中退。神戸大学助手等を経て2001年より現職。2003年文部科学省在外研究員としてダルムシュタット工科大学、BGIAに滞在。安全技術を中心にレスキューロボットの実用化研究に従事。NPO安全工学研究所理事。博士(工学)
http://mcweb.nagaokaut.ac.jp/system-safety/


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  現在開発中のロボットで主流のOSは何?
あなたのロボットビジネスプランは大丈夫?