技法の分類とテンプレート(応用編)
参加者の役割
今回から深遠なるインスペクションの世界へと進んでいきます。第1回、第2回では物足りなかったという方にも今回以降は手ごたえを感じていただけるのではないかと思います。今回からは比較的かっちりとしたインスペクション/レビューの説明になりますので、これまでの「インスペクション/レビュー」という呼び方も以降では「インスペクション」に統一します。
まず、インスペクションの導入として参加者の役割分担を紹介します。これが明確になるだけでも、かなり効果が出ますので一度見直してみてください。次に、おのおののインスペクタに異なるシナリオを割り当て、インスペクションを進めるシナリオベースドリーディングを紹介します。
ここでインスペクションの役割分担を整理してみましょう。役割は第1回(http://thinkit.jp/article/866/1/)で簡単にふれましたが、もう少しその幅を広げてみたいと思います。ここで挙げる役割は、必ずしも1人が1つ担当するわけではありません。1人で複数の役割を担当したり、1つの役割を複数人が担当したりすることもあります。
1つ目が進行役(モデレータ)です。進行役はインスペクションの目的に沿って参加者を誘導する、もっとも重要な役割の1つです。通常1人で担当します。決められた時間内で参加者が欠陥をみつけやすくするための環境を作ったり、進行したりします。例えば、話が横道にそれた場合に本題に戻したり、後述する記録係の記録が指摘に追いついていない場合に、流れをいったん止めたりします。
また、欠陥の指摘ではなく、単なる個人攻撃になってしまっているときや、質問だけに終わってしまいそうなときには、欠陥の指摘を促します。また、時間配分も進行役の重要な役目の1つです。進行役のスキルはインスペクションの結果に大きく影響を与えます。
2つ目がインスペクタ(レビューア)で、欠陥を指摘します。
3つ目が計画役(オーガナイザ)で、インスペクションがどのタイミングでどのように実施されるか、開発計画全体を含めた計画を立てます。オーガナイザはインスペクションの結果、工程移行を検討したり、アウトプットをほかの手順でどのように使うかを決めたりします。オーガナイザはプロジェクトリーダやマネジャーであったり、ほかのインスペクションのオーガナイザを兼任していたりすることもあります。
4つ目が記録役で、インスペクタが指摘した内容を書きとめていきます。通常1人で担当します。インスペクタの指摘を漏れ、誤りなく記録するには、スキルが必要です。教育の意味をこめて新人に議事録作成を担当させることがありますが、インスペクションの記録役に新人メンバを割り当てる際には配慮が必要です。
5つ目が作成者(オーサ)で、インスペクションの対象物の作成者です。
6つ目がプレゼンタ、リーダ(Reader:読み手)です。インスペクション対象を読み上げて説明します。
7つ目が収集役(コレクタ)で、メールベースのインスペクションやパスアラウンドレビュー等、非同期で実施されるインスペクションの場合に、指摘結果をまとめて指摘リストを作ります。
参加人数
自身が行おうとしているインスペクションに必要な役割が明確になったら、それぞれの役割を参加メンバに割り当てます。ここでは、同期型(参加者が同じ時間帯にコミュニケーションしながら実施する)と非同期型(時間帯をあわせることはせずに設定された締め切りまでにそれぞれが実施する)にわけて説明します。
同期型の場合、2~7名で実施するのがよいでしょう。インスペクタが2名までならば、作成者が記録役を兼務、インスペクタのうちの1名が進行役を兼務すればよいでしょう。この場合、最低2名で実施することになります。インスペクタが3名を超えるときには横道にそれやすくなりますので、進行役は専任の1名が担当し進行役はなるべくそれ以外の役割を担当しないほうがよいでしょう。記録役も同様です。インスペクタの人数が増えると進行役の誘導スキル、記録役の文章化スキルが問われます。プレゼンタ、リーダを含める場合には、指摘の質や数が増えますが、時間がかかることを覚悟する必要があります。
非同期型では、インスペクタが指摘を記録するので、記録役は必要なく、収集役が指摘の重複を取り除くなどして、とりまとめをします。非同期の場合、進行役の負担も小さいので、収集役が兼務してもよいでしょう。インスペクタは多いほうが望ましいですが、指摘内容が重複しそうなメンバを選ぶと効果がそれほどでないので、控えたほうがいいでしょう。