ソフトウェアがもたらす価値と、それによるイノベーションをアピール
「企業のITやスマートフォンなど消費者向けのIT機器、あるいは自動車などに組み込まれたプロセサ…。今日、我々の周りには1兆個ものインテリジェントなデバイスが存在する。それを相互接続し、大規模かつ高度な分散システムにするのはソフトウェアだ。より高度で、スマートな世界を作るために、もっともっとソフトウェアが必要になる」。
米IBMのソフトウェア開発ツール・ブランドであるRationalの年次カンファレンス「Innovate2010」。2010年6月に4000人超の参加者を集め、米フロリダ州オーランドで開催された同カンファレンスの基調講演や一般講演は、“ソフトウェアの価値”や“ソフトウェアによるイノベーション”に対する同社の想いや、それを参加者と共有したいという意思が伝わってくるものだった。
基調講演
配送車の革新的動力を例に、イノベーションの可能性を示唆
冒頭の言葉は、「The Innovation Agenda」と題した初日の基調講演において、Rational事業部門の責任者であるダニー・サバー氏やロバート・レブランク氏が語ったもの。「“ソフトウェアを作る”から“使う”へ」、「ソフトウェア開発はオフショアで」といったトレンドがある中で、ともすれば軽視されがちな傾向すらあるソフトウェアの価値を再認識し、共にソフトウェアによるイノベーションに挑もうというメッセージと言える。
基調講演では、このメッセージを補強するべく、物流大手である米UPS社のロバート・ホール氏とトラック向け機器を手がけるEATON社のディミトリ・カザリノフ氏を招聘した。両氏はまず、既存の配送車に対し燃費を半減できる世界初の「油圧ハイブリッド式配送車(hydraulic hybrid delivery vehicle)」を共同開発したことを説明。その開発において、ソフトウェアの果たした役割を強調したのだ。
「油圧ハイブリッド」は耳慣れない言葉だが、変速機など従来の動力伝達系を使わず、エンジンを最も効率よく動かすシステムのこと。電気ハイブリッドに比べエネルギー回生効率が高く、60~70%の燃費向上と40%のCO2削減という、画期的な効果をもたらすという。このシステムの心臓部と言えるのが制御用ソフトウェアというわけである。
「この取り組みが業界全体に広がれば、効果は計り知れない。貨物配送の事例1つ取っても、このようにIT活用で劇的な変化が起こり得る。世界中の至る所にまだまだイノベーションを起こせる余地がある」(カンファレンス責任者であり、IBM Rational部門バイスプレジデントのスコット・へブナー氏)。
写真1 「ソフトウェアは“見えない糸”。スマートな地球の実現にますます重要」 と語ったRationalバイスプレジデントのスコット・へブナー氏 |
一方、基調講演の中でダニー・サバー氏は、“イノベーションがもたらす価値”という視点で、ソフトウェアエンジニアリングを見直す必要があると述べた。「これまでのソフトウェアは機能やクオリティ、コスト、デリバリが評価基準だった。イノベーションを生み出すには全く別の、全く新しいマネタイゼーションが必要だ。つまり様々なデータを解析してソフトウェアの価値を算出する、“ソフトウェア・エコノメトリクス”(計量経済学)が求められる」(サバー氏)。
写真2 ソフトウェア部門のトップ、ダニー・サバー氏は 「イノベーションを生み出すためにソフトウェア・エコノメトリクスが必要」だと強調した |
2日めの基調講演は「Smarter Software for a Smarter Planet」。IBMが提唱するSmarter Planetの実現に、やはりソフトウェアがカギになることを強調した。その例として、フロリダ南部で建設を計画中の「Babcock Ranch」を紹介。これはインテリジェントなオフィスや住宅はもちろん、仮に停電が起きてもすぐ復旧するシステムや、免許なしに利用できる自立走行車両など、様々な面にITを生かした未来都市構想だ。いささか荒唐無稽にも思えるが、講演には事業主体であり、不動産ディベロッパであるKitson & PartnersのCEOが登壇。順調な進捗ぶりをアピールした。
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