国内IT市場の不連続性と、SIの終焉の予感

2012年4月16日(月)
栗原 傑享(くりはらまさたか)

リスクマネジメントとしてのBCPを、ポジティブに捉え直すワーキングスタイル変革

そんな中、企業にIT投資を促すきっかけが訪れた。大震災によるBCP課題が現実感を持った事、そして表裏一体にワーキングスタイルの変革を意識し始めた事である。2011年はBCPという言葉がIT市場の中で本当に浸透した一年だった。サイオステクノロジーは私が関わるクラウド関連ビジネスとは別に、柱の事業としてこのBCPに深く関わっている。米国子会社が提供する「LifeKeeper」というサーバークラスタリングミドルウェアは、DBなどの重要リソースについて遠近問わずに多重化した上で死活監視を行い、一朝事が起これば待機系にサービスを切り替える仕組みだ。もちろん常時データを同期しているためにサービスを止める事無くアクシデントに耐える。表が復旧すれば再度データ同期を行ってまたクラスタ全体で将来に備える。何年も前からBCPの専門企業として企業システムのリスクマネジメントを訴えてきていたが、企業によってまちまちの温度感で、プロダクトの説明すぐに商談になる場合がある一方で単純なコストアップとしてまったく検討外という場合もあったのである。しかし今ではオンプレミスに抱える重要サーバーを地理的に1箇所に(サーバーが単相のために必然な1箇所)配置する事のリスクを真剣に議論する土壌ができている。昨年サイオステクノロジーが実施した、オンプレミスサーバーのレプリケーション先として協業先のIBMが提供するセンターを用意するという、LifeKeeperキャンペーンは大変な注目を集めた。

GoogleやAmazonといったクラウドベンダーのデータセンターは、世界規模にインターネット上へ分散配置されて地域災害に対しての強度を誇っている。BCPリスク以前にはインターネット上にあるという事でクラウドサービスのセキュリティのリスクを漠然と唱える反対論もあったが、今ではネットワーク上での情報流通における秘匿技術や適切な利用者を厳密に認証する技術が枯れて提供されるようになって、反対論を鎮めている。実際、サイオステクノロジーはこの部分の技術力で市場にアピールして、Google Appsを多数導入してきた。企業内LAN/WANの閉域網において「専ら使わせない安全」ではなく、インターネットを活用する「使わせつつ安全」が実現できるようになったのである。セキュリティの課題が無くなれば、オンプレミスのクラスタリングと並んで、クラウドの採用はBCP的に有効と俄然認知されてくる。

企業の活動が停止するのは大変致命的で、企業規模が大きければ大きいほどその被害は甚大となっていく。災害による直接破壊や停電でサーバーが止まるのはBCPを議論する上では要素の一つであって、他にもBCP上課題とすべきリスクは数多くある。そろそろ時期も過ぎたが、インフルエンザの流行によるパンデミック被害もそのひとつと言えるし、海外駐在においてはそれぞれの国情に従ったカントリーリスクといったものも加えてよいかもしれない。さらにはうつ病など従業員の精神疾患まで含めると、キーマンが休暇を取らなければならなくなるような家族問題まで侮れない。サーバーがオンプレミスに1箇所に配置されている以上に、従業員を1箇所のオフィスに配置するリスクを考察せざるを得ない。冗談ではなく、機械であるサーバーと異なり、キーマンはレプリケーションできない。

図2:企業ITシステムの主たる課題の変化(クリックで拡大)

多くの企業はこの1年来、サーバーを分散する事と共に、従業員の分散も考え始めている。既に東京から離れた関西や九州に支店を開設したり、在宅勤務を取り入れたりしている企業のニュースも耳にするようになった。東京一極集中の状況では通勤ラッシュなど都市インフラの問題は解決し難いが、地方や在宅を採用すると長時間の通勤時間を削減する事ができる。企業視点では通勤の交通費は支払っているが、通勤時間に対しては賃金を支払っていない。従業員への生活の豊かさを提供する意味でもワーキングスタイルの変更は有効だと考えられるようになった。そして新しいワーキングスタイルをITでフォローする仕組みを考えていくという需要が発生した。

加えて、企業システムに社外からアクセスする必要があるし、もちろんセキュリティも重要だ。さらにはチームが集合していない状況下でのコラボレーションやコミュニケーションの方法も確立する必要がある。BCP発端でのITリスクマネジメント対策という、ともすればネガティブスタートになりがちの議論が、同時にワーキングスタイルの改革という、これまでに無いポジティブな話題と変化してしまったのである。そして、市場参画するプレイヤー皆に広くチャンスが到来した。既にこの新しい市場変化に追随して、事業コアを転換する傾向が、先端的システムインテグレーターの中に始まっている。

次回は

にわかに生まれたワーキングスタイル変革への顧客欲求と、変化したインテグレーターのビジネスモデルを考察し、そこに働く「今、システム構築に関わる人たち」の未来への道を模索します。

著者
栗原 傑享(くりはらまさたか)
サイオステクノロジー株式会社

1972年札幌生まれ。サイオステクノロジー(株)執行役員Googleビジネス統括、(株)グルージェント代表取締役社長、特定非営利活動法人Seasarファウンデーション理事を兼任。OSS開発者としてもしばらく前は活動していて、2005年はJavaによるWEBテンプレートエンジン「Mayaa」をIPA未踏ソフトウェア創造事業に採択いただいて開発しました。近年ではサイオスの事業推進責任者としてクラウドビジネス推進を担当して専らGoogle Appsのライセンス販売に従事し、グルージェント(サイオス子会社)にて周辺ソリューション・サービス開発の指揮をとっています。

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