Google Appsの普及に見る、企業ITインテグレーションの変化
当連載では、クラウド概念の登場から数年経過し、徐々にクラウド化してきた国内IT市場を考察し、ビジネスモデルの変化からクラウド時代に目指すべきエンジニア像について、3回にわたり論を広げていきたい。
第1回は承前として国内市場状況から感じたこと、第2回は市場の変化に対応するいわば従事企業のサバイバル術、そして第3回にそこに働くエンジニアが歩むべき道をそれぞれテーマとしていく。特に最後のエンジニアの道については、読んでいただける現在エンジニアの方々へ懐中電灯ぐらいの明かりであっても照らせられればと考えている。
内容についてあらかじめ断っておくと、あくまで私という個人の中にある考えのため、書くこと全てが真理でもないかもしれないし、一般論でないかもしれない。しかしこんな私の考察でも、企業としての戦略が立案され、活動している組織も世にはあるということで、論の稚拙な部分には責任を取っているつもりだ。特に次回以降は賛否の「否」も覚悟しているが、行間に埋もれる趣旨をおおらかな気持ちで汲んでいただけたら幸いである。
Google Appsの企業導入の提供、すなわち「クラウドインテグレーション」とは
メールとカレンダーを中心にして企業の情報共有に資するアプリケーションのスイートサービスとして、米国Google社(以下、Google)は「Google Apps」を提供している。Google Appsは2009年の企業向け提供以来、「現在8000万のユーザー、300万の法人で使われている。グローバルでは、毎日3000以上の企業がGoogle Appsを導入している(2011年7月に開催されたGoogle Enterprise Dayにて、Googleエンタープライズ担当副社長の発言)」という大変人気のサービスだ。
従業員数が数名~数百名の小中規模企業だけでなく、2011年には数千~数万名の巨大企業にまで導入事例が広がってきた。Google Appsの人気は様々理由があるだろうが、クラウドの利点としての素早い導入が可能なことと、従量課金によるコストダウンなどが300万法人の導入モチベーションだったのではないか。また前提として、Google Appsの中核かつフリーミアムサービスを行っている「Gmail」のファンである情報システム担当者が、普段利用のGmailと同じく高機能なWEBソリューションを社内でも使いたいという欲求のため、システム刷新の機に乗じてGoogle Appsの企業向けバージョンを採択してきたのかと思う。
Google Appsの企業導入は“ある意味”とても容易で、最低限システム管理者がDNSの設定を変更し、自社ドメインにGoogleサーバーを振り向ける作業を行えば使えるようになる。スタートアップ等のこれまでメールを持ってなかった企業の場合であったり、システム刷新の機にメールアドレスが変わっても困らないという許容があったり、もしくは既にメールを利用していても短時間ならばメールが止まってもいいというような割り切ったIT政策がとれる小規模企業の場合には、導入に関して問題がほとんどない。DNSを一発書き換えるのみで、後に変更反映の伝播が済んでGoogle Appsがアクティブになるのをしばし(本当に短時間)待てばよいのだ。
しかし、一瞬たりともITシステムを止めたくないような考えを持つ中大規模企業の場合には、少々労力がかかろうとも慎重に旧システムとの並行運用を行うなど、段階的な社内展開が好まれる。また既に社内にLDAPやActive Directory等があって従業員のIDを統合管理している場合には、Google AppsのAPIを通じて、既存ID統合管理システムと連携する必要がある。そのあたり作業量は決して多くはないが、それでもシステム管理者が手順を踏まなければならないものもいくらかあり、中にはまれに、高度な内容をもって専門知識が必要な課題もある。
さらにはGoogle Appsだけでなく、SFA/CRMのSalesforce.comを始めとする他のサービスもしくは既存ERPとの連携など、トータルとして企業内ITシステムを構築するニーズが発見されてくると、中大規模企業向けにはGoogle Apps周辺にも、企業それぞれの事情に適合させるソリューションが必然として求められてくる。Lotus Notesなど既存のグループウェア資産があって、Google Apps移行後もそれなりの継続性を求める場合には、過年度の投資規模に比例して移行プロジェクトも肥大する。そうなればGoogle Apps単独の検討ではなく、企業内ITのリストラクチャ的な話題とすべきだ。