これまで企業向けSIに関わってきたエンジニアのためのサバイバルガイド
イントラの業務システムを作るSIが姿を消しつつある様子を、タイトルにも言う「SIの終焉」という少々刺激的な言葉で説明してきたのだが、果たしてそこに長年従事してきた企業やエンジニアその人たちは今後どうしていけばいいのか?最終回はさらに放談していこうと思う。
放談というのは、あくまで私の独善的な視点であるためだ。私は昔にエンジニアだったこともあるが、今はまったくエンジニアと名乗る資格は無い。すでに5年近く現場から離れてしまっている。一方で多数のエンジニアを雇用する立場ではあって、簡単に言うと「スーツ」。想定するこの記事の読み手に対しては仮想敵の立場だ。つまり、今回は大概のエンジニアにとって不愉快なことを述べようと思っている。
企業側の視点でエンジニアリソースの性質を考える
今でも職人気質にて燃え盛るデスマーチ案件のリカバーに飛び込んでいったり、難しいマルチベンダー案件にて、エンドユーザー側の立場で切り盛り任せられたりするような、フリーで現場を渡り歩くスターエンジニアは存在できているのだろうか。私の身の回りでは最近あまり見かけなくなったのだが、企業視点に限れば、システム受託開発ではそのような正規雇用ではないリソースを活用することのほうが理にかなっている。毎月固定的に人件費を支給して雇用を守るのは市場が右肩あがりに発展している場合には有効だったが、市場が縮小しはじめているSI終焉期には企業の存続に関わる問題となりそうなのだ。
企業は顧客に対して価値を提供し、その対価を得る。また、価値を提供するためには人件費など原価を支払い、対価から原価を引いたものが利益となる。よってSI企業が儲けるためにはたくさん売りあげるのと同時に単位原価を低減させていけばいい。それはすなわち、たくさんの開発プロジェクトを受託しては検収すればいいし、従事するエンジニアはできれば給与の低い人(大概、若手エンジニア、となる)のほうがいいということだ。
大手SI企業がしばらく前まではコンピューターの専門教育を受けていないような文系学部卒業生でもかまわずに大量の新卒採用を行ってきたのは、需給バランスが現在とは異なっていたために外部からテンポラルなエンジニアリソースを調達するにはコストがかかるため、役立つようになるまで数年かかろうが若手エンジニアを身内に抱え込んだほうが合理的だと考えられていたため、と言える。この真理は様々に適用することが可能で、俗に言う「プログラマー35歳定年説」も経済的に説明することができる。
この俗説はプログラミングには柔軟で新進な思考ができる20代の若者だけができることで、35歳になると頭が固くなって衰えやがては技術的に追いつけなくなる、というような説だ。しかし実際には35歳になったからと言って急に脳や性格に問題が発生してしまうなどということは医学的にはありえない(私は医者ではないが、そう信じている)。おそらく35歳になった個々人の欲しい月俸額が、市場の許す人月単価内に原価として収まらないために、企業としても徐々に施策せざるを得ないということによる現象なのだと思われる。プロジェクトごとに利益を出すために、給与の比較的に高い人は徐々に現場から自然と外すような文化を自衛として皆が醸成しているのだ。
SIは元来リソース効率の悪いビジネスモデルだ。宿命的に暇な仕事だと言える。多数エンジニアを従事させていた案件が終了した後、空いたエンジニアが全員分従事する次の案件をきっちりと手配できることは常ではなく、数名?全員の時間が空いたりすることが多い。その時に空いた人月分がちょうど枠にハマるつなぎの案件を都度に営業獲得するのは難しい(一人月空いたからと言って、都合よく一人月分の仕事が落ちてはいない)。どうしても数週間から数ヶ月の暇な時期を作ってしまう。これは顕著に、SI企業全体の稼働率低下の構造的な原因となっている。
また、案件の終了条件も顧客の検収が前提となっているために、不幸にしてプロジェクトでの品質管理が満足に実施できなかったような「動かないコンピューター」状態となった時には、予定外の期間延長にて投入リソースの解放時期が的確に読めないし、エンジニアも心身ともに消耗してしまって休暇を取らざるを得ないようなことも起きる。市場が好調な時代でもそうであったし、増して市場が縮小して案件数が減った現在では、いよいよ大変なこととなってきた。流動的な稼働に対して固定的な体制では対応できなくなってきたのである。もっとシンプルに言うと、ただでさえ儲からない業界なのに、全体として仕事が無くなってきたのでSI企業が正社員エンジニアを抱えてはいられなくなってきたのだ。
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