[実践編] Ubuntu Serverの運用・管理、商用製品の利用メリットと今後の展望(後編)
Ubuntu Serverに対応したサーバー監視エージェント
ProLiant Gen8サーバーでは、HP製のサーバー監視エージェントがなくても、サーバーコンポーネントの多くを遠隔から監視することができます。これは、ProLiant Gen8サーバーに搭載された遠隔監視チップiLO4を利用することで実現できます。ProLiant Gen8サーバーからエージェントレスが可能になりましたが、ハードウェアベンダー提供の監視エージェントを導入すると、より多彩で詳細な監視を行うことができます。
スケールアウト型サーバーにおいては、ハードウェア監視、OS監視、性能監視、アプリケーション監視など様々な運用がみられますが、障害発生の通知等を行うためのベンダー提供の監視エージェントと管理ソフトウェアを導入する場合も少なくありません。HPは、Ubuntu Server用のサーバー監視エージェント類をまとめた「Management Component Pack(MCP)」を無償提供しています。以下では、Ubuntu ServerにおけるMCPの導入、監視の手法を説明します。
HPのリポジトリ経由でMCPをインストールする
事前準備として、企業内LAN等のプロキシーサーバーを経由し、インターネットに接続している場合は、apt-getをプロキシーサーバー経由で実行できるように、管理対象サーバーの/etc/apt.confファイルにプロキシーの設定を記述します。
# vi /etc/apt.conf Acquire::http::proxy "http://proxy.your.site.com:8080"; Acquire::https::proxy "https://proxy.your.site.com:8080"; ...
上記「proxy.your.site.com」には、自社のプロキシーサーバーを指定してください。
管理対象サーバーで、MCPを提供しているHPのダウンロードサイトをリポジトリに登録します。
# vi /etc/apt/sources.list deb http://downloads.linux.hp.com/SDR/downloads/MCP/ubuntu precise/current non-free
HPが提供するMCPのリポジトリを利用できるようにします。リポジトリの利用にはGPGキーの追加が必要ですので、apt-keyコマンドでキーを追加します。キーの入手をプロキシーサーバー経由でwgetコマンドを使って行う場合は、wgetrcファイルにプロキシーサーバーの設定を行ってください。
# vi /etc/wgetrc ... https_proxy = https://proxy.your.site.com:8080/ http_proxy = http://proxy.your.site.com:8080/ ... # wget http://downloads.linux.hp.com/SDR/downloads/MCP/GPG-KEY-mcp # apt-key add GPG-KEY-mcp # apt-get update
管理対象サーバーにMCPで提供されるサーバー監視エージェント類をインストールします。
# apt-get install hp-health -y # apt-get install hpsmh hp-smh-templates -y # apt-get install hpacucli cpqacuxe hponcfg -y
Ubuntu ServerにおけるSNMPの設定
MCP等を使って遠隔にある監視用のサーバーにSNMPによる障害通知を送るためには、hpsnmpconfigコマンドによる事前準備が必要です。hpsnmpconfigを実行すると、SNMPのRead/Write Community String(例として「private」等)とRead only Community String(例として「public」等)、トラップ送信先IPアドレス等の入力が促されますので、それらを適切に入力してください。
# /sbin/hpsnmpconfig
hpsnmpconfigコマンドによるSNMP設定が終了したら、Ubuntu Serverを再起動します。Ubuntu Serverを再起動後、監視対象サーバーで提供されるSystem Management Homepage(通称SMH)にWebブラウザーでアクセスすることで監視することが可能です。
Ubuntu Server on HP ProLiantにおける温度、ファン、電源の監視
監視エージェントを入れるメリットに、詳細な監視データをコマンドラインから取得できるという点があります。MCPに同梱されているUbuntu Server向けの管理ユーティリティの1つであるhplogコマンドは、サーバーの温度、ファン、電源の状態をCLIの標準出力に表示することが可能です。
Ubuntu Server on HP ProLiantでサーバー筺体のLEDを制御する
hpuidコマンドは、サーバーの筺体の前後に搭載されている青色のLEDを制御できます。hpuidコマンドに、-eオプションを付与することで、サーバー筺体のLEDを点灯させることができます。また、-dオプションで消灯します。さらに、-sオプションによりLEDの状態を表示することができます。このLEDは、データセンターの現場技術者が保守作業対象のサーバーを簡単に見つける役目を担っています。
また、遠隔の管理者が遠隔管理チップiLO4の仮想端末を使用した場合、LEDが点滅するようになっており、現場技術者が、hpuidコマンドやLEDの点滅状態をみることで、遠隔地の管理者によるiLO4仮想端末の使用状況を確認することができます。この時、hpuidコマンドによって、LEDの状態を確認すると、BLINKINGと表示されます。
hpuidの出力を定期的にUbuntu Serverのcron等で監視し、状態がBLINKINGかどうかをチェックしておけば、iLO4経由による仮想コンソールを使った遠隔操作が行われたかどうかのチェックも可能となります。
Ubuntu Server on HP ProLiantにおけるRAID監視
近年、注目を浴びているRed Hat StorageやGlusterFS、Scality、Cephなどのスケールアウト型分散ストレージ基盤では、複数のx86サーバー間でデータのレプリカを保有しているものの、単体サーバーの対障害性向上のため、サーバーの内蔵ディスクにおいてハードウェアRAIDを構成するのが一般的です。RAIDを構成すれば、サーバーのディスク障害に対応できますが、障害が発生した場合に、管理者に通知する監視の仕組みが必要になります。
HP提供のMCPに含まれるhpacucliコマンドを使えば、Ubuntu Serverにおいて、RAIDコントローラー配下のRAID構成や物理ディスクの状態を監視することが可能です。
[まとめ] Ubuntu Serverの導入にあたって検討すべき項目
HPからOEM提供されているUbuntu Serverは、サブスクリプション・ライセンス課金がなく、日本HPの有償の保守サポートが受けられるOSです。HPがOEM提供している他の商用Linux OSと同様に、HPサーバーとのワンストップ・サポートを提供している点も見逃せません。HPのOEM版Ubuntu Serverを購入したユーザーは、日本HPの保守サポート窓口に電話または電子メールで保守を受けることができます。この時、ハードウェアとUbuntu Serverの両方について保守サポートを一括した窓口で受けることが可能ですので、問い合わせ窓口で迷子になることがありません。
日本HPでは、大規模なUNIXシステムやLinuxシステムの経験を豊富に持つ技術者がハードウェア、HP製のソフトウェア、Ubuntu Serverの切り分け作業を行います。もし日本HPで解決できないUbuntu Serverの問題が発生した場合は、米国HPのグローバルの選任サポートチームが問題解決に当たります。この時、HPは、Canonical社のサポートエンジニアと協調し、問題解決に当たります。大規模で高い可用性を要求されるエンタープライズ向けのシステムにおいては、OEM版Linux OSならではの手厚いベンダー保守サポートが必須の場合が少なくありませんが、Ubuntu Serverにおいても、既存のUNIXやLinuxと同様の保守サポートを受けることが可能となっています。
HP提供のOEM版Ubuntu Serverは、仮想化環境においてもメリットがあることを忘れてはなりません。仮想化をしない利用環境やゲストOSを1つまで起動するような環境では、従来のHPサポート付の商用Linux より20%低価格(2014年3月HP調べ)になっています。また、仮想マシンの数が無制限という使用条件においては、従来のHPサポート付の商用Linux よりも69%低価格(2014年3月HP調べ)になっています。仮想化ソフトウェアのライセンスもかかりませんので、KVMの仮想化技術を使った集約を計画している場合は、是非Ubuntu ServerとHP ProLiantの組み合わせを検討してみてください。
エンタープライズ・レベルの厳密な保守サポートが要求されるようなシステムにおいて、Ubuntu Serverの導入計画がある場合は、以下の項目を検討するようにしてください。
- ハードウェアベンダーによる信頼性の高い技術サポートがあるか
- 実績豊富なLinuxの保守サポートチームが対応できるか
- Ubuntu Serverのカーネル、ドライバー、ファイル・システムの技術支援を受けられるか
- Canonical社への問題のエスカレーション・パスが存在するか
- ベンダーの24時間365日対応があるか
- 導入予定のx86サーバーとUbuntu Serverのサポート窓口が1本化されているか
- 仮想化を含め、サブスクリプションおよびライセンス課金において、大きな優位性があるか
- 問題の切り分け以外に、パラメータ設定、新バージョン のインストール等の支援策があるか
10回にわたってお送りしてきたUbuntu Serverの連載も今回で終了です。本連載では、Ubuntu Serverの基礎から、Ubuntu Serverをスケールアウト基盤に配備するための技術、管理手法やOSSの活用法を説明しました。OSSクラウド基盤を取り巻くUbuntu Serverの世界は、革新的なものが目立ちます。発展を続けるUbuntu Serverとスケールアウト基盤を使った戦略的なITシステムを是非構築してみてください。
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