DevRel・キャリア形成に役立つ「パーソナルブランディング」を確立しよう

2024年12月12日(木)
中津川 篤司
今回は、DevRelにおけるパーソナルブランディングについて、アウトプットとコミュニティ活動の観点から解説していきます。

はじめに

今回は「パーソナルブランディング」について取り上げます。DevRelにおけるパーソナルブランディングは、ソーシャルメディアのアイコンだったり、プロフィールだけに限りません。個人としての考え方、技術への取り組み、専門性などさまざまな要素が含まれます。技術者としてのアイデンティティとも言えるかも知れません。

また、DevRelだけに限らず、パーソナルブランディングはエンジニアとしても重要なものだと考えています。ぜひその考え方を知り、自身のキャリアに活かしてみてください。

パーソナルブランディングとは

パーソナルブランディングとは、ある個人を1つの「ブランド」と位置付け、その価値を高めるための活動を指します。企業が商品やプロダクトに対して行うブランディングと同じような活動を個人に対して行うものです。パーソナルブランディングと言うと大げさですが、「キャラ付け」と言い換えることもできます。

例えば、パーソナルブランディングを行うメリットとして以下が挙げられます。

  • 他の人との差別化
  • 信頼性の向上
  • 価値の向上

あるテクノロジーやプロダクトに対してパーソナルブランディングを行うことで、他の人との差別化が可能になります。例えば「AWS」といえば、とか「LLM」といえば、といったように、特定の技術やプロダクトに強いアイデンティティを持った人を思い浮かべられるでしょう。

こうしたアイデンティティを持っていると、企業よりもバイネームで仕事が得られるようになります。元々のテクノロジーが強力になったり、トレンドになったりすることで、パーソナルブランディングもさらに強化されるでしょう。

次に、信頼性の向上があります。特定の技術やプロダクトに強いアイデンティティを持っている人は、その分野の専門家として認識されやすくなります。そのため信頼性が向上し、仕事の依頼や情報提供などが増える可能性があります。

最後に価値の向上です。パーソナルブランディングは個人の価値を高めるための活動です。自分が信じたテクノロジーを極めることで、同分野における個人の価値を高められます。

DevRelにおけるメリット

「テクノロジーエバンジェリスト」や「デベロッパーアドボケイト」と呼ばれる人たちは、そのプロダクトの技術領域においてパーソナルブランディングを高めています。そのテクノロジーにおけるスペシャリストとして登壇したり、ブログ記事を書いたり、ソーシャルメディアで情報発信したりすることで、そのテクノロジーに対する認知度を高めています。

ブランディングを高めることができれば、プロダクトやテクノロジーを学ぶ人たちからの信頼を得られます。質問されたり、情報提供を求められたりするようになるでしょう。また、それがフォロワーを増やす結果につながり、あなたの発信する情報がより拡散されるようになります。

パーソナルブランディングのデメリット

逆に、パーソナルブランディングを行うことによるデメリットもいくつかあります。

  • 他の分野・企業へのアクセスが難しくなる
  • 一度築いたブランドを維持するのが難しい
  • プロダクト・テクノロジーの潮流に左右される

一度付いてしまった「色」はなかなか取れません。それが強いブランドであればなおさらです。そのため、競合他社への転職が難しくなったり、他の分野へのアクセスが難しくなる可能性があります。あなたの行動を見たフォロワーを失望させてしまうかもしれません。

次に、一度築いたブランドを維持することの難しさです。テクノロジーは日々進化しており、トレンドも年々変化しています。今年は最新のトレンドだったはずの技術が、来年には陳腐化しているかもしれません。そのため、常に最新の情報を提供し続ける必要があります。

進化が停滞している技術であれば、最新情報を追いかけるなどの努力は不要かも知れません。しかし、停滞=退化とも言えるため、その技術の価値も下がってしまうでしょう。そのような技術にしがみついていれば、あなたのブランド価値も下がってしまいます。

最後に、プロダクト自身の変化によりブランディングが左右される点です。それは、あなた1人ではどうしようもないことかも知れません。買収や、まったく別な不祥事によってプロダクトの価値が毀損し、あなたのブランド価値にも悪影響を及ぼす可能性があります。

テクノロジーになると、さらに不透明です。ガートナーのハイプサイクルのように、盛り上がっていた技術があっという間に失望期に入り、そのまま忘れ去れることも多々あります。そういった意味で「どのテクノロジーを選択するか」は重要になるでしょう。

パーソナルブランディングの方法

あくまでも個人的な経験ですが、筆者は2000年頃から「MOONGIFT」というブログを立ち上げて(名前が変わったことも何回かありますが)、オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介していました。その結果、今なおサイトを見てくれているエンジニアの方に会ったり、MOONGIFTを知っている人に会うことも少なくありません。

2014年からDevRelを広める活動を行っているので、最近ではDevRelと一緒に筆者を想起してくれることが増えています。こちらはコミュニティやイベントの登壇、カンファレンスの開催などが主な活動です。

継続する

MOONGIFTのメインの活動はコンテンツ発信でした。現在のDevRelの場合はコミュニティ運営がメインの活動になっています。いずれの方法でもパーソナルブランディングの確立には時間がかかるため、継続が最も重要になります。個人的な体感としては10年は続ける覚悟が必要だと考えています。

「MOONGIFT」のサイト(2021年7月に更新を停止し、現在はアーカイブサイト)

そして、どのようなキーワードを選択するかが重要です。そのキーワードが凋落してしまうと、あなたのブランディングまで損なわれてしまいます。継続して注目され続けるものを選びましょう。

もし、すでによく知られているキーワード(例えばJavaScriptなど)を選んだ場合、そこで認知されるには相当な努力が必要です。それも一過性のものではなく、継続的な努力が欠かせません。数記事バズったくらいでは、あっという間に忘れられてしまうでしょう。

プロダクトを作る

開発者に注目してもらうためにプロダクトを作るというのも1つの手法です。例えば「Ruby on Rails」を作っているBasecampはRuby界隈で大きなブランドになっていますし、そのメイン開発者であるDHHも有名です。世界的なプロダクトを作れれば、あなたのブランディングに大きく寄与するでしょう。もちろんRuby自体の開発者であるまつもとゆきひろさんも、個人の強固なブランディングが確立しています。

最近であれば、Cloudflareのゆーすけべーさんが開発している「Hono」もそうです。Honoはオープンソース・ソフトウェアであり、より多くの開発者が使ってくれれば、そのメイン開発者であるゆーすけべーさんのパーソナルブランディングも高まっていくでしょう。

Cloudflareのゆーすけべーさんが開発している「Hono」のサイト

登壇・講演する

企業で行うセミナーで専門家として講演したり、コミュニティイベントで登壇する、カンファレンスなどで登壇するなど、規模や形態はさまざまです。小規模、短時間なものからはじめていくことで、徐々に慣れていくでしょう。

カンファレンスであればCFP(Call for Paper/Proposal)を用意しているケースが多いです。これまでの経験をもとにプロポーザルを提出し、採択されれば大きな経験につながります。もちろん、パーソナルブランディングの構築にも大いに役立ちます。

発信する

発信にもさまざまな方法があります。昔はブログがメインでしたが、現在ではソーシャルメディアや動画、音声メディアなど実に多彩です。自分がやりやすいものを選択するのも良いですが、ライバルが行っていないメディアを選択したり、より多くの開発者が見てくれるものを選択すると良いでしょう。

配信方法としては「ライブ」と「アーカイブ」の2つがあります。テキストでライブはあまりないですが、イラストや動画、音声などはライブの方が好まれる傾向があるようです。これもオーディエンスに合わせて選択しましょう。

コミュニティを運営する

自分が注目するテクノロジーに関するコミュニティを運営することで、回り回って自分のブランディング向上につながります。筆者の場合で言えば「DevRel/Tokyo」というコミュニティであり、現在インドで行っている「DevRel Meetup in Bengaluru」も該当します。コミュニティ運営メンバーに加わって貢献するのは、個人のブランディング向上につながります。

筆者が運営するコミュニティの1つ「DevRel Meetup in Bengaluru」のサイト

ユーザー主体のコミュニティを運営するのは、そのテクノロジーが好き(または仕事で関連している人)になります。そうしたコミュニティに深く関わることは、パーソナルブランディング構築に役立ちます。

キャリアとしてのパーソナルブランディング

パーソナルブランディングの構築は、転職などエンジニアとしてのキャリア形成にも役立ちます。履歴書でしか人となりが分からないのと、さまざまな活動を行っていてアイデンティティが確立している人であれば、後者の方が良い転職につながります。もちろん、転職先があなたのパーソナルブランディングに価値を感じてくれていることが肝要です。

すぐに転職などに結びつかなくても、コミュニティへの参加や登壇する経験はコミュニティ内での仲間作りにもつながります。同じテクノロジーを知っている者同士、会社とは異なる関係性は人生を豊かにしてくれます。

前述した通り、パーソナルブランディングは一朝一夕でできるものではありません。半年程度でできたものは、サボっているとあっという間に消失してしまうでしょう。自分が「これだ!」と信じられるものを追求し、継続していきましょう。

おわりに

今回は、パーソナルブランディングをテーマに解説しました。DevRelはもちろん、エンジニアとしてもパーソナルブランディングの果たす役割は大きいと感じます。自分をブランディングする、その観点からアウトプット・コミュニティ活動に取り組んでみると、新たな発見があるかもしれません。

何気ないブログ執筆やソーシャルメディアでの発信も、ブランディングを意識するだけでぐっと内容が変わってくるはずです。ぜひ、自分が打ち込めるテクノロジーを見つけ、パーソナルブランディングに取り組んでみてください。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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