アジャイル開発の明暗を分ける時間軸の捉え方の違いとは
前回は連載の初回ということで、エンタープライズ・アジャイルの代表的なフレームワークを紹介しました。その中で共通ポイントとして挙げた「しがらみを制御する」という視点を中心に、現場でいただくさまざまな質問を織り交ぜながら、具体的なイメージを共有できればと思います。
さて、プロジェクトの最初にくるのは「計画」なわけですが、その前にこの連載で道具として使うHP Agile Managerの下準備だけしておこうと思います。
下準備:HP Agile Manager ってこんなもの
HP Agile Manager(以下、AGM)は、アジャイルのチーム管理に特化した製品として、以下に挙げる機能を提供しています(図1)。
- バックログ管理
テーマやストーリーなどを管理する、アジャイル開発ではおなじみの機能。 - リリースやスプリントの管理
タスクボードやカンバンもあります。 - 不具合の管理
不具合情報を管理します。HP Quality Centerなどを用いて、すでにテストや不具合を管理されている場合には同期することもできます。 - チームの管理
メンバーやチーム、作業負荷などの管理ができます。 - トレーサビリティ管理
SubversionやGit、Jenkinsなどと連携して、情報を一元管理できます。また、それらの情報とストーリーや不具合を関連づけて、トレーサビリティを管理できます。
AGMはSaaS版とオンプレミス版(=お客様環境の中に構築するバージョン)が提供されていますが、今回はSaaSの評価版を使って手軽に始めましょう。
評価版の利用手順を長々とここに書いてしまうと「単なるページ稼ぎ」と編集部に怒られちゃいますから、HPのブログのほうにアップしておきますので、各自準備してください。
では、準備が済んだという前提で話を進めていきましょう。まずは全体計画を考える際の基本である、時間軸の考え方から始めます。
「プロジェクト」とアジャイル的な時間軸
「プロジェクトはどこで設定するのですか?」
AGMを使われたお客様から、最初にくる質問の一つがこれです。AGMの中には「プロジェクト」という表現がほとんど見られません。ここに、単にツールの機能の話ではない、「アジャイル屋さんの時間軸の捉え方の違い」を見ることができます。この違いを表現したものが、図2です。
これまでのソフトウェア開発では、「プロジェクト」という単位で仕事が区切られてきました。何らかのロジックで予算が決められ、開始と終了(サービスインや納品)が明確に決められた作業の単位です。もちろん「終了」とはいっても「引き続きの第2期開発」というように継続するシナリオはありますが、「予定された機能がどかーんとリリースされて『終了』」と明確に意識されていることが多いと思います。
それに対して昨今のアジャイル開発(特にリーン開発の色が強いと)では、短期間で小刻みにリリースし続けるというふうに時間軸を捉えます。サービス提供の土台となるシステム自体(AGMではこれを「アプリケーション」と呼んでいます)は、ある期間にわたって稼働し続けていて、その上で小規模な単位でサービスを短期間でリリースし続けるという捉え方をします。つまり従来の「プロジェクト」の意識と比べると、終了のイメージが明確ではありません。
アジャイル屋さんからすると違和感のないこの見方も、ユーザ部門に理解してもらうには一苦労な点となります。「予算の区切りがはっきりしない」「いつできあがるのかわからない」といったクレームを言われることも珍しくありません。
「しがらみを制御」するポイントの一つは、プロジェクトの進め方とその中での利害関係者のふるまい方について、事前に同意を取っておくことです。
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