サブスクリプション管理をアウトソースするAXLGEARの静かな革新とは?
インターネットの登場で最も大きく変わった消費者の行動の一つが、「インターネットでモノを買う」ということだろう。アマゾンが究極の目標として、全ての小売店を消滅させることを掲げて、日夜売り上げを伸ばしていることが、その良い例だ。またモノを所有せずに、一時的に借りることで対価を支払うシェアリングエコノミーも購買という概念を大きく覆すものだろう。それは消費者だけではなく、企業にも大きな影響を及ぼしている。IT業界では、マイクロソフト、アドビなどこれまでソフトウェアの利用許諾権をライセンスとして一括購入をさせてきた企業の「サブスクリプションモデル」への移行が始まっており、またSalesforceやAWS、Google Cloud Platformなどソフトウェアを所有させずに時間やデータ量に応じて課金をするモデルも大きくシェアを伸ばしている。これは進化の速いIT資産を「持つ」ことが、結果的に企業の競争力を阻害することになりかねないという危機感と、初期コストを抑えて素早くシステムを立ち上げることの相乗効果が、大企業を中心に効いてきているということだろう。
ソフトウェアメーカーやサービス提供者がサブスクリプションモデルに移行する中、それを販売する代理店やシステムインテグレーターは、これまでの販売体制や管理の手法を変えざるをえない。なぜなら従来の「数億円規模の商談を数ヶ月掛けて販売し、数年後のリースアップの際にリプレースをする」というフローから、「毎月のサブスクリプションフィーを計上し、顧客のニーズを読み取って追加のサービスを売り込む」というサイクルに移行せざるを得ないからだ。また管理業務も、数年に一度の販売から月次かつ利用ユーザー単位の販売になれば、その手間は数十倍、数百倍となる。顧客側から見れば、必要な時に必要なだけのIT資産を手に入れられるのであれば理想的だが、売る側にとっては悪夢だろう。
そんなサブスクリプションの管理業務を、サービスとして提供する企業が日本にも現れた。AXLBIT(アクセルビット)株式会社はOpenStackユーザ会などで活発に活動を行っていた長谷川章博氏が起ち上げたベンチャーで「Everthing as a Service」をモットーとしたサブスクリプション管理サービスを提供する企業である。今回は長谷川氏とのインタビューでAXLBITのゴール、立ち上げの背景などを訊いた。
AXLBIT、そしてサブスクリプション管理のプラットフォームであるAXLGEARについて教えてください
もともとホスティングサービスのビジネスをやっていたわけですが、ホスティングというのはサーバーなどを時間貸しするビジネスなんです。ビジネスを進める中でサーバーを買って使うよりも、必要な分だけ使うという発想がクラウドコンピューティングの元だと思うんですが、実際には日本ではあまりクラウドは導入が進んでいないんですね。総務省の平成25年度の調査をみても、米国の企業と比較して、大企業で3割、中小では2~3倍近く導入率で遅れを取っています。日本企業の生産性の低さは、そういう部分にも原因があるんじゃないかと思っています。つまり「最新のITを使いたい分だけ使う」というクラウドの良さが浸透していないと思います。マイクロソフトやアドビのように、これまでのライセンス販売をサブスクリプションに移行している企業もありますが、代理店などではそれに対応できるようにはなっていないんですね。だからその部分に特化して、サブスクリプションの管理を行えるようなサービスを作ろうと思ったというのがきっかけです。
そのサブスクリプション管理の部分がAXLGEARですね
その通りですが、AXLGEAR(アクセルギア)はサービスを提供する企業とエンドユーザーの間に入ってサービスを取りまとめるブローカーという役割なんですね。この機能が必要なのは、これまでの代理店、販売会社などでは「サブスクリプションによるサービスの販売」という新しい方法に、自分たちが移行するのが難しいという状況があるからです。つまりこれまで数ヶ月かけて販売をして一度に売り上げを立てる方法ではなくて、毎月請求を行って少しづつ売り上げを立てる、販売もユーザー数が10とかそういう単位で増えていく、そういうビジネスに対応するには、従来の販売の仕組みではコストが高すぎてやれないんですよ。
これまで一度に数億円という商談をまとめてきた営業マンが、毎月数万円ぐらいの商談をコツコツとやるイメージですね(笑)確かにそれは面倒そうです
これまでの商談では、引き合いがあってそこから商談が始まって見積もり、受注、請求などが直線的になっていて戻ることはないんです。ところがサブスクリプション型のビジネスというのは、常にサイクルが回っている感じです。見積もり、受注、請求、入金確認、それから追加のサービスのアップセルやクロスセルというのが月単位にぐるぐる回っている。その中でちゃんと請求もしなければいけない。なので従来のシステムではできない部分をプラットフォームとして提供することで、代理店や販売店が自社のシステムを変えなくても実現できるということになります。
これはこれまでモノを売ってきた企業が、モノを売らずに月貸ししたりすることにも応用できるわけですよね
そういうように使うこともできるでしょうね。これは日本のように、グループ企業が多いようなビジネス環境にも向いているんです。というのも、グループ内の需要を取りまとめて購入すれば単価を下げられるし、グループ内でライセンスを最適に配置できるようになります。また、ライセンス契約の取りまとめから実際の利用までを集中管理できれば、クラウドで問題となるシャドーITも防げるようになります。今は契約管理に特化しているところを、利用権限の管理やID統合などエンタープライズでの複数クラウド活用をしやすくする統合ポータルの開発も行っていきたいと思っています。
日本で発想して開発されたということで日本の商習慣にも合っていると思いますが、実際にはこれはクラウドで動いているんですか?
そうです。これはパブリッククラウドの上で動いています。どれだけトラフィックが来るのかはこれからのビジネスの伸びによりますが、大きなトラフィックが来ても対応できるようにサーバーレスを活用しています。さらに、特定のパブリッククラウドに依存しないようにアプリケーションを抽象化しており、他のクラウドサービスにいつでも載せ替えられるように考慮してあります。
サブスクリプション管理サービスとして競合はどこになりますか?
欧米では、Zuoraという企業がサブスクリプション管理サービスを提供しています。日本でもビジネスを始めていますが、Zuoraはどちらかというとコンシューマー向きなのかなという気がしています。日本でも似たようなサービスを作っている企業がありますが、競合が増えることで市場が認知され、規模も拡がるので、結果として良いことだと思っています。
今後の予定を教えてください
2017年に入ってから、本格的にビジネスを拡げていく予定です。公開できる採用事例も出てきていますし、今後は現在の10社程度の導入事例を50社ぐらいに拡大したいと思っています。また日本から海外、特にアジアにビジネスを展開していきたいと考えています。
OpenStackユーザー会で活躍していた長谷川さんですから、これをOpenStackとインテグレーションしようという計画はないんですか?
OpenStackもクラウドのプラットフォームですから、「OpenStackをマルチテナントで運用した時にそれをメータリングして社内での課金目的に利用する」なんていうのはユースケースとしてあるんですよね。つまり「グループ企業向けにプライベートクラウドを運用して、どの会社のどの部門がどれだけ使ったか?」を把握していれば、グループ内でのコスト計算に使えるわけです。それを行うために、OpenStackのCeilometerと連携してデータを使えるようにする計画はあります。パブリッククラウドのサブスクリプション管理だけではなく、プライベートクラウドでも応用できると思います。今後に期待してください。
モノを買う時代から、使いたい時に使った分だけ支払うという時代になり、「売る」と言う行為が変革している。その変化に合わせるようにサービスとして「サブスクリプション管理」を提供するAXLBIT株式会社が、その変革を静かに支えるプロバイダーとして動き始めたことは、日本企業における「販売のあり方」を考える機会かもしれない。システムインテグレーターやリセラーは要注目だろう。