世界で進むAI支出へのFinOpsの適用!「FinOps X Europe 2024」で語られた最新動向や事例の紹介

2025年2月27日(木)
東 祐一(あずま ゆういち)
2024年11月11日から14日の4日間にわたって、スペインのバルセロナで「FinOps X Europe 2024」が開催されました。本記事では公開された最新の情報や事例を紹介します。

2024年11月11日から14日の4日間、FinOps Foundationが主催するグローバルイベントである「FinOps X Europe 2024」がスペインのバルセロナで開催されました。本記事では、このカンファレンスを通じて得られるFinOpsに関する最新の技術動向や事例について紹介します。

はじめに

FinOpsは「Finance」と「DevOps」を掛け合わせた言葉で、クラウドへ支払う料金に対し、クラウドから得られる価値を最大化することを目的とした運用フレームワークで、組織文化に変革をもたらす取り組みの一つです。FinOps Xは、このFinOpsを実践する人々の支援を目的とする非営利団体のFinOps Foundationが主催する最大のグローバルイベントで、世界各国からFinOpsに携わる人々や企業が集まり、最新の技術動向や事例などの学習や人脈づくりなどの機会を提供するカンファレンスとなっています。

FinOps X Europe 2024

FinOps X Europe 2024

[Keynote]FinOpsの進化

Day1基調講演は、FinOps FoundationのCEOであるJ.R. Storment氏による「Evolution of FinOps」と題した講演から始まりました。FinOpsがどのように進化したのかについて次のテーマに沿って紹介がありました。

私がこのセッションで、特に印象に残っているのは、パブリッククラウド以外へのFinOpsの適用、AIとFinOpsの関連についてです。

パブリッククラウド以外へのFinOpsの適用

パブリッククラウドを対象としてスタートしたFinOpsは、今ではパブリッククラウドだけでなく、オンプレミスやSaaSに対象範囲を拡大しています。パブリッククラウドの域を超えてFinOpsを適用するという話は2024年6月にサンディエゴでおこなわれたFinOps Xの基調講演の場でも語られていましたが、今回のバルセロナのFinOps Xではクラウド以外へ実際に適用しているユーザー事例の紹介、FinOpsが提供するフレームワークにSaaSやデータセンターのコストを管理するための要素であるScopes追加の紹介、そしてオープンソースの技術仕様であるFOCUSでSaaS対応を検討しているとの話もあり、本当にパブリッククラウドの域を超えたFinOpsの適用が実行フェーズになっていることが感じられました。なお、今回フレームワークにScopesが追加された背景や導入事例の詳細については、FinOps Foundationのブログの「The Scope of FinOps Extends Beyond Public Cloud」にまとめられています。興味のある方は、ぜひこちらもあわせて参照することをオススメします。

AIとFinOpsの関連

昨今の世界的なAIへの期待を反映して、テクニカル系のカンファレンスやイベントの場でAIを用いて、何かを改善したり、これまでなかったサービスを生み出したりという話は、皆さんもよくご覧になれているのではないでしょうか。FinOpsにおいては、「AI for FinOps」と「FinOps for AI」という二つの側面から、FinOpsとAIの関連性が説明されていました。前者の「AI for FinOps」は、他と同様に、AIを用いてFinOpsの作業を効率化したり、関連するデータから価値ある導出を得たりすることが可能という内容です。それに対して後者の「FinOps for AI」はAIを提供するシステムに対してFinOpsを適用して、ビジネス価値の拡大をめざすという内容でした。この観点は、他のテクニカル系のカンファレンスやイベントでは扱われていない内容であり、非常に印象的でした。

SaaS型で提供されるAIサービスのトークン数、AIが稼働するマシンのGPU配置、AIが稼働するデータセンターの冷却処理のように、AIを利用する環境によって管理をする対象は異なります。ですが、FinOpsを適用することで、最適化をおこなうことができる点は共通というお話がありました。

今後AIの活用が広がる中で、FinOpsの重要性はさらに高まっていくと個人的には予想しています。

[Keynote]パブリッククラウド以外へのFinOpsの適用

Day1基調講演の2つ目のセッションは、HSBC のNatalie Daley氏による「HSBC Extends FinOps Beyond Public Cloud」と題した講演でした。この講演では、パブリッククラウド以外の領域にどのようにFinOpsを適用してきたかについて紹介がありました。FinOpsを推進していくために、従来のオンプレミスやプライベートクラウドのように課金請求単位のような大きい単位ではなく、より細かい単位でデータを分析し洞察を得る重要性を伝えていました。また、Daley氏は、一般的に定義されているFinOpsメンバーに加えて、オンプレミスやプライベートクラウドに従事するエンジニアメンバーを含めた一つのチームとして、最適化に取り組むことを推奨していました。

[Keynote]FOCUSのバージョン1.1の内容と1.2の方針

Day1基調講演の4つ目のセッションはFinOps FoundationのJ.R. Storment氏とUdam Dewaraja氏によるイベント直前にリリースされたFOCUS1.1の内容と今後のリリース予定内容についてでした。FOCUS(The FinOps Open Cost and Usage Specification)とは、FinOps Foundationが提供する異なるプロバイダーのコストと使用量の課金データを統一的に扱うためのオープンソースの技術仕様です。

FOCUSとは?

FOCUSとは?

●出典:FinOps Foundation、What is FOCUS?

前バージョンである1.0へのフィードバックを反映したアップデートが実施されたバージョン1.1では、コミットメントの使用量やSKUのカラムの追加がおこなわれ、より詳細なコストの管理が可能になりました。

そして2025年1月末リリース予定のバージョン1.2では、SaaSのデータ収集の要素が追加される予定であることが説明されていました。1.0が2024年6月リリース、1.1が2024年11月リリース、1.2が2025年1月リリース予定ということで、リリース間隔が、どんどん短縮されていっています。

[Keynote]サステナビリティとFinOps

Day2基調講演の最初のセッションは、TeradataのBindu Sharma氏を司会にHSBC のNatalie Daley氏、Rabobank のMathijs Hendriks氏、Adevintaの Ferran Grau Hortaの4名によるサステナビリティに関するパネルディスカッションでした。サステナビリティとFinOpsを両立させるためには、コストとカーボン排出量の見える化をおこない、トレードオフの選択やビジネスの判断ができるようにすることが推奨されていました。日本においては、サステナビリティとコストの両面からビジネスを推進している事例はまだまだ少ないですが、登壇者のHendriks氏が「サステナビリティは、我々のDNAの一部だ」と述べられていたように、グローバルではサステナビリティの文化が根付いているように感じました。日本において、FinOpsとサステナビリティの両面を進めるためには、FinOpsを普及させる取り組みはもちろん重要ですが、並行してサステナビリティの文化をもっと企業の活動の中に取り込んでいく必要があると感じました。

[breakout session]コストポリスからコストオーガナイザーへ

ここでは、AmadeusのKrisztian Borbely氏による「Moving from Cloud Cost Police to Cloud Cost Orchestrator」と題したブレイクアウトセッションの紹介をします。

企業の中で中央集権的にクラウド予算を管理すると、クラウドの柔軟性を損ない、イノベーションの妨げになるという話から講演は始まりました。こんにちパブリッククラウドを使われている方の中には、財務担当や財務部門にクラウド予算を管理されているために、開発や運用に苦労されている方も多いのではないでしょうか。この課題を解決するためのいくつかのTipsの紹介がありましたが、特に印象に残ったのは、クラウドの利用者に予算と責任を与えつつ、予算よりもコスト削減した場合には、インセンティブを与えるという内容でした。

成果に対してインセンティブを与えるということ自体は、特別なことではないのかもしれません。ですが、実際に企業の中でこれをおこなうには、やはりFinOpsの概念やフレームワークに基づき、推進することが成功の秘訣と感じました。

次回のイベントについて

Day2基調講演の最後のセッションでは、FinOps FoundationのJ.R. Storment氏が壇上にあがり、次回の大型イベントとしてFinOps X 2025が、2025年6月2日から5日の4日間に渡ってサンディエゴで開催されることについて発表がありました。

2024年はFinOpsに携わる企業や個人の増加、適用範囲の拡大が加速度的に進み、目まぐるしい変化を遂げた一年だと感じました。2025年のFinOps Xでは、2024年のサンディエゴ、バルセロナのイベントを超えた盛り上がりになるのではないかと推測しています。

最後に

本イベントではネットワーキングを強く推奨されていました。実際、私も公式のパーティーや食事の時だけでなく、時にはエレベーターやセッションが始まるまでの待ち時間の間に、話しかけられるもしくは話しかけることで、組織や国境を越えて、FinOpsに対する熱い想いや悩みを共有することができました。

FinOps X 2025に参加予定の方は、グローバルでのFinOpsの勢いを肌で感じ、日本市場にその熱を持ち帰っていただけると良いと思います。また、2024年の12月に日本でのFinOpsの普及促進をおこなうために、FinOps Foundation Japan Chapterが立ち上がっております。今、FinOpsの推進に悩まれている方、FinOpsをこれから検討予定の方は、ぜひこのコミュニティー活動への参加を検討してみてはいかがでしょうか。日本のFinOps業界を一緒に盛り上げていきましょう。

FinOps Foundation Japan Chapter

最後に、今回ご紹介した基調講演やブレイクアウトセッションの動画については、順次FinOps Foundationの公式YouTubeアカウントにて公開されていますので、気になった方はぜひチェックしてみてください。

以上、FinOps X 2024 Europeカンファレンスを通じて得られた最新の技術動向や事例などについてのご紹介でした。

著者
東 祐一(あずま ゆういち)
株式会社日立製作所 マネージド&プラットフォームサービス事業部

PLM(Product lifecycle management)の導入や海外との設計連携の確立、クラウド向けストレージの製品企画、クラウド運用の改善の提案・支援など、幅広い業務に従事。

これらの経験と専門知識をいかし、現在はSRE(Site Reliability Engineering)に基づくお客様の改善支援やFinOpsの国内普及活動を推進。

また、2023年にはJapan AWS Top Engineers、2024年にはJapan AWS All Certifications Engineersに選出された受賞歴を持つ。

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