【犬山市長 原欣伸氏×Givin' Back 田中悠介氏 対談】行政業務に生成AIを活用してから1年、目標は「行かなくてもよい市役所」

2025年2月5日(水)、名鉄名古屋駅から名鉄犬山駅へ向かう車窓は、粉雪から小雪へと移り変わり、取材日は予報通り寒波が到来した。前回2024年3月に取材した当時、犬山市役所は試験期間を経て、本格的に生成AIを導入していこうという段階だった。
【前回の記事はこちら】
↓
【犬山市長 原欣伸氏×Givin' Back 田中悠介氏 対談】全国の自治体に先駆けて生成AIの活用に着手、本年4月からは文書業務への正式導入がスタート
この1年の変化について、前回同様Givin’ Back株式会社サポートメンバーの田中悠介氏(以下、田中氏)と犬山市長の原欣伸氏(以下、原氏)に聞いた。
前回の記事掲載で
テック関係者から注目されつつある
業務の中で「生成AIはどうなっているか」聞かれることはあったが、直接市役所に問い合わせがあったわけではなかったという。「何より、Think IT読者のエンジニアたちが、犬山市に興味を持って関わってくれたらうれしい」と原氏は語る。
田中氏は、2024年11月15〜17日の3日間開催された「生成AI EXPO in 東海」の生成AI EXPO発起人、犬山生成AI実行委員会 代表でもある。11月16日の犬山会場に「ジチタイワークス1月号」の表紙にも起用された「AIまさるくん」の開発者である村井 宗明氏も登壇され、「犬山市はテクノロジー関係者から注目されつつある」ことを共有した。

【参照】日本DX地域創生応援団(旧名 デジタル田園都市国家構想 応援団)より
「行かなくてもよい市役所」に
近づける生成AIの「佇まい」
「この1年のAI活用の変化や課題」について、原氏は「職員は調べものやアイデア出しにAIを活用している。課題は、今後、どのように、よりうまく有効に利活用していくか。今は職員それぞれに任せているので、全職員が活用していけるように促していきたい」と語る。
犬山市におけるAIの使い方も、他の自治体や企業と同じように、主に議事録の要約や挨拶文・アイデア出しが多い。「生成AIの『佇まい』をどのように設定するか。まだ、これまでのインターネットと同じような使い方「〇〇を教えて」が散見される。聞き手のプロンプト(AIに指示や質問を与えることで、AIが応答や結果を生成するための入力内容)の入力の仕方により、かなり的確な回答が得られることを、全職員にもう少し使い方を周知することで職員の事務仕事の時間が減り、市民に向き合える時間が増えると良いと原市長は考えているそうだ。
AIの便利さをふんだんに活用し、市民からの連絡にAIが対応してもらえるならば、最終的目標でもある「行かなくてもよい市役所」の実現に向け深掘りできると思っている。この1年で取り組んできた通り、技術力の向上に時間を使っていきたいと意欲的に思う一方で「『これからはAIがAI自身で成長していく過程に入った』と聞くこともある。何かあれば電源を抜けば良いと勝手に思っていたが、AIはきっと電源を抜かれることも想定して対応してくるだろう。本当にAIに征服されることはないのだろうかと怖くなる」と原氏は胸の内を語った。その上で、あまりAIに頼りすぎず、役立てるための1つの手段として考え、基本的には人が主体的に動いていきたい。だからこそ、職員に求めていきたいのは『人間力、質問力』を高めていくこと。決して好きな人、できる人がやれば良いというわけではなく、全員が『やるぞ』とならなければ良い方向には進まないと思っている」と慎重に観察しながらも、AIの便利さを生かしていく意向を示した。
実際、「AIエージェント(AIがAIに指示)」が示したことに対してAIが動く「AIの組織化」が進んでいくと言われており、1つのAIが間違えたことを言った瞬間、全てのAIがそちらに染まっていく未来がくるのではないか。そうなったとき、AIをどのように考えていくのが良いのか「AIの哲学」について海外でも議論になっていると、田中氏は原氏のAIへの関心の高さに感銘を受けていた。
自治体専用AIツールの勧め
地方公共団体が電子メールやWebページをセキュリティのあるネットワーク上で利用できる仕組み「LGWAN」に導入されている「LoGoチャット(複数の自治体とやり取り可能。外部とも安全に連携できLGWAN-ASPにサービスがあるクラウド型の自治体専用ビジネスチャットツール)」以外にも、国会議員や自治体が使う行政の用語や知識がすべてシステムに入っている「AIマサルくん」(公務員専用AIエージェント)を活用している自治体も多いという。

「公務員AIマサルくん」 (ジチタイワークスWebより)
ここで、田中氏がAIマサルくんの利便性を実体験から感じたエピソードを教えてくれた。「デジタル田園都市国家構想(デジデン)後援金の申請用紙を用意する際、昨年申請が通った情報が覚え込まれているため、自分の用途と目的さえ書けば、それに合わせたフォーマットが自動的に作られ、とても便利だった。LGWANがないと使えない点はあるが、全ての情報を覚え込ませるのはすごく時間が掛かる。『AIマサルくん』はすでにそれが入っていて、自分たちでお金を掛けなくても無料で使えるのは結構有効で注目を浴びている」と紹介した。
AIの使い方は包丁と一緒
最後に「ここから生成AIはどう変わっていくのか」という原氏の問いかけに、田中氏は「AIの組織化は必ず進んでいくだろう。半自動化AI(簡単な判断は全部AIが動き、重要な判断は人間が考えていく)の未来がくると言われている」と応えた。
一番分かりやすいのは医者。毎日ずっと患者さんを診続けるのはすごく大変だが、簡単な内容の診察や診断に関してはAIが行い、「お医者さんが診て注意して診断をつけていく」ものは人間が行う。こういったことが、もう少し広い範囲で生まれてくるのではないか。そうなると人間がAIにどうやって指示をして動かすのかが大きなカギになってくる。
これは、まさしく「行かなくてもよい市役所」のコンセプトと合致する。「全てAIで対応してくれるなら、職員の電話対応の負担はなくなり、フォローする職員も数人で対応可能になる。こうした技術が向上することを期待している。生成AIを日々の業務に導入した始まりは「効率化ができて時間ができたら、それを市民の皆さんに返していこうよ」というのがそもそもの考え方だった。もちろん市民だけでなく、職員の新たな時間づくりに繋がれば良いと思っての取り組みだった。原氏は「次なるステップは、担当課が生成AIをどのくらい使ったことで効果が出ているか、これまでインターネットで検索して資料作成などをしていたときにかかっていた時間が短縮され、その時間がどう使われているか、その効果検証を行っていこうと思っている」と今後の課題として語ってくれた。
原市長は常々「デジタルと人のマインドを変えていく」ことの重要性を伝えていると言う。こういった便利なツールは当然危険もあるけれど、危険性と利便性を職員に周知した上で「とにかく使ってみる。使うことに価値がある」と前向きだ。
現在、市民からの問い合わせはAIチャットボットで用意した答えで対応している。それに対し、コンピューターも近似値の答えを出すように学習してくれているが、この辺りもある程度自動化していきたいと思っている。とは言え、間違った答えは出せないため「どれくらいの期間でどの程度できるか、実際にやりながら検証していく必要はあるが、これが実現したらとても便利だと思っている」と、未来への希望を語り、取材は終了した。
犬山総合高等学校が全国2位!
AIプロジェクト「Mr.なる」
番外編として、対談の話題は取材日直前に話題となった中国のDeepSeek(中国のAIスタートアップ企業)や、自分たちのやりたいことに挑戦できる犬山総合高等学校(前・犬山南高等学校)の生徒が「シンギュラリティクエスト2024」の探求学習でAI人材を育成する「STREAMチャレンジ AI部門」で発表した、介護分野におけるAIプロジェクト「Mr.なる」が全国2位となったことにも触れた。
2024年度は、犬山南高校が県立高校再編将来構想により校名変更されて3年目の犬山総合高等学校。ソフトバンクや田中氏も含む民間企業が臨時講師となり授業を数コマ持ち、一緒に提案・議論し、高校生たちのやりたいことをまとめ、様々なプロジェクト等を作り上げて、大会で発表したりしているそうだ。
* * * * *
「子どもたちにこそ、生成AIの在るべき関わり方を知ってほしい」。AIの活用の仕方として、田中氏はよく包丁の使い方と一緒だと伝えているそう。うまく切れる分、そこに対しての使い方を学んでいく必要がある。
ニュースでも話題沸騰の生成AI。筆者も、お薦めと聞いた「ChatGPT」や「Perplexity」などの検索アプリに音声入力するなど活用している。犬山市と同様に「これがしたい!」と思ったタイミングで利活用できるよう、私も臆することなく生成AIを使って遊んでみようと思う。より生きやすい世の中になるためのツールとして、生成AIを楽しんでいきたい。
連載バックナンバー
Think ITメルマガ会員登録受付中
全文検索エンジンによるおすすめ記事
- 【犬山市長 原欣伸氏×Givin' Back 田中悠介氏 対談】全国の自治体に先駆けて生成AIの活用に着手、本年4月からは文書業務への正式導入がスタート
- 【号外:組織浸透の秘訣】11月16日開催「生成AI EXPO in 東海」犬山会場レポート
- 【号外:地域創生の1つのゴール】11月17日開催「生成AI EXPO in 東海」名古屋会場レポート
- 【地方創生】あなたの地域でも活用中!? 生成AIで変わる地方自治体
- 【号外:製造業への新たな答え】11月15日開催「生成AI EXPO in 東海」 岐阜会場レポート
- 【日本上陸の衝撃】OpenAI上陸で変わる日本のAIビジネスの在り方
- 「それ本当にITでなんとかなりますか?」― 行政がTechと出会ったらこうなった
- VRヘッドセットを新規購入する消費者層に注目の変化
- 【号外:生成AIが切り拓く未来】製造業DX推進における組織変革の実践と挑戦 ー2月5日開催「TechGALA」レポート
- 【さよなら会議の無駄時間】「Zoom AI Companion」が実現する生産性革命