インドでDevRelコミュニティを立ち上げた話

2025年3月18日(火)
中津川 篤司
今回は、インドでのDevRel活動の実践例やエンジニアコミュニティの形成、課題について解説します。

はじめに

今回は、少し変わった話をしたいと思います。私がインドでDevRelコミュニティを立ち上げている話です。

近年、日本で働くインド出身のソフトウェアエンジニアが増え、インドの存在感はますます高まっています。また、名だたるIT企業のCEOにもインド出身者が名を連ねています。

そんな注目度の高い、そして気温も熱いインドで、私がどのようにコミュニティを作っているのか、その取り組みについて紹介します。

インドのIT事情

インドでITといえば、まず挙がるのがベンガルール(旧バンガロール)です。インドのシリコンバレーとも呼ばれ、多くのIT企業が拠点を構えています。AWS、Google、Microsoft、GitHubなど、有名なIT企業のほとんどがベンガルールにオフィスを持っています。

また「テックパーク」と呼ばれるIT企業が集中するエリアが複数あり、スタートアップからエンタープライズ企業まで幅広い企業が集積しています。

テックパーク

また、インドは人口が多いことでも知られていますが、それはコンピュータサイエンスを学ぶ学生についても言えます。多くの学生が毎年輩出されており、学生は国内外の企業に就職しています。インドでは公用語が英語とヒンディー語なので、海外企業での就職も容易となっています。なお、インドの英語は非常に癖があり(日本人もそうですが)、最初は聞き取れない人が多いようです。

もう1つの主要な都市がムンバイです。ムンバイは金融都市として知られ、IT企業の中でも銀行や保険会社などの金融系企業が多く集まっています。インドでは学生時代に学ぶプログラミング言語としてJavaが主流となっているため、金融系企業でもJavaを採用するケースが多く、エンジニアにとって就職しやすい環境が整っています。

インドでのコミュニティ活動

「インドでは学生が多い」と書きましたが、それもあって学生コミュニティが盛んです。コロナ禍の時期には学生主体でオンラインハッカソンが数多く開催されました。GitHubやMicrosoftは学生プログラムを積極的に行っており、GitHub EducationやMicrosoft Educationを利用している学生が多いです。

インドの「Developer Summit」の様子

さらに、インドではオープンソースに関する活動も盛んです。「Open Source India」というカンファレンスをはじめ、オープンソース系カンファレンスが数多く実施されています。有名なオープンソース・ソフトウェアとしてHasura(PostgreSQLにGraphQLを追加するツール)やChatwoot(Zendesk代替)、Hoppscotch(Postman代替)、Calibre(電子書籍管理)などがあります。IT市場が盛んとは言え、平均年収はまだまだ低いインドとあってオープンソースの利用が多いのかもしれません。

インドでのDevRelコミュニティ

そんなインドですが、私が最初に「DevRel Meetup in Bengaluru」を開催した2017年には「DevRel」という単語はほとんど知られていませんでした。初回はAWSの会場を借りて実施しましたが参加者は4人でした。このときに会場手配などを行ってくれたAravindはElasticのエバンジェリストになり、その後アムステルダムに移住して、現在はCodeRabbitのDeveloper GTM(Go To Market)を担当しています。

「DevRel Meetup in Bengaluru」#1

その後、しばらく間を空けて2020年に2回目の開催を計画しましたが、コロナ禍の影響で中止となりました。 結局、再開できたのは2023年6月のことです。この間、オンラインでのカンファレンス(「DevRel/Asia 2020」や「DevRelCon Earth 2020」など)を通じて徐々にインド国内でも「DevRel」という言葉が浸透し、エバンジェリストやコミュニティマネージャーといった職に就く人が増えていきました。

2023年6月の再開時には参加登録者数が135名になっていましたが、実際の参加率は約30%と低く、この傾向は今も変わっていません。多くの人が登録してくれるものの、実際に現地参加する人は少ないというのが現在の悩みの種です。

最も多かったときには参加登録者が300名近くに達し、実際の参加者は100名を超えたことがあります。結果的に参加率は同じく約30%ですが、登録者数が多いため、実数としての参加者は多く感じられました。とは言え、参加率が低いことは会場手配の面で課題となっています。会場側としてはキャパオーバーを避けたいですし、運営側もできる限り参加率を向上させたいと考えています。しかし、実際に蓋を開けてみると、予想よりも参加者が少ないことが続いているのが現状です。

最近では、会場側の配慮により飲食物を提供してもらえるケースが増えています。ただし、参加者数が読めないため、こちらとしては「手配不要」と伝えているものの、会場側が自主的に用意してくれることもあります。これはありがたい反面、参加者が少ないと食べ物や飲み物が余ってしまうこともあり、実際にそのようなケースが発生したため、会場側にはその旨を伝えています。

現在「DevRel Meetup in Bengaluru」には2,300人を超える登録者がいます。ベンガルールで7回、ムンバイで1回の開催を重ね、協力してくれる企業やメンバーも増え、さらなる成長を続けています。また、インドでは「DevRelCon Bengaluru 2024」が開催されるなどDevRelコミュニティの拡大が進んでおり、今後もさらなる成長が期待されます。

インドの特徴

インドで強く感じるのは「コミュニケーション能力の高さ」です。インドの人々はとにかくよく話します。イベント開始前、セッション後の質疑応答、イベント終了後のコミュニケーションタイムまで、絶えず会話が続いています。また、イベントには明確な終了時間がなく、参加者が徐々に帰っていくのが一般的です。それでも、まだ話したい人たちは最後まで残り、議論を続けています。

懇親会(コミュニケーションタイム)の様子

現在は徐々に運営メンバーが増えてきたこともあり、イベントのホスティングは現地の人に任せています。以前は私が行っていたのですが、時間にきっかりし過ぎていたように感じます。インドの人たちからすれば「もっと緩くて良い」と思っていたかも知れません。このあたりは、現地の人に任せることで、より良いイベントができるようになっていると感じます。

イベントの開始時間は、毎回土曜日の午前10時としています。日本ではこの時間帯のイベントは参加が難しい印象がありますが、インドでは平日夜にイベントが開催されることはほとんどなく、実施される場合もオンラインが主流です。

また、土曜日の夕方は家族と過ごす人が多いため、午前中の開催が都合の良い参加者が多いとのことです。ただし、前述のとおりコミュニケーションタイムが長く続くため、結果的にイベントの終了は午後2時頃になることがほとんどです。

インドならではの事情

最近、インドではセキュリティを重視する動きが強まっている気がします。会場によるとは思いますが、名前やIDカード(パスポートなど)の提示はもちろんのこと、「事前にセキュリティゲートに参加者名簿を共有してほしい」と言われます。入館時には時間や名前、電話番号を記載するのも当たり前になっています。

インドというと、体調を崩すことを気にしている方が多いかも知れません。これまでの経験で言えば、以下のポイントだけ気をつければ大丈夫です。

  • 屋台のものは食べない
  • 水道水を口にしない(うがい、歯ブラシの洗浄含む)
  • 氷は口にしない
  • 5つ星ホテルを選ぶ

インドでは、5つ星ホテルでも日本のビジネスホテルと同程度の価格(1泊約1.5万円)で宿泊できます。これらのホテルは電気の供給が安定しており、Wi-Fi環境も整っています。また、害虫の心配もほとんどありません。数日程度の滞在であれば、このようなホテルを選ぶのが無難でしょう。

インドのマクドナルド(牛肉はなく、チキンのみです)

ベンガルールには、マクドナルド、ケンタッキー、バーガーキング、スターバックスなどのチェーン店があります。これらの店でも多少スパイシーな味付けですが、インドカレーが続くとスパイスで胃に負担がかかるため、最近はこうしたチェーン店を利用することが多くなりました。おかげで、体調を崩すことなく過ごせています。

インドのネットワーク事情について言えば、ほとんどのWi-Fiスポット(空港を含む)には接続できません。これは、インドの携帯電話番号がなければ認証ができないためです。同様に、フードデリバリーサービスやマクドナルド、ケンタッキーなどの店内オーダーシステムでも携帯電話番号の入力が必須です。そのため、店員に頼んで番号を入力してもらうか、レジで直接注文する必要があります。

なお、長期滞在する場合は、現地のSIMカードを購入してインドの電話番号を取得することも可能です。

おわりに

今回は、インドで立ち上げ中の「DevRel Meetup in Bengaluru」を中心にインドのIT事情を紹介しました。現在、多くの日本企業がインドに支社を設立し、採用活動を積極的に行っています。特に楽天はインドのエンジニアの間でもよく知られた企業のようです。その理由として「インドで人気のあるクリケットのスタジアム近くにオフィスを構えている」ことが挙げられます。

メルカリ、インド開発拠点設立のお知らせ | 株式会社メルカリ
楽天インド|Rakuten Innovation | 楽天グループ株式会社)

何のきっかけもないと単なる観光に終わってしまいますが、カンファレンスやコミュニティイベントへの参加を目的にインドに訪れてみるのはお勧めです。ぜひ「DevRel Meetup in Bengaluru」にご参加ください!

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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