CloudNativeSecurityCon開催。シアトルで2日間行われたセキュリティ特化のカンファレンスを紹介

2023年6月14日(水)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
2023年の2月、CNCFが主催するCloudNativeSecurityConが開催されました。キーノートから最新のトレンドとeBPFのセッションを紹介します。

CloudNativeSecurityCon 2023がシアトルで2023年2月1日、2日の2日間開催された。このカンファレンスはCloud Native Computing Foundation(CNCF)が2023年に初めて主催したセキュリティに特化したイベントで、セキュリティを中心にセッションが組み立てられている。

今回の記事では初日のキーノートセッションからOpen Source Security Foundation(OpenSSF)のトップであるBrian Behlendorf氏のセッションと、その後に行われたIsovalentのLiz Rice氏のセッションを紹介する。

キーノートはCNCFのExecutive Director、Priyanka Sharma氏のオープニングから始まった。今回は2日間で72ものセッションを実施すると説明。KubeCon+CloudNativeConほどではないが、注目の高さがわかる数字を紹介した。またさまざまなリサーチのデータを使って、クラウドネイティブなシステムにおいてもセキュリティの重要性を強調した。

72のセッションが行われた2日間のカンファレンス

72のセッションが行われた2日間のカンファレンス

Sharma氏の次に登壇したのがOpenSSFのGeneral ManagerであるBrian Behlendorf氏だ。

プレゼンテーションを行うBehlendorf氏

プレゼンテーションを行うBehlendorf氏

Behlendorf氏のセッションでは前半に過去のコンピューティングの歴史を振り返りながら、そして後半からは具体的なセキュリティ強化のための例としてSigstoreを紹介。ここから最新のセキュリティトレンドを解説する内容となった。

Sigstoreの紹介

Sigstoreの紹介

Sigstoreについては以下の記事も参考にして欲しい。

●参考:SigstoreコミュニティがGAを発表、OSSのベストプラクティスを学べる新トレーニング「オープンソース管理と戦略」日本語版をリリース

ここからは最新の動向として「ゼロトラストアーキテクチャーというものは存在せず、攻撃される領域を狭める努力をするしかない」と説明。特にソフトウェアの脆弱性については、時間とともに必ず発見されると説明する。これはLinus Torvalds氏の有名なコメント「given enough eyeballs, all bugs are shallow」に対するやんわりとした否定とも言えるだろう。特にソフトウェアは金庫に保管してある金の延べ棒ではなく、どちらかと言えば倉庫に置かれているレタスのように時間とともに腐ってしまうモノだというのが強烈だ。つまり攻撃を試みる人間にとっては、どんなソフトウェアでも対象となり、時間の経過によって些細なバグも発見されてしまうと説明した。

ここから3つの攻撃の対象について解説を行った。最初はLLMの実装として最近、非常に注目されているChatGPTだ。

ChatGPTが攻撃に使われることを解説

ChatGPTが攻撃に使われることを解説

ここではAIによって生成されたコメントやプルリクエストを使った攻撃などが例として挙げられている。ChatGPTやGitHubのCopilotはコードを補完するツールとして評価されているが、これは裏を返せば悪意を持った攻撃者が使えば攻撃のツールとしても使えてしまうことを表しており、良い面だけではなく悪い方向に使われてしまう可能性を解説した。

Brian Behlendorfと同姓同名のアカウントを使って攻撃?

Brian Behlendorfと同姓同名のアカウントを使って攻撃?

ここでは同姓同名のGitHubアカウントを表示して、このようなケースでは管理者が注意していても攻撃のための隙間となってしまうことを説明した。ここでは直接的に「given enough eyeballs, all bugs are shallow」を引用して、これが有効になるためにはより多くのeyeballが必要となると語った。

ユーザーとデベロッパーの認識の違いも攻撃に使われる

ユーザーとデベロッパーの認識の違いも攻撃に使われる

このスライドではユーザーとデベロッパーの認識の違いが予期せぬ事態を発生させてしまうとして、ここにリスクが存在することを説明。具体的にはユーザーはオープンソースのデベロッパーが即座にバグの修正を行ってくれると期待し、デベロッパーはバグや脆弱性などのリスクが発生することを理解して使ってくれると思っているという部分だろう。

ここまででBehlendorf氏が考えるこれから起こり得るリスクについて説明を行い、この後、OpenSSFの活動を総括して紹介。ここではBehlendorf氏がリスクとして挙げたAIを使った攻撃についてはまだ具体化されていないが、リスクとして挙げたAIを使った攻撃の対策についても活動を始めることをコメントしてセッションを終えた。

OpenSSFのさまざまなプロジェクトの概要を紹介

OpenSSFのさまざまなプロジェクトの概要を紹介

Behlendorf氏の次はSysdigの創業者でCTOのLoris Degioanni氏の短いセッションがあった。それに続いて登壇したIsovalentのChief Open Source OfficerのLiz Rice氏のセッションを紹介する。

IsovalentのLiz Rice氏がeBPFを紹介

IsovalentのLiz Rice氏がeBPFを紹介

今回のセッションは、スターウォーズを題材にした名前のリソースを使ったKubernetesクラスターに対してポリシーの適用、トラフィックの可視化などを、スクリーンショットを使って解説する内容だ。

Grafanaのダッシュボードからトラフィックを可視化

Grafanaのダッシュボードからトラフィックを可視化

Rice氏のセッションはKubernetesクラスターにおいてeBPFを使ったオープンソースソフトウェアがどのように使えるのかを見せることが目的であり、所属するIsovalentが開発をリードするCilium、TetragonそしてSysdigが開発したFalco、New Relicが2020年に買収を発表したPixieなどを紹介。

Pixieを紹介

Pixieを紹介

Pixie公式サイト

Falcoでルール違反を検出

Falcoでルール違反を検出

Falco公式サイト

Tetragonを紹介

Tetragonを紹介

Tetragon公式サイト

それぞれのツールにはオーバーラップはあるものの、カーネルを書き換えることなくsyscallイベントをきっかけに、さまざまなロジックをアプリケーションからセキュアに呼び出せることでクラウドネイティブなシステムにおいては今最も注目されている技術であることには間違いない。

Behlendorf氏がSigstore以外はトレンドと新たなリスクについて語ったのとは対照的に、具体的にKubernetesの上のeBPFに特化していたのが印象的な対比だった。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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