KubeCon NA 2022、日本人参加者による座談会でWebAssemblyの未来を読む

2023年3月10日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
KubeCon NA 2022に参加した日本人エンジニアに集まっていただき実施した座談会のようすを紹介する。

KubeCon + CloudNativeCon NA 2022は、パンデミック発生以来久しぶりに多くの参加者を集めたカンファレンスとなった。実際、前回のバレンシアではほとんど見つけられなかった日本からの参加者も複数確認することができた。今回はそんな参加者を集めて行った座談会の一部を紹介する。会期の最終日、閉会後の会場内のカフェテリアという限られた状況の中、参加してくれたのは、ソフトバンクコマース&サービスの加藤学氏、ドコモイノベーションズの守屋裕樹氏、NTTの須田瑛大氏、サイバーエージェントの中西建登氏、同じく青山真也氏、F5ネットワークスの中嶋大輔氏だ。

自己紹介と今回のカンファレンスの印象を簡単にお願いします。

加藤:私は主に事業開発をやっているんですが、今回はDevOpsやソフトウェア開発ツールの商談にきました。今回初めて参加したんですが、なかなかインフラよりで個人的には難しい内容だったなと。

IsovalentのLiz Rice氏(右)と一緒の加藤氏(右から2番目)

IsovalentのLiz Rice氏(右)と一緒の加藤氏(右から2番目)

商談っていうのはなかなかKubeConでは聞かない単語ですね(笑)

加藤:そうですね(笑)ソフトバンクのパートナー各社が集まってますので話がしやすいんです。セキュリティの訴求をしているベンダーがすごく多かったと思いますが、そんな中でもGoogleが発表したGUAC(Graph for Understanding Composition)はサプライチェーンセキュリティの中では目新しい動きだと思います。SLSAとSBoMを一緒にやるっていうツールらしいですけど。

●参考:Announcing GUAC, a great pairing with SLSA (and SBOM)!

守屋:私はドコモイノベーションズ所属で今はUSに駐在しています。これまではAWS関連のビジネスに関わってきて、アメリカに来てから本格的にKubernetes関連に関わり始めた感じです。なのでAWSのコミュニティというかカンファレンス、re:Inventには慣れていたんですが、KubeConはだいぶようすが違うと感じました。まず何よりユースケースが少ない気がします。ただコミュニティが重要、コントリビューションが必要だというのは繰り返し聞かされたので、その部分は理解したつもりです。やはりベンダーが主導のカンファレンスとは違うということですね。とにかくコードを書かなくてもドキュメントでも良いから貢献して欲しいと。

Helmのマスクを付ける守屋氏

Helmのマスクを付ける守屋氏

それはキーノートのPriyankaのメッセージでもありましたよね。コントリビューターが大事っていう。ちゃんと伝わってますね(笑)

須田:NTTの須田です。これまでコンテナランタイムとかルートレスコンテナ関連の仕事をしてきました。プロジェクトとしてはMobyとかcontainerdにコントリビューターとして関わってきていまして、今回は別のプロジェクトのProgram Committeeの一員としても参加しています。私が関わったプロジェクトなんですが、キーノートでCERNのRicardo Rochaがトークの中でstargzに触れてくれたのが嬉しかったですね。

stargzっていうコンテナのイメージ起動時に遅延してレイヤーをプルしてくる(Lazy pulling)プロジェクトですね。

●参考:須田氏がコントリビューションしているプロジェクト:https://github.com/containerd/stargz-snapshotter

須田:そうです。他にもData Dogのセッションでも関わっているルートレスコンテナの話に触れてくれたりしたので、その点については良かったなと。

だいぶマニアックな単語が出てきました。他にもThe Linux Foundationのイベント、Open Source Summitなどにも関わっていますよね。

須田:そうですね。

中西:社内向けのIaaS基盤の開発をやっています。私は2019年の新卒入社なのでこういう大規模なカンファレンスには初参加なんですよ。ずっと参加したいと思ってたので実現してよかったです。今回はネットワーク関連のセッションをいろいろと聴いてました。CiliumとかeBPFが盛り上がっている感じはしましたね。その中で仮想化のネットワークのオーバーヘッドをどうするのか? みたいなセッションがあり、印象に残っています。仕事ではOpenStackにも関わっているので、その観点ではOpenStackが通った道をKubernetesも歩んでいる気がしました。

青山:普段は、社内のKubernetes基盤の開発をやっています。元々はインフラ運用チームだったんですが、今はSREとして開発も行っています。KubeConには何度か来てますね。

前列左から2人目が須田氏、その後ろが中西氏、前列右端が青山氏

前列左から2人目が須田氏、その後ろが中西氏、前列右端が青山氏

中嶋:F5 ネットワークスの中嶋です。ソリューションアーキテクトをやっています。以前は、Juniper、Volterraで働いていました。VolterraがF5に買収された関係で今はF5です。Kubernetesを使ったサービス基盤をVolterraでやっていて、そのつながりもあってF5でもやってるっていう感じです。私も久しぶりに大きなカンファレンスに来たって感じですね。視野が広がって良かったです。エッジにコンテナを入れるみたいな話が結構あって、ビッグプレイヤーがだんだんそこに入ってきてる感じですね。

SWAGのKubernetesのトートバッグを手に持つ中嶋氏

SWAGのKubernetesのトートバッグを手に持つ中嶋氏

エッジについてはOpenStackでも苦労してましたね。ベンダーごとに定義が違うので、議論が始まるまでに2時間は定義の話で紛糾しちゃうっていう。

中嶋:その意味ではCNCFがエッジの定義をちゃんとやってくれているので、その部分ではモメないんじゃないですかね、今は(笑)

そういえばCiscoのStephen Augustusが新しくなんとかClarityっていうのを出してきました。それについては?

中嶋:あれはOpenClarityっていうブランディングですよね。その実装としてAPI Clarity、KubeClarity、FunctionClarityっていうのを出してきた。あれもおもしろそうですね。でもどうなるのかは、まだわからないですね。SDNの観点から言えば、ちょっとやりづらい感じですね。プラグインで拡張するみたいなところからベンダーとしては仕事が始まる感じなんですけど、Kubernetesに関して言えば低レイヤーの部分にあまり価値が見い出されてないというか、ベンダー側の出番がない気がしますね。

●参考:OpenClarity

加藤:ネットワークという部分ではIsovalentのブースには人が集まってましたね。eBPFのネットワークスタックであるCiliumの開発元だからでしょうね。

他に気になった部分はありますか?

加藤:オブザーバービリティについてはすごく多くのベンダーがブースで訴求していましたね。50くらいはあったんじゃないですか。みんな可視化を訴求してる。次に多かったのはセキュリティ関連のベンダー。デベロッパー向けのセキュリティ関連のビジネスは盛り上がっている感じはありましたね。

可視化、オブザーバービリティについてはベンダーが多過ぎて書く側が大変なんですよね。そろそろ統廃合してくれないかなっていう。ところでWebAssemblyについて何かコメントはありますか? Dockerが久しぶりに盛り上がってますが。

加藤:かつてのJavaが盛り上がってるのと同じ感じがありますね。Dockerが出てきた時とも似てるかなと。その当時、コンテナを本気で使うなんて人はいなかったんですけど、今の状況になっているのはコンテナ界隈の人が盛り上げてくれたからだと思うんですよね。なのでWebAssemblyもそうなると良いなとは思います。

青山:WebAssemblyは盛り上がっているとは思いますけど、皆さんに聞きたいことがありまして、コンピューティングリソースとしてのWASMって来ると思いますか? つまりWASMをサーバープロセス、コンテナの代わりとして動かすっていうのはどうかな? ちょっとないかな? と個人的には思ってます。WasmCloudは端末側にもWASMのアプリケーション動かすみたいなこと言ってますよね。

中嶋:使い分けだと思うんですよね。エッジの中で使うとか5GのMECならアリだと思います。ネットでやるなら向こうのAPI叩けばいいんじゃないの? とは思います。今までの業界の例で「置き換える」って言い出すとだいたい変なことになるんですよね。マーケティング的に言いたいのはわかりますけど。仮想マシンもコンテナも使えてその追加としてWASMがあるっていうので良いんじゃないかなと。

須田:なんでWASMにしないといけないかが弱い気がしますね。サイズとかセキュリティとか言ってますけど、サイズだったらディストロレスにするとかセキュリティならgVisorとかFirecrackerでもできるし、Linuxコンテナのエコシステムのほうが今はまだ良くできているとは思います。

青山:エッジならアリかなとは思うんですけど、置き換えるのではなくて機能拡張のモジュールをWASMでやるっていうのは可能性があると思います。Envoyの拡張機能がWASMで実装するとかそういう例が出てますよね。

●参考:EnvoyのHTTPフィルターをWASMで実装:https://www.envoyproxy.io/docs/envoy/latest/configuration/http/http_filters/wasm_filter

KubeCon NA 2022は初めての参加者が多いという状況で、参加者側も新陳代謝が行われていることが感じられたカンファレンスとなった。例年、日本から参加していたエンジニアも入れ替わっているようで、前回のバレンシアの時の座談会と今回で重複して参加してくれたのは、青山氏だけということになる。時間が許せば、もう少し広範なトピックについて語ってもらいたかったところだ。

営業を終了したカフェテリアで座談会を行っているようす

営業を終了したカフェテリアで座談会を行っているようす

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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