ヨーロッパ最大のテックカンファレンスKubeCon Europe 2023の共催イベントのWASM Dayを紹介

2023年7月14日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
参加者16000人を集めたKubeCon Europe 2023からの共催イベントとして前日に行われたWASM Dayを紹介する。

KubeCon+CloudNativeCon Europe 2023から、前日に行われたCloud Native WASM Dayを紹介する。今回のKubeConのトピックとして挙げられていたWebAssemblyとeBPFだが、前日に行われるWASM Dayも前回のKubeCon NAと比較して規模も大きくなり、ソールドアウトとなるほど注目が集まっていた。

WASM Dayの動画は以下のプレイリストを参照して欲しい。

●動画:Cloud Native Wasm Day Europe 2023

オープニングはKelsey Hightower氏登場

オープニングのトークで招かれたのはGoogleのKelsey Hightower氏だ。約7分のトークでスライドも使わずに新しいコンピューティングモデルについて語り、今やコンテナのオーケストレーターではデファクトスタンダードとなったKubernetesの隆盛を助けた一人として、WebAssemblyについてコメントした。特にKubernetesがデファクトスタンダードとなった時の教訓として「Winner takes All(勝者がすべての利益を得る)」ではなく「Winner takes All the burden(勝者がすべての負担を背負う)」になってしまったことを認め、その間違いを繰り返さないで欲しいと語った。これはWebAssemblyのコミュニティが多くのランタイムを包含し、エコシステムが自然に拡大するように仕向けていることと同期する教訓かもしれない。

オープニングに登場したGoogleのKelsey Hightower氏

オープニングに登場したGoogleのKelsey Hightower氏

その後、DockerやCosmonic、Fermyon、Cisco、Shopify、Adobe、Microsoftなど錚々たるベンダーのエンジニアによるセッションが行われた。ここでは、WebAssemblyのコンポーネントモデルについてのセッションと題しながらCyber Resiliency Actについて語ったFermyonのTill Schneidereit氏について簡単に触れたい。

CRAの危機感を訴えたFermyon

Cyber Resilience Actの危険性を強調するFermyonのTill Schneidereit氏

Cyber Resilience Actの危険性を強調するFermyonのTill Schneidereit氏

Schneidereit氏はWebAssemblyのコンポーネントモデルについて語るというセッションタイトルとは裏腹に、現在EUで検討が続いているCyber Resilience Actの危険性について語り、これまでのライセンスで「ソフトウェアに瑕疵があっても保証しない」という宣言はもう使えなくなる時代が来ると警告した。それに「『どうやって対処するべきか?』については答えを用意していない、もっと議論を続けよう」と語ってステージを降りた。このCRAについては、OpenSSFのBrian Behlendorf氏もコミュニティはCRAについてもっと声を挙げようと促していたように、オープンソースコミュニティにとっては大きな脅威であることは間違いない。

WebAssemblyの現在・過去・未来を語ったCosmonic

もう一つ、ミニカンファレンスのメインスポンサーでもあるCosmonicのBailey Hayes氏のセッションを紹介する。これはHayes氏の経験からユニバーサルなコンピューティングモデルに向かうWebAssemblyの過去を振り返りつつ、「Write Once, Run Everywhere」の思想を実現するものとしてのWebAssemblyとその先にあるコンポーネントモデルについて概略を説明するセッションだ。

WebAssemblyの進化について解説するHayes氏

WebAssemblyの進化について解説するHayes氏

●セッションの動画:Evolution of Wasm: Past, Present, Future - Bailey Hayes

Hayes氏はJavaScriptからCなどで書かれたコードを実行する仕組みとしてのasm.jsを紹介した後に、ゲーム開発にasm.jsが使われてきたことを、例を挙げて説明。WebAssemblyの前身としてのasm.jsがWebAssemblyとして進化した経緯を解説した。ここではWebの4つ目のプログラミング言語として採用されたことを強調した。他の3つはHTML、CSSそしてJavaScriptだ。

WebAssemblyの過去を振り返る

WebAssemblyの過去を振り返る

そこからWebAssemblyがコンパイラーのターゲットフォーマットとなったこと、WebAssemblyから外部のアクセスが基本として無効化されていることを説明し、その後にシステムへのアクセスする手法としてWASI(WebAssembly System Interface)を説明した。そしてBytecode Allianceの結成、MicrosoftのフライトシミュレーターでWebAssemblyが採用されていること、さまざまなアーキテクチャーのシステムでの互換性について説明を行い、WebAssembly Interface Types(WIT)について説明を行った。

モジュール間のインターフェースを定義するWITの説明

モジュール間のインターフェースを定義するWITの説明

次に説明を行ったのはWebAssemblyの大きなトピックであるコンポーネントモデルだ。

さまざまな言語で書かれたモジュールを連携させるコンポーネントモデル

さまざまな言語で書かれたモジュールを連携させるコンポーネントモデル

ここでHayes氏はLog4Jの脆弱性について触れ、それぞれのプラットフォーム、OS、バージョンなどについて各々のモジュールに対して修正を行うよりも、共通のモジュールとして開発されたコードにパッチを適用することで多くの工数を省くことができるとしてその意味を説明した。

コンポーネントモデルで多くの無駄な労力が解消される

コンポーネントモデルで多くの無駄な労力が解消される

この説明は一つのモジュールがさまざまなアーキテクチャーのシステムで実行可能であるという前提に成り立っており、WebAssemblyがその役割を担うという意味だろう。コンポーネントモデルについてはここからさまざまな議論や試行錯誤を経ていくことが予想される。まだ概念に近いものを感じる内容だが、これからの進化に期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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