KubeCon Europe開催、16000人が参加し、ヨーロッパで最大のテックカンファレンスに
クラウドネイティブなシステムに特化したカンファレンス、KubeCon+CloudNativeCon Europe 2023がアムステルダムで2023年4月18日から21日の4日間に渡って開催された。参加者の内訳は対面が10,507人、オンライン配信が5585人と合計で16,092人を集め、ヨーロッパで開催された最大のテックカンファレンスとなったと発表された。パンデミックの影響でここ数年は大規模なカンファレンスが抑制されてきたが、今回は新型コロナに関する制限が緩和され、現地ではワクチン接種の証明を行う必要もなくなり、会場においてもマスク着用は義務ではなくなっていた。
会期は19,20,21の3日間だが前日の18日にはCo-located EventとしてLinkerd DayやCloud Native WASM Day、OpenShift Commons Gatheringなどのプロジェクトに特化したミニカンファレンスが行われていた。本稿では3日間の朝一番に行われたキーノートセッションを紹介する。
例年であればExecutive DirectorのPriyanka Sharma氏がオープニングを行うはずだが、そのShrarma氏はビデオメッセージで出産間近であり外渡航を控えていると伝えた。そして続いて登壇したのはCNCFのCTO、Chris Aniszczyk氏だ。Aniszczyk氏は、KubeConの対面の参加チケットが売り切れたこと、参加者の半数以上が初めての参加であることなどの数値を使ってカンファレンスの概要を紹介。来年のKubeCon Europeがパリで2024年3月19日から21日まで開かれること、CNCFのプロジェクトに参加するコミュニティメンバーも拡大しており、すでに50,000人以上が参加していることなどを説明した。
この後はスポンサーによる短時間のトークの後、新たにエンドユーザーとして加わった企業を紹介するセッションがあった。その中でKubeCon Europeの直前にCNCFのゴールドメンバーとして加わった日立製作所の中村雄一氏が登壇するシーンもあった。
メルセデスベンツテックイノベーションはメルセデスベンツグループのITを担当する企業で、Allianzはドイツの保険会社、LunarはスカンジナビアのオンラインバンクでLinkerdを使ったユースケースとしてCNCFのサイトで公開されている企業だ。
●参考:How Kubernetes and Linkerd became Lunar's multi-cloud communication backbone
日立はエンドユーザーという立場ではなく新たにゴールドメンバーとして加わったこと、KeycloakというID管理のためのオープンソースプロジェクトの主要な開発メンバーであり、KeycloakがCNCFのインキュベーションプロジェクトになったことが評価されて、壇上で紹介されたと言うことだろう。
この日のテクニカルな話題という点で、スポンサー枠でRed Hatが言及したKeplerを紹介しよう。
KeplerはIBMリサーチとRed Hatが開発するKubernetesの消費電力をPodレベルで計測するオープンソースソフトウェアで、Kubernetes-based Efficient Power Level Exporterの略だという。内部でeBPFと機械学習を使っているのが目新しい。
またMicrosoftもKEDAをベースにした二酸化炭素の排出濃度に応じてKubernetesをスケールさせるソフトウェアの紹介を行っていた。
CNCFのプロジェクトアップデートも行われたが、ここではこの日にプレス・アナリスト向けのブリーフィングで話されたトピックについて紹介しよう。
これはEUが予定しているCyber Resilience Act(CRA)について、OpenSSFのCTOであるBrian Behlendorf氏が発表したもので、キーノートでは3日目の最後のセッションの中で簡単に触れられていたものだ。CRA自体はEU内で利用されるソフトウェアについて責任保証を求めることを含んでおり、バグなどが発生しても責任は負わない、利用する側がそれを負担、つまり利用者責任であることを前提とするオープンソースソフトウェアにとっては非常に困難な条件を突き付けている。これに対してコミュニティは声を挙げよう、反対しよう、という内容だ。
オープンソースソフトウェアを管理する団体はCNCF、The Linux Foundationだけではなく多く存在するため、CNCFが音頭を取ってCRAを含むさまざまな問題について一堂に会して話し合おうというカンファレンスも行われることがプレスブリーフィングで発表された。
2日目のキーノートはAWSやCiscoなどのスポンサーセッションに加えて、プロジェクトのアップデートをCERNのRichardo Rocha氏が行った。そのうちのTechnical Advisory Groupに関する内容の中で、WebAssemblyに関して新たにワーキンググループを作ることが提案されているということが明らかにされた。
3日目のキーノートではVeritas、SUSE、Huaweiなどのスポンサーに混じってSPIFFE/SPIREのコミッティメンバー、Frederick Kautz氏のゼロトラスト論、Ciscoのリアルタイムメディアストリーミングのセッションに加えて、久しぶりにKubeConに戻ってきたHuaweiが自社のクラウドサービスの概要を紹介。
Bill Ren氏のタイトルはChief Open Source Liason Officerというもので、Huaweiのオープンソースへの関わり方を語る立場にいる人物ということだろう。Ren氏はプレス向けのブリーフィングやブースにも登場し、積極的にHuaweiのオープンソースへの取り組みを訴求していた。
Ren氏のトークはHuaweiのソフトウェアスタックを簡単に紹介するものだったが、「WASM is the hot newness」やRustで書かれたフレームワークなどがスライドに中に散見されていることから、最新のテクノロジーについても取り組んでいることが伺える内容となった。
Kuasarというプロジェクトについてマルチサンドボックスコンテナランタイムと書かれているスライドを使用し、ここではRustを使ってサンドボックスを使っていることを紹介。Rustについても取り組んでいることを紹介した。
この後、ShopifyのAparma Sabramanian氏が自社のユースケースについて簡単に解説して、最後のエンドユーザーアワードに移った。今年のアワードはメルセデスベンツテックイノベーションだった。
全体としてかつての賑わいが戻った雰囲気でスポンサーも多数参加し、プロジェクトのアップデートも駆け足気味、ショーケースのブースも新しいベンチャー含めて大盛況、そしてロシアによるウクライナ侵攻への言及はなく、パンデミックとウクライナ侵攻が始まる前に戻ったことを意識させる内容となった。ただ、コストカットは歴然としており、参加者全員参加のパーティはなくなりメディアやアナリストの数も減っていたようだ。
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