クラウドネイティブ化を成功させる移行パターン、カギは考え方のシフト

2024年10月9日(水)
木村 慎治
CloudNative Days Summer 2024から、クラウドエース株式会社の水野 拓海氏による「クラウドネイティブ化は本当に必要なのか? ~移行パターンと成功のポイント~」と題したセッションを紹介する。

2024年のCloudNative Days Summerでは、クラウドエース株式会社のシニアスペシャリストである水野 拓海氏が「クラウドネイティブ化は本当に必要なのか? ~移行パターンと成功のポイント~」と題したセッションを行った。クラウドネイティブ化のメリットや移行手法、成功のためのカギを探るこのセッションでは、クラウドネイティブ化を成功させるために必要な考え方のシフトが提案され、技術者が直面する課題やビジネス要件に基づく移行戦略の選択について、具体的な指針が示された。

クラウドらしいクラウドネイティブ化の必要性

水野氏はセッションの冒頭で、クラウドネイティブ化の意義を強調した。「クラウドネイティブ化は、単なる技術的な選択ではなく、レガシーシステムが抱える問題を解決し、ビジネスの変化に迅速に対応するための重要な手段です」と語った。多くの企業がクラウド利用を進めているが、クラウドネイティブ化が必要になる背景には、既存のレガシーシステムがビジネス要件に追いつけないという現実がある。

「レガシーシステムは、新しいビジネス要件に適合できないことが多いです」と水野氏は説明し、クラウドネイティブ化の主な動機として、ビジネスのアジリティ(柔軟性)向上や保守性の改善、さらにセキュリティやコスト削減の必要性が挙げられた。クラウドネイティブ化は、これらのビジネスニーズに応えるために不可欠な手段となっている。

さらに、DORA(DevOps Research and Assessment)が実施した調査結果を引用し、クラウドらしいクラウドネイティブな構成にした方が、パフォーマンスが30%向上することが明らかになっていると紹介した。この調査結果は、クラウドネイティブ化が単なるクラウド利用を超えて、組織全体の効率化に繋がることを示している。

「クラウドネイティブによるパフォーマンス向上」

「クラウドネイティブによるパフォーマンス向上」

水野氏はクラウドネイティブ化を推進する際に生じる「認知負荷」にも言及した。「クラウド利用による恩恵は大きいですが、認知負荷が増大すると、その効果を打ち消してしまう可能性があります」と指摘した。認知負荷とは、新しい技術やシステムを導入する際に、エンジニアが学習や管理に費やす労力のことであり、これが増えすぎるとシステム全体のパフォーマンスにも悪影響を与えてしまうという。

「オンプレミスの運用方法をそのままクラウドに適用すると、クラウドの恩恵を得る代わりに、認知負荷が増えるだけになりかねません」と水野氏は警鐘を鳴らした。これは特に、従来の運用プロセスをそのまま新しいクラウド環境に持ち込んでしまった場合に発生するリスクである。クラウドネイティブ化においては、新しい技術の導入だけでなく、それに伴う文化や運用体制のシフトも不可欠であるという。

このように、クラウドネイティブ化の必要性は、ビジネスの成長に伴う要件変更や、システムの複雑化による認知負荷の増加と密接に関連している。クラウドネイティブな技術を正しく活用することで、これらの課題を解決し、ビジネスの柔軟性を高めることが可能であると水野氏は語った。

クラウドネイティブ化への移行パターン

クラウドネイティブ化の移行には、主にリプラットフォーム、リビルド、リプレイスの3つのパターンが存在するという。これらの移行プランからどれを用いるのかは、ビジネスニーズに応じて適切に選択する必要があると水野氏は語った。

「クラウドネイティブ化のプラン」

「クラウドネイティブ化のプラン」

リプラットフォームは、最もリスクが少ない移行方法であり、実行環境を新しいものに移行する際に、アプリケーションコードの変更を最小限に抑える方法である。「リプラットフォームは、現状のシステムを維持しつつ、クラウドの利点を享受できる手法です」と水野氏は説明した。これは既存のビジネス要件に大きな変更がない場合や、定期的なリファクタリングが実施されているシステムに適している。ただしリプラットフォームが適さないシステムもあり、とくにスパゲッティコード化している場合は、この方法が逆効果になる可能性があるとも指摘した。

リビルドは、既存のビジネス要件を維持しつつ、アプリケーションをゼロから再設計・構築する方法である。「リビルドは、システムの柔軟性や保守性を向上させるだけでなく、セキュリティリスクやコンプライアンスの強化にも繋がります」と水野氏は語った。リビルドには高い移行コストが伴うが、システムの運用効率が大幅に向上するため、長期的には大きなメリットを享受できるとした。

最も包括的な移行方法であるリプレイスは、ビジネス要件の再定義とシステム全体の再構築を伴う方法である。「リプレイスは、ビジネスの目標と直結する最も効果的な方法ですが、同時に最もコストがかかるアプローチです」と水野氏は説明し、ビジネス上の優先事項に応じた意思決定が重要であると強調した。リプレイスは、ビジネスの変革を支えるために必要な柔軟性を確保し、競争力を維持するための手段として考慮すべきである。

クラウドネイティブ化の成功ポイント

クラウドネイティブ化のプロジェクトを成功させるためには、技術的な要素だけでなく、ビジネス視点を持つことが不可欠である。水野氏は成功のためのポイントとして、まず「モダナイゼーションが目的になっていないかを確認することが重要です」と強調した。「モダナイゼーションは、あくまでビジネス課題を解決するための手段であるべきです。目的と手段を取り違えてはいけません」と説明し、モダナイゼーションが自己目的化しないように注意すべきだと語った。

「確認ポイント」

「確認ポイント」

またプロジェクトを進行する上で「ものさし」を持つことが重要だと述べた。この「ものさし」とは、プロジェクトの評価基準や進行度合いを定量的に管理するための指標である。水野氏は「評価基準を持ち、現在の状況を把握し、ゴールを明確にすることが大切です」と語った。前述したDORAにおけるソフトウェアデリバリーの評価軸として、変更リードタイム、デプロイ頻度、障害発生率などがあり、これらを管理することでプロジェクトの成功を確実にする。

さらに長期的な視点を持つことも重要である。クラウドネイティブ化は短期的な成果を求めるのではなく、柔軟なインフラを構築し、ビジネスの変化に対応できる基盤を作ることが目的である。水野氏は「長期的な視点を持ち、柔軟に対応できる体制を整えることが、クラウドネイティブ化の成功のカギです」と言う。とくに未知の課題や将来的なビジネス変化に対する柔軟性が求められるため、短期的なコストや労力にとらわれず、長期的なビジョンを持つことが求められる。

クラウドネイティブ化における考え方のシフト

クラウドネイティブ化の成功には、単に技術的な導入だけでなく、考え方のシフトが必要である。水野氏は「オンプレミスの運用方法をそのままクラウドに持ち込んではいけません」と強調した。「クラウドネイティブなシステムは、疎結合アーキテクチャやサーバーレスなどの新しい技術を最大限活用することで効果を発揮します」と続け、クラウド環境に適した設計や運用が必要であると述べた。

具体的なアプローチとして、サーバーレスの導入やゼロトラストアーキテクチャの採用が挙げられる。これらの技術は、従来のIaaS(Infrastructure as a Service)モデルとは異なり、運用の簡素化とセキュリティ強化を両立させるものである。

「サーバーレスは、必要なときだけリソースを利用し、運用コストを削減することが可能です。とくに負荷が不規則なシステムにとって大きなメリットがあります」と水野氏は言う。

さらに、ゼロトラストアーキテクチャにより、ネットワークセキュリティの管理がクラウドに適応した形で進化することが強調された。「クラウドネイティブな環境では、内部ネットワークを信用せず、すべてのリソースに対して認証と認可を行うことで、セキュリティの強化を図ることができます」と説明した。これにより、従来のオンプレミスのような内部ネットワークの信頼に依存せず、セキュリティリスクを最小限に抑えることが可能である。

成長を支える基盤として、重要性を増すクラウドネイティブ

クラウドネイティブ化は、単なる技術のアップデートではなく、ビジネス成長を促進するための戦略的手段である。セッションを通じて、クラウドネイティブ化がビジネスに与える影響や、適切な移行プランの選択、成功に必要な考え方のシフトが明確に示された。リプラットフォーム、リビルド、リプレイスの3つの移行パターンを適切に選択し、長期的な視点でビジネスと技術の両方を考慮することで、クラウドネイティブ化は組織全体のパフォーマンスを向上させる。

「クラウドネイティブ化は、ビジネスの柔軟性を高め、変化に迅速に対応できる体制を構築するための重要な手段です」と水野氏が語るように、今後ますますクラウドネイティブ化は企業の成長を支える基盤として、その重要性を増していくだろう。

IT系出版社にて雑誌、Webメディアの編集職を経て、2011年からフリーランス。IT系の雑誌やWebメディア、ベンダーのWebサイトなどで事例紹介・製品サービス紹介記事などの執筆、編集、企画を中心に活動。ITソリューション、データセンター、ネットワーク関連を中心に多くのITベンダー、ユーザー企業を取材、執筆を行っている。

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