AIは「効率化のツール」から「価値創造の源泉」へ ――ファインディが示す2027年“ものづくり”トレンドと新ビジョン
AI活用は「業務の効率化」から「価値創造の源泉」へ。エンジニアの転職支援で知られるファインディが示す、2027年の「ものづくりトレンド」と、それらに向けた新たな同社の事業戦略を紹介する。
6:25
企業のAI活用は「まず使ってみる」段階を過ぎた。すでに大手企業でも8~9割のエンジニアが日常的にAIを利用しているという。だが一方では、AIを導入した企業すべてが成果を挙げているわけでもない。
ファインディ株式会社は、独自に蓄積してきた調査データをもとに、2027年の“ものづくり”を左右する5つのトレンドを予測。またそれを踏まえ、事業開始10年を機としたコーポレートビジョンの刷新や、フィジカルAI領域への参入などの新たな取り組みを打ち出した。このレポートでは、代表取締役 山田裕一朗氏の発表をもとに詳しく紹介する。
AI駆動開発は「伸びる企業」と「停滞する企業」に二極化
山田氏はまず、2026年に企業のAI活用が「AIを活用する」段階から「AIを前提として、ビジネスモデルや人材要件、業務プロセスなど組織のあり方を変える」段階へ移ったと総括。そのうえで、2027年のものづくりにおける重要テーマとして「AI駆動開発」「AI投資」「サービス設計」「エンジニア採用」「フィジカルAI」の5つを挙げる。
まず「AI駆動開発」だ。ここでは、伸びる企業と停滞する企業の二極化が開発資本力の差によって進むと山田氏は予測する。
同社が運営する開発ツールのレビューサイト「Findy Tools」の会員を対象に行った2026年6月の会員アンケートでは、開発業務でのAI利用率は9割を超え、コードの75%以上をAIで作成するエンジニアも約6割に達しているという。
一方で、開発生産性プラットフォーム「Findy Team+」から得られたデータは、そのAI活用の広がりが、必ずしも成果に直結していない事実も浮き彫りにする。というのも、AIを活用したプルリクエスト(PR)の比率は4割強まで高まってはいるが、エンジニア1人あたりの月間PR作成数はほぼ横ばいだったからだ。
「これは、私たちにとっても衝撃的でした。当社が企業向けに実施した別の調査では、8割強が『アウトプットが増えた』と答えていたからです。しかし実際には活用イコール成果ではない。つまりAIに払うコストは増えているのに、アウトプットの量は必ずしも増えていないのです」(山田氏)
「開発資本力の差」がAI活用による成果の明暗を分ける
この「活用イコール成果ではない」理由を、同社 取締役 CTOの佐藤将高氏は「レビュー工程への負荷の集中」だと指摘する。AIでコードを書く前工程は速くなったが、その分、意図が十分に伝わらない変更がレビューに回ると、結果的に確認のためのやり取りが増える。
「最初のソースコードができあがるのは早くなっても、そこで節約できた時間が、後ろの工程の確認作業に取られてしまい、最終的にトータルでは従来と変わらないか、もしくはそれ以上に時間がかかってしまうのです」(佐藤氏)
もちろん本当に生産性を上げ、成果も確実に挙げている会社もある。では、いったい何が両者の明暗を分けるのか。山田氏はそれを「開発資本力の差」だと示唆する。ここでの「開発資本力」とは、技術基盤やナレッジ、ルール、開発文化、それを担う人材まで含めた、いわば「組織が持つ開発の基礎体力」の総称と言えるだろう。
「AIは、いうなれば開発資本力の『増幅器』です。もともと生産性が高い会社にはプラスに作用しますが、それを阻害する要因のある環境では、反対に負債=マイナス要因の再生産につながりかねません」(山田氏)
山田氏は、開発資本力として4つの具体的な項目を挙げる。①統一アーキテクチャやテストコードなど、AIの有無にかかわらず必要な「技術的な土台」 ②PRやイシューを適切な粒度に切り分け、レビューを滞りなく回せる「開発文化」 ③AIが出力するコードに対する、コーディング規約やルール定義などの「ガードレール」 ④AI SkillやPluginを用いてAI活用を加速させる「組織への横展開」という4段階で、なおかつこの順番で積み上げていくことが重要だという。
また企業規模別に見ると、スタートアップや中小企業では1人あたりPR数が増加傾向にある一方、大手企業はやや減少傾向にある。ここでは前者の「小さく早く作る」アジャイル的な開発文化が有利になり、外注やレガシーコードが多い後者では「むしろ生産性が下がってしまい、AIのコストだけが積み上がってくる」(山田氏)からだ。ただし大企業でも、研究開発や新規事業など小回りの利く部門は効率化を実現している例が少なくないという。
AI投資は「とにかく使う」から「最適化」へーRoAIが問われる1年に
2つ目の「AI投資」では、2027年は“RoAI”(AI投資に対する成果)が強烈に求められる1年になると、山田氏は予測する。これまでは、とにかくAIを使ってみるために、トークンに糸目をつけない「トークンマキシング」が推進されてきた。それが2026年春頃からは、タスクごとに最適なAIを選ぶ「トークンマネジメント」へと切り替える企業が出てきたのだ。中には、シニア層のエンジニア以外の利用を制限する動きもあるという。
この変化の背景には、AIコストの急速な増大がある。利用が増えたことに加え、Claude Fableなど最新鋭のAIモデルはトークン消費量が多いことや、GitHub Copilotの従量課金への移行が拍車をかけた。ファインディ社内でも、従量課金に換算すると1人あたり月4,000ドルほどを使っているという。「人を1人採用すると、1人分ぐらいのトークンコストがかかるようになっています。2027年は、“RoAI”(AI投資に対する成果)を強烈に求められる1年になるでしょう」と山田氏は予測する。
3つ目の「サービス設計」については、「SaaSは死んだと言われたこともありましたが、結果として生き延びています。ただし、提供方法や価値は従前から変化している」と指摘する。例えば、人がUIを操作する形からエージェントに処理を指示する形へ、あるいは、人数課金から利用量や成果に応じた課金への変化などだ。また山田氏はLegalOn Technologies社やHubSpot社など国内外の新たな課金モデルを例に挙げ、今後は「SaaS」「受託」の双方で、AIを前提とした提供形態の切り替えが進むと語る。
エンジニア採用は「シニア重視」へ、フィジカルAIは社会実装へ
ファインディの事業の本丸でもある、4つ目の「エンジニア採用」では、ベンチャーが採用を絞り、大手企業は積極的な採用を続けると予測している。AI駆動開発の成果でミドル〜ジュニア層の採用ニーズが一時的に下がり、AI投資増大などで利益確保の重要性も増したためだ。ベンチャー企業が多い同社顧客を対象にした2026年3月の調査(157社)では、シニア層の採用に「かなり積極的」な企業が約7割に上る一方、ジュニア層や新卒では消極的な回答が目立った。
「多くのベンチャー企業が、『少数精鋭』採用にシフトしたのです。これまでの人材採用では、若手のニーズが強い傾向がありましたが、AIが本格的に普及した現在は年齢が高い人の方がニーズが高まりやすい」と山田氏は指摘する。
こうした変動を目の当たりにして、エンジニア側の不安も広がる。2026年7月のFindy Tools会員対象アンケート調査では、キャリアに対する不安があると回答した人が54.5%。また年齢別に見ると、30〜34歳では73.4%にも達したという。
この理由として山田氏は、「AIの恩恵」の差を挙げる。
「社内でもシニア層=エンジニアとして能力の高い人は全然不安じゃなくて、むしろこんな面白いものが出てきた、こんなふうに使おうという話ばかりしています。一方、ジュニア層は実務経験やコンピュータサイエンスの基礎知識がまだ少ないので、AI時代についていけるのかといった悩みを抱えているようです」(山田氏)
一方で、開発の内製化を進める大企業では、ベンチャーと同等の待遇や開発環境の求人が増え、「安定性」や「事業規模の大きさ」に優れる大企業への転職を前向きに捉える声も増えている。また大企業やSIerでも、業務でのClaude Codeの利用率(26.8%)がGitHub Copilot(22.9%)を逆転し、AI活用環境がベンチャーに近づいたことも追い風になっているという。
トレンド予測の最後、5つ目の「フィジカルAI」では、製造業を中心に社会実装が進み、ハードとソフトの垣根が一層下がると予測している。具体的には、経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が主導する「FRONTiaプロジェクト」など、国策レベルで国産マルチモーダル基盤モデルの開発が進み、一方では大手メーカーなどで研究開発以外のフィジカルAI領域のソフトウェアエンジニア求人も出始めている。
「2026年6⽉の Findy会員対象アンケート調査では、エンジニアがDeepTechで興味のある領域はフィジカルAI・ロボティクスが半数近くを占めトップでした。2027年は、AI×フィジカルの求人が大幅に増える可能性があると見ています」(山田氏)
新コーポレートビジョンは「人とAIで、つくる力を進化させる」
トレンド予測に続いては、「2027年トレンドを見据えたファインディの取り組み」として、5つの新しいプロジェクトが披露された。
まず1つ目は、「コーポレートビジョンの刷新」だ。山田氏はこの5年で、同社の事業がこれまでの「エンジニアの転職支援」を超えて、開発組織・プロダクトづくり全体の支援に広がったこと。またAIが実装・設計・調査・検証を支援・代替し、開発のあり方そのものが変わったことを挙げる。
これを踏まえてファインディでは2026年10月1日、コーポレートビジョンを「挑戦するエンジニアのプラットフォームをつくる。」から「人とAIで、つくる力を進化させる。Power to Engineering」へ刷新した。
2つ目は、「AI時代に求められる、ハイスキル人材マッチングの多角化」だ。正社員採用ではPdM(Product Manager)やFDE(Forward Deployed Engineer)などの職種や、内製化を進める大企業の求人に注力する。すでに2026年春からは、CTO経験者などの専門家を企業にマッチングする「Findy Expert」を提供し、資源系の大手企業やメーカーに内製化の知見を届ける事例も出ているという。
3つ目が、「フィジカルAI領域への参入」である。2026年7月には、この領域に特化したエンジニア向けキャリアサービス「Findy HardTech(ファインディハードテック)」を開始している。
またこれに先立って同年4月には、ソニーの100%子会社を前身とし、製造業のエンジニア・エグゼクティブ人材の紹介を50年以上手がけてきたキャリア・デベロプメント・アソシエイツ株式会社(以下、CDA)を完全子会社化した。CDA 代表取締役社長の田島康博氏は、グループ入りのきっかけを、山田氏が掲げる「技術立国日本を取り戻す」という思いがCDAの前社長の思いと同じだったことだと明かす。
AI投資の実態を数値化・可視化して「改善と成果」につなげる
取り組みの4つ目と5つ目は、トレンド予測で示した二極化とRoAIの課題に応えるものだ。
まず4つ目はAIコスト最適化サービス「Findy AI+」のβ版機能で、2026年12月にリリースが予定されている。AIコストの予実管理、チーム別のコスト効率、AIに任せたタスクや業務ごとのコストを一気通貫で把握できるようにし、AI利用状況の可視化から改善までを自動化するサービスへと進化させる。
最後の5つ目は、Findy Team+の新機能「開発資本スコア(β版)」で、2026年10月2日から提供が開始された。ハーネス整備度やAIコスト安定性など、AI時代に欠かせない5指標を追加し、開発資本を起点に組織・チームを分析できるUIへ刷新したという。
「この『開発資本スコア(β版)』では、これらの指標の数値をもとに自社がどの位置にあるかを確認し、実際のデータと突き合わせて改善活動をしていく。同時にAIの適用を他社と比較して、どれくらい達成できているかを見ていただくことが、もっとも重要なポイントになります」と山田氏は強調する。このβ版へのフィードバックをもとに機能を拡充し、2026年12月頃に正式版をリリース予定だ。
AIを導入しただけでは、成果は約束されない。今回ファインディが公開したデータは、確実な成果のカギは組織の土台と、それを使いこなす人であることを示している。説明会の締めくくりに「ファインディが中心に置くのは、これからも『人』です」と語る山田氏。事業開始から10年の節目を迎えた同社の新たなチャレンジに、引き続き注目したい。
この記事をシェアしてください
