分析やビジネスモデリングのためのソフトウエアパターン
アナリシスパターンは漢方薬!?
連載3回目の今回は、分析やビジネスのモデリングのためのパターンについて紹介したいと思います。M.ファウラーのアナリシスパターン、エリクソン・ペンカーらのビジネスモデリングパターン、そして最近注目されているPavel Hruby(パベル・フルービー)のREAビジネスパターンについてそのエッセンスをお伝えします。
分析というものは、業務領域(ビジネスドメイン)を理解してシステム化のために必要な業務の概念構造を抽出する作業ですが、それを支援するためにアナリシスパターンが提案されています。
ただし特定の業務分野ごとに整理してあるわけではなく、「組織構造と責任関係」「観測と測定」「コード体系・勘定と会計」「計画と実績」「取引とポートフォリオ」「派生商品」といった、ビジネスにおいて一般的なものごとのとらえ方をパターンとして抽出した形になっています。またGoFのデザインパターンのように、パターン名・状況・問題・解決策・結果といった定型的なフォーマットでカタログ化されているわけではなく、関連するパターンの説明がエッセー風にまとめられているので、問題にぶつかったときに調べてすぐに適用するというタイプのパターンにはなっていません。
どちらかと言うと、このパターンを理解しようと苦労した人に対してじわじわと漢方薬風に効いてくるものです。
またパターンの説明と並行して、ところどころに“モデリングの原則”が織り込まれていて、業務をモデル化する際の心得を学ぶことができますし、「最も頻繁に起こるモデルの変更が、最少のクラスの変更で済むようにモデル構造を作れ」「モデルを操作レベル(通常のオブジェクトの登場する世界)と知識レベル(いわゆるメタモデル)に階層化して管理せよ」……など、拾い読みするだけでも参考になります。
ただ設計レベルの原則も混在しており記述が体系的ではなく、中には「開閉原則」や「Liskovの置換原則」と似た指摘も混在しているので、R.マーチンの設計原則と合わせて再整理するとよいでしょう。
アナリシスパターンの例
ここでは、階層的な組織構造を組織変更にも柔軟に対応できるようにモデル化するためのアナリシスパターンとして「責任関係(Accountability)パターン」を取り上げます。
組織とは会社、部門、ポジションといったものの管理関係で構成されますが、部門の新設や吸収合併など、経年で少しずつ構造が変化していきます。そうした変化に柔軟に対応するための分析パターンがこの責任関係パターンです(図1-1)。パーティーというのは、組織と人をどちらもビジネス主体として対等に扱うためのクラスです。このモデル部分だけでも、ちょっとしたアナリシスパターンの一種として「パーティー(Party)パターン」と言っていいかもしれません。
責任関係パターンとは、組織階層関係を一般化したものです。この責任関係パターンの特徴は、実際の組織構造を表す操作レベル(具体的なオブジェクトレベル)とその構造の意味や制約を管理するための知識レベル(メタレベル)の2層のモデルを用意するというものです。
知識レベルにある責任関係型によって、操作レベルにおけるパーティー間の関係の妥当性を制約(委託者と責任者の対応関係)として保証するのです。オブジェクトレベルのパーティーの委任者と責任者は、メタレベルにある責任関係型の委任者および責任者が許容する者でなければなりません。
責任関係型に記された制約はパーティーが増減しても変わらないので、組織構造の変更はパーティー型や責任関係型のインスタンスやリンクの追加削除で対応します。このモデルを用いた実例として、「会社-部-コンサルタント」という階層構造のオブジェクトモデルを、図1-2に示します。
実は、オリジナルのアナリシスパターンはUMLとは異なるモデル表記法が採用されているため、なかなか各パターンの意図を読み解くのが大変です。しかし、さまさまなビジネス領域で応用できる概念モデリングのコツの宝庫とも言えるので、ぜひチャレンジしてほしいと思います。その際、できるだけ具体例を示すオブジェクト図を自分の手で描いて、抽象的な概念構造の意味をサンプルで確認する努力が重要です。