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CMMI
ソフトウェアプロセスレベルを向上させるCMMI活用術 〜 ソフトウェア開発の品格

第3回:CMMI導入がもたらす光と影 〜 日本の文化にあったプロセス改善
著者:日本コンピューター・システム   新保 康夫
日本和光コンサルティング  久野 茂
   2006/5/10
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形骸化

   CMMIは導入したけれど、徹底活用は最初だけで形式的になってしまっては、導入した本来の意味がないでしょう。しかし、導入当初の意気込みを継続的に持ち続けることは難しいものです。

   「今回はこの程度でOKにしよう」「最初に策定した基準が見直しもされずにそのままである」「プロジェクトに適用する時に基準を修整(テーラリング)せずに利用する」など、おちいりやすい事象は多いです。

   こうなってしまっては、もはや手遅れかもしれません。なぜ、こうなるのでしょうか。やはり、個人にとってCMMIを遵守することの負荷が高いということであり、人間の持つ弱さを根本としているからかもしれません。

   これに対処するには、個人の意識改革と組織の意識改革が必要です。単に「頑張ろう」などの精神論や罰則などの締め付けではなく、周知と教育を継続的に我慢強く行うことが必要です。教育は各職制や階層別に行うだけでなく、2〜3年に1回必ず受講をさせ、繰り返し同じことを理解させ、行動できる人材を育成することが必要です。この点については、「情報セキュリティ」の教育と通ずるところがあります。


即効性のなさ

   CMMI導入による投資対効果として「品質生産性向上にすぐには結びつかないのでは?」ということがよく聞かれます。CMMIの本質はプロセス改善であり、組織目標に対応するプロセスはそれぞれの組織で異なりますので、CMMIを導入したといっても即効性のある効果がでないのは当然です。

   下駄箱で靴を脱ぎ捨てる子どもに「靴を綺麗に揃えましょう」といくら叱ってもよくならないのに、「靴を綺麗に揃えた」写真を貼っておくとなぜか綺麗に揃えられるそうです。子どもは靴を綺麗に揃えた状態を知らなかったのです。組織のプロセスも同じで、いくらCMMIに書いてあるプロセスを実施しようといっても、実際のプロセス状態を見せなければ誰も理解できません。

   そのためにもまず少人数の部門でもプロセスを確立し実施することをおすすめします。それをベストプラクティスとして組織全体に見せながら広げていくという活動が望ましく、継続は力なりです。CMMIには即効性はなくとも組織体力が付くことは間違いないでしょう。


品格 〜 もう1つの効果

   最近の雑誌の誌面では、以前多かったISO9000やISO14000など企業のマネジメント基準から、「新会社法、日本版SOX法・COBIT for SOX・個人情報保護・セキュリティ保護」などの言葉が多く見られます。今は法律に対応した企業のコンプライアンスプログラムや内部統制の導入が求められるような方向に進んでいると感じられます。

   これらの内部統制は米国のエンロン事件や最近のライブドアショックにはじまる財務報告に関わるものですが、ソフトウェアを開発導入する企業においては無関係とはいえないと思います。例えば、顧客の本番環境へ開発機からアクセス可能にしてしまったり、テストデータとして機密情報を持ち出したりすることを知らずに行ってしまう場合があるということです。

   法律に対応する規律をプロセスとして具体的に決めておかないと後で大きな問題になりますので、内部統制に関するプロセスの確立はリスク管理という観点からも必要です。

   あるソフトウェア開発企業の社長と話をしていると、「これらの法律や規則は大企業が対応するもので、うちのような中小企業は全部やっていたら倒産するよ」といわれました。さらに「税務署の監査だって5年に1回だし、もし法律で問題があれば会社を倒産させて1円でまたつくればいいんだ」ともいわれました。

   「法律があれば対策がある」というある国のことわざがあるようです。「CMMI導入で組織成熟度やプロセス改善を実施する」ことはソフトウェア開発企業に対する組織の品格を表す内部統制プロセスを自然と盛り込みますので、ここで先のことわざを引用して「プロセスがあれば対策ができる」と言い換えたいと思います。

   CMMIはソフトウェア開発会社にとって様々な外部環境に対応できるような組織の判断基準になるプロセスをゆっくりと自然に確立するでしょう。日本の製造業ではいつもQC活動などの品質活動を行いすばらしい製品を世に送り出しました。今、ソフトウェア開発は中国やインドなどが台頭してきています。

   わが国におけるソフトウェア企業がソフトウェア開発の品格を持ち、よい製品・サービスを提供するためには内部統制に関する規律が必要ですが、急には準備できません。まずはCMMIを用いて他には負けないソフトウェア品質ができるプロセスを確立し、改善しながら内部統制なども織り込みましょう。

   CMMIの本質であるプロセスの改善により高い品質を実現するための対策がとれるのです。プロセス改善は日本の文化にあった習慣だと思います。

   次回は、オフショア企業のCMMIとの問題点について解説することにします。

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日本コンピューター・システム株式会社  新保 康夫
著者プロフィール
日本コンピューター・システム株式会社
新保 康夫(しんぼ やすを)

本部企画室 コンサルタント、ITコーディネータ/ITCインストラクタ、システム監査技術者、ISMS主任審査員資格。
1975年 日本コンピューター・システムに入社。システム開発に従事し、プロジェクトマネージャを経て現在、コンサルタント業務に従事する。コンポーネントベース開発やアジャイル開発にも関与する。

日本和光コンサルティング(株) 久野 茂
日本和光コンサルティング(株)
久野 茂(くの しげる)

日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長、ITコーディネータ。日本電気(株)、(株)日本総合研究所に勤務。現在日本和光コンサルティング(株)代表取締役副社長。
1978年徳島大学工学研究科修了、1998年電気通信大学大学院IS研究科博士課程単位取得満期退学。著書に「中国オフショア開発ガイド(共著)」コンピュータエージ社、他 多数。

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