Twitter API ver1.1利用規約変更から学ぶプラットフォーム時代の生き方
藤川真一(えふしん)
FA装置メーカー、Web制作のベンチャーを経て、2006年にpaperboy&co.へ。ショッピングモールサービスにプロデューサーとして携わるかたわら、2007年からモバイル端末向けのTwitterウェブサービス型クライアント『モバツイ』の開発・運営を個人で開始。2010年、想創社(現・マインドスコープ)を設立。2012年4月30日まで代表取締役社長を務める
今、ネットベンチャーで働いている人たちは、概ね何かのプラットフォームに依存して仕事をしています。
Twitter、Facebook、iOS、Android、GREE、モバゲー、Windows、Mac、携帯キャリア、各種クレジットカード会社やPaypalなどが挙げられます。AWSなどのクラウドサービスもそうですね。どれも止まってしまうと誰かしら金銭的に困ってしまうものばかりです。
プラットフォームビジネスで何か事件があると、「プラットフォームに乗るのは生殺与奪を握られるので危険だ」などと言う人がいますが、そうは言っても、どの会社も大体何らかしらのプラットフォームに依存しているのが現実です。インターネットというプラットフォームだけで勝負するより、投資効率も成功率も高いからです。
例えば、スマートフォンで、アプリかHTML5かという議論は、UXもさることながら、それ以上に、App StoreやGoogle Playのプラットフォームに乗るか乗らないかという選択の方が重要です。
そういう現状で、なぜ「危険だ」という言説が出るか?というと、「信用できないプラットフォームは危険だ」ということに尽きます。
特にWebサービスのプラットフォームの歴史は、まだ浅いです。
Web2.0で言われていた「データは次世代のインテルインサイド」、「プラットフォームとしてのWeb」あたりが、プラットフォーム時代のベースとなる思想ですが、クレジットカード決済などと比べて、Webやアプリのプラットフォームの特徴としては
・ 敷居が低い (登録するだけで使え、しかも無料)
・ 歴史が浅いので変化が激しい
・ プラットフォーム自体が発展途上。自己の存在を無効化されかねない競争にさらされている
ということが挙げられます。
これらのことを理解した上で、プラットフォームビジネスを考えないと、今回のTwitter APIの利用規約変更に対する考え方は理解しにくいかもしれません。
なぜ、Twitterはサードパーティのクライアントを駆逐したいのか
これは簡単です。Twitterクライアントは、今のTwitter社のビジネスに貢献していないからです。
以前、EchofonやAndroidで人気だったTwidroidなどを買収したUberMediaという会社が、Twitterクライアント独自のツイート広告ネットワークを展開しようとしました。これに対してTwitterは、UberMediaの所有するアプリのAPIを一時的に停止するという措置を行いました。このころからTwitterクライアントを野放しにするのは危険だという発想が表面化してきて、今の流れにつながっています。
Twitter社側からすると、毎日、大量のツイートを流通させ、スパム対策に追われ、日々スケールし続けるサービスの維持に追われている間に、Twitterクライアントがユーザーの数を取ってしまい、勝手にビジネス化されて、土管化されるのは許しがたい行為だったといえます。
また、それと同じく根強く存在していたのが、Twitterクライアントは、Twitter社が提供したいユーザー体験を阻害するクローンだという考え方です。日本でも機能名称を変えてしまったクライアントも出ていましたが、もはやTwitterである必要があるかは謎ですし、そこのユーザーはTwitter運営サイドと意思疎通ができません。
例えば、震災のころに、非公式RTでデマが伝搬してしまった時に、「非公式RTを使わずに、公式RTにしてください!」と公式アカウントが訴えていたことがありましたが、もし機能名称に「RT」という言葉がなければ、その話は伝わりません。
「Twitterという流行っているプラットフォームに乗っただけでは!?」と受け取られれば、Twitter社からしても看過できないのは当然です。Twitterクライアントのユーザー体験はTwitterを尊重したものでなくてはなりません。
えふしん氏自身もクライアントアプリ『モバツイ』を開発したエンジニアとして、Twitterユーザーへの価値提供が難しくなってきたことを反省する
これは自分自身の反省でもあるのですが、Twitterクライアントが、いつしかTwitterユーザーに対して新しい価値を提供できなくなっていたというのもあると思います。自分自身も、モバツイで写真連携やGPS連携などの機能を提案してきたつもりですが、さらにゲーミングであったり、ライフログであったり、もっと新しい価値を提供して定着させたいと思っていました。
Twitter自身が、APIの仕様を広げずに、発展(発散!?)を抑制してきた事実は確かにありますが、Twitterクライアントは、せっかくユーザーにとってのTwitterの入り口を持っているのですから、貪欲に新しい価値の創造にチャレンジすべきだと思います。
プラットフォームは危険だから、参加しないべきか?
そんなことはないと思います。リスクを適切に把握し、それに備えれば良いのです。ただ、プラットフォーム側の都合でルールが変わるので、スピード命です。
今回、既存のTwitterクライアントにとっては、新規ライバルが事実上参入できなくなったと考えると決して悪い状態ではありませんし、何より200%のアカウント数まで増やせるわけですから、今までユーザー数を増やしてきた活動が資産として活きてきます。
ユーザー数上限にキャップがついてしまったので、そのビジネス単体が永久に伸び続けるということはなくなってしまったかもしれませんが、今あるユーザーやソフトウエア資産、収益源を大事にしながら、新しい活動にリソースを振り分け、変化をすべきということになります。
プラットフォーム側には「プラットフォーマーの品格」が必要だと思いますが、例えば世間に表面化してない話でも、あるゲームがプラットフォーム側の方針変更で突然リリースできなくなったという話も聞いたことがあります。
「プラットフォーマーの品格」とは、そういうところに表れます。Twitter社に関しては、「決して野蛮ではない」と思います。クライアントの扱いについては、十分時間を提供してサードパーティに変化を求めていると思うからです。
今後のオープンなリアルタイムメッセージ共有の行き先
これからは、ポストツイッターの今後の方が重要になるかもしれません。プロプライエタリなプロダクトと、オープンソースは、常にシーソーのように発展しているので、プロプライエタリな企業が自社利益を優先しようとビジネスを最適化するのがきっかけで、新たに対抗する勢力が出てくるのが、今のソフトウエアのダイナミズムといえます。
その中で、今はP2Pの分散BBSの技術を期待しています。Twitterが苦労していたスパム対策をどうするのか、などいろいろあるとは思いますが、Winny2が実装していた分散BBSのような形で、メッセージルーティングの維持が一企業の努力に依存しなければTwitter社のように苦労をしなくて済むわけですから、その分、オープンに広まる余地があると思います。
これについてはインターネットテクノロジー全体の視点として、今後のイノベーションを期待しています。
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