「DATUM STUDIO Conference 2017(夏)」同社がデータ分析をサポートするユーザー事例を紹介【前編】
2017年7月13日、データ解析事業を幅広く展開するDATUM STUDIO株式会社が主催するセミナー「DATUM STUDIO Conference 2017(夏)」が、ハイアットリージェンシー東京エクセレンスシンポジウム会場にて開催された。今回のコンファレンスのテーマは、同社がデータ分析をサポートする幅広い業界・業種のユーザー事例だ。本レポートでは、その内容を2回に分けて紹介する。
広告効果を高い精度で推定できる「DATUM Regression Model」
DATUM STUDIO取締役 CAO(チーフアナリティックオフィサー)の里 洋平氏が、開会の挨拶で登壇した後、引き続き最初のセッションとして、「独自回帰モデルを用いた広告効果分析」と題し、同社のデータ分析のための汎用性の高い独自回帰モデル「DATUM Regression Model」を紹介した。
DATUM Regression Modelは重回帰モデルを発展させたもので、広告モデルの解析に力を発揮する。多メディアによる広告を打っている場合、説明変数となるそれぞれの広告が売り上げに対してどう影響を与えているかを分析できるという。「どの広告にいくら投資を増加することで売り上げを最大化できるかという分析が可能です」(里氏)。
従来の手法では、説明変数同士が無相関で独立している場合、係数でマイナスの値が出る「多重共線性(マルチコ)」という現象が現れることがあるが、その際にはマルチコが発生した変数を外してモデルを作り直すのが一般的だ。しかし、変数を1つ外すことでどこまで信頼性が保たれるのかという問題がある。これが広告効果分析の難しい点だ。
しかし、DATUM Regression Modelを使用すればマルチコは発生せず、変数間の正しい係数比較が可能になる。時系列データでタイミングをずらしながらDATUM Regression Modelを実行していくことで信頼性の高い広告効果の分析ができるのだ。
里氏はケーススタディとして、Web広告、マス広告、交通広告を組み合わせた場合の効果分析結果を紹介。簡単な入力で広告効果のシミュレータが作成でき、推定精度の波形がほぼ一致した。
AIを活用した証券業文書の文章校正
次に登壇したマネックス証券執行役員三根公博氏は「AIを活用した公開前コンテンツの文章校正その他業務の合理化」というタイトルでセッションを行った。証券会社は、一般事業会社同様景表法で広告表現の内容が規制される他、金融商品取引法でも広告の表現が規制されている。自主規制団体である日本証券業協会の規則も定められている。
規制を遵守するためには正確な文章コミュニケーションが必要とされるのだが、規制遵守こそがネット証券の生命線であるため、これまでは人手をかけたコンテンツの品質管理が行われてきた。「ダブルチェック、トリプルチェックを行うものの、人のやる作業である以上、チェックが漏れるのはどうしても避けられなかった」と、三根氏は振り返る。
そこで、AIチェックの導入が検討された。マネックス証券では2016年春にそのためのプロジェクトチームが立ち上がり、同年11月から2017年4月までの開発期間でリリースした。機械学習は時系列データに特化したLSTMを用い、元になる学習データは既存のWebページやメルマガを利用した。Webページは3000ページ以上、メルマガは245営業日×18年分が学習のために使用されたという。
当初、句読点の後の単語が予測しづらい、助詞の直後の予測は難しいなどの問題があったが、過剰なチューニングは抑制した。また予測スコアが低くても繰り返し登場する単語については当てやすいなどの傾向もわかってきた。表現や意味がおかしい可能性のある文字は赤く表示するというシンプルなインターフェイスを採用している。
予測が難しい時事的な話題やぶれる表現などについては、語彙が変わると異常を検出して表示するようにした。
証券と言えば「株価予測にAIが利用できないか」という疑問が寄せられることが多いが、同社ではAIによる将来の株価予測の有効性には現状ではまだ疑問を抱いており、同社では株価予想ではなく、取引方法のAI分析を行って顧客への販売に役立てているという。
AIで中古車販売の適正なプライシング
続いて、株式会社IDOMの光田 奨氏が登壇。セッションのテーマは「職人*AI*商売 ~二次流通におけるプライシングの在り方~」だ。
IDOMの旧社名はガリバーインターナショナル。全国で中古車販売を手掛けている。中古車には定価がないため、値付けが重要になる。
かつてIDOMが流通革命を起こせたのは、全国共通の買取価格を実現できたからだ。査定にあたっては店舗から本部に情報が送られ(昔はファックスだった)本部のプライシングチームが買取・販売価格を査定する。
「査定は勘と経験です。本部で査定するのは、例えば1200万円で売れるクルマを査定できる人間を500店舗に各1人、500人は揃えられないからです」(光田氏)。
プライシングチームは9勝1敗では店舗営業マンの信頼を得られない。自動価格算出には1999~2010年まで挑戦していたが、2010年にシステムを停止した。マスターのメンテナンス入力の仕事量が大きすぎて更新が停止してしまったためだ。
「データの評価は非常に複雑で、例えばクラウンにサンルーフが付いていると査定は5万円アップしますが、RX-7の場合はまったくアップしません」と、光田氏は例を挙げる。
しかし、新規事業計画で年60店舗を出店していくことが決定し、2016年からDATUM STUDIOと共同で新しいシステムの開発に着手することになった。さらに、今後Web系でも新規ビジネスに取り組むにあたって、コンシューマ製品の中古販売並の反応速度を求められることも新規システム開発を選択した要因だ。
IDOMでは販売価格算出と売却金額算出、データ検収といった作業を行うのは営業マン出身者であるため、使いやすい自動化が必要になる。さらにネット活用を拡大するために、デジタル広告やチャットボット、ケースバイケースで最適なオペレータは誰かといったことまで分析が必要になる。
新システムで買取責任価格の算出速度と量、コスト感の向上を目指すためには、機械側の業務範囲を広げたり狭めたりして調整・最適化していく必要がある。「AIを活用する側にとっては、部下育成と一緒です」(光田氏)。
暗黙知、形式知、120%頑張ればできる仕事の幅を与えていかなくてはならない点で、AIは部下育成と似ているのだという。
新システムは最終検証も終了し、販売店に査定結果を機械が査定したと返すか、人間の名前にするかによって、どちらがより信頼を得られるかという判断を迫られている段階だ。前システムの反省も含め、今後はマスターメンテナンスも自動化を目指していくとした。
* * *
今回は、セミナー前半に行われた各社のセッションについて紹介した。現在、さまざまな業界・業種でデーや分析やAIの導入が求められていることを感じていただけたと思う。当然、企業ごとに異なるアプローチが必要だが、それを実現するには多様な経験を持つビジネスパートナーの存在が大きいだろう。
後編では、Web広告最適化や映画興行データベース、BIツールの機能拡張の事例を紹介する。