Red Hatが示したOpenShiftの将来とは
Red Hatが推進するコンテナオーケストレーションプラットフォーム、OpenShiftのコミュニティが開催した「OpenShift Commons Gathering 2017」。取材記事の2本目では、OpenShift 3.xの新機能、Kubernetesの最新バージョン1.9について行われたセッション、そしてNTTが提案するキャリアエッジPaaSに関するセッションを紹介しよう。
キーノートに次いで行われたセッションは「OpenShift 3.x: Features, Functions and Future」と題されたもので、Red HatのClayton Coleman氏とMike Barrett氏が登壇し、OpenShiftとKubernetes 1.8/1.9などについて解説が行われた。
講演のタイトルに「OpenShift」を謳っているが、実際の内容はKubernetesに関するものが大半で、いかにコアであるKubernetesに興味が集まっているのかを実感させるものであった。Kubernetes 1.8に関しては過去最大のリリースということで、1.7と1.6という2つのリリースを足したもの以上の規模となったことが紹介された。2500のコミット、39の新機能が29のSIG(Special Interests Group)、5つのWG(Working Group)から実装されたという。
またソフトウェアそのものではなくコミュニティの構成について、Kubernetes Steering Committeeというガバナンスのための組織が作られ、Kubernetesのアーキテクチャーに関するトップレベルのSIGが作られたこと、さらに新機能に関する提案を挙げる際のプロセスが、GitHubで正式に公開されたことを紹介。ここでは他のオープンソースソフトウェアプロジェクトと比較しても、非常に厳格であるという評判のKubernetesの厳格さが現れた部分だろう。
Kubernetesの新機能提案用のテンプレート:Propose KEP template
Kubernetes 1.8の新機能を一覧で紹介したのが、次に示すスライドだ。
Cloud-Native&Traditional Appsのところにある「RHOAR」とはRed Hat OpenShift Application Runtimeの略で、Windows Containersと同じレベルにリストアップされている。他にもRed HatのミドルウェアであるFuse、Red Hat自社製のクラウドアプリケーション開発のためのサービスであるOpenShift.ioがさり気なく含まれているところが、いかにもRed Hatらしいと言ったところか。
また注目されているサービスメッシュのためのIstioや、モニタリングのためのPrometheusなどにも言及し、クラウドネイティブなアプリケーションをフォローするという意味で、Cloud Native Computing Foundation(CNCF)がホスティングしているプロジェクトにも注意を払っているところが見て取れた。
また2017年に入って非常に大規模なKubernetesクラスターが構築されていることをベースに、スケールすることの重要性が語られた。実際2016年には平均で100台程度のクラスターであったものが、2017年には250台を超えるサーバーのクラスター構成でKubernetesが実行されていると説明があった。またネットワーク機能においても、ロードバランサーの改善や開発バージョンである1.9におけるIPv6のサポートなどを紹介した。
ここから見て取れるのは、すでに実証実験などの段階を超えて多くのアプリケーションがマイクロサービス化され、Kubernetesでオーケストレーションされているという状況だろう。もはやコンテナ化が必要かどうかではなく、「コンテナ化されたアプリケーションをいかに本番環境で使うか?」という段階に移っている。セッションの中でもロギングやモニタリングといったトピックが注目されるのは、いかに巨大なKubernetesクラスターを手なずけるか? がポイントであるということだ。
特にColeman氏は、Linuxが様々なディストリビューションによって拡がったように、KubernetesもクラウドネイティブなアプリケーションにおけるOSとして「ディストリビューションとして拡がっていくべき」という意図を持っているようだ。「Kubernetes自体がモノリシックなソフトウェアではない」ということを再三訴えていたように、Kubernetesが様々なディストリビューションと補完するオープンソースソフトウェア、そしてサードパーティから出てくる商用サービスによるエコシステムになるべきという姿勢が感じられたセッションであった。
このセッションの動画は以下のリンクを参照してほしい。
NTTとレッドハットによるキャリアエッジPaaSの実験
最後にレッドハット株式会社アジア・パシフィック担当のチーフテクノロジストの杉山秀次氏と、NTTネットワーク基盤技術研究所の安川正祥氏による「Carrier edge PaaS strategy for Cloud Native Service」と題されたセッションについて紹介しよう。
これは通信キャリアが分散コンピューティング環境を提供する際に、これまでの信頼性と堅牢性重視という特性に加えて、終端に近いエッジの部分にコンピュート環境を提供することでIoTなどに向けて柔軟なコンピュートリソースを提供しようというものだ。
高度に集積されたキャリアのデータセンターと終端のエンドユーザーという構図の真ん中に[ミッドB(ビジネス)」というサーバーを置き、そこにアプリケーションを稼働する環境を構築し、IoTなどのデバイスから上がってくるデータを処理し、必要に応じてデータセンターに上げるというのがこの構想の中身だ。プラットフォームとしてOpenStack、アプリケーションの実行環境としてOpenShiftを置き、そこではコンテナで構成されたアプリケーションが実行されるというのがこの実証実験の概略だ。
あくまでもこのシステムは実証実験であり、実際にどのくらいの時期にサービスとして提供されるのか? などについては言及を避けていた。ユーザーの終端端末とキャリアのデータセンターをつなぐだけのパイプから、よりインテリジェントなパイプとしてこの中間層のコンピュート環境が利用されることで、サービスを提供する側は迅速な機能実装が実現でき、アクセスの多寡によってリソースを柔軟に制御できるというのが強みだという。
実際には世界中のキャリアが、このようなオープンソースソフトウェアを使った次世代のモデルを考えているだろうが、デファクトスタンダードを取れるようなアーキテクチャーになれるかどうかは、今後の評価によるだろう。
キャリアのコア機能を実現するシステムとしてはAT&Tとチャイナテレコム/チャイナモバイルがそれぞれ持っていたソフトウェアを統合して、機能実装の自動化を標準化しようという野望に近いプロジェクトONAP(Open Network Automation Platform)というものがある。一方、今回のキャリアエッジPaaSプロジェクトは、とりあえず使えるOpenStackとOpenShiftというエンタープライズ側のソリューションをベースに、より現実的な解を模索しているものと受け取れば良いだろう。今後はこのモデルに賛同する他のパートナーをどうやって巻き込んでいくのか? が勝負となるのではないか。今回の実証実験から先に何があるのか、注目して行きたい。
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