連載 :
  インタビュー

ElasticのCEOと日本代表、日本での事業計画などについて語る

2018年2月9日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
2017年12月に、都内でElasticのカンファレンスが開催された。来日したCEOと日本のカントリーマネージャーにインタビューを行った。

Elasticsearch、Kibanaなどのオープンソースソフトウェアを開発するElasticは、2017年12月14日に都内でカンファレンスを開催した。カンファレンスに合わせて来日したCEOのシェイ・バノン氏と、新たに日本のカントリーマネージャーに就任した元GitHubのカントリーマネージャーである藤田純氏にインタビューを行った。

日本代表の藤田氏(左)とCEOのShay Banon氏(右)

日本代表の藤田氏(左)とCEOのShay Banon氏(右)

写真:DSC03457.jpg

まず藤田さんに伺います。新たに日本のElasticの代表になったわけですが、当面の目標は?

藤田:今のところは営業の引き合いに対しての対応が追いついていないので、まずはそれを用意したいと思っています。つまり営業部隊ですね。現状のElasticのビジネスだとダイレクトでの販売が大きいのですが、パートナーを増やすことで、販売をスケールすることができると考えています。

パートナーも単に販売をお願いするだけではなく、MSP(Managed Service Provider)やOEMなど様々なかたちのパートナーを増やしていきたいと考えています。人員に関しては営業だけではなく、マーケティングや他のチームも増強していきたいと考えています。具体的な数字をお話することは出来ませんが、とにかく成長させることが大事だと考えています。

バノン:我々は日本の市場を非常に重要視しています。まだ日本では顧客数で言えば100社を超えたぐらいですが、藤田さんが入ったことでこれからビジネスを拡大していけると信じています。外国人のリーダーではなくてその国の人にリーダーを任せてその国の会社として認めてもらう、というのがElasticのやり方です。実際ドイツでも、1年半前にドイツ人のカントリーマネージャーに就任してもらってビジネスを拡大していますが、日本でも同じことをしているだけです。日本でのオープンソースソフトウェアの認知度や、その使われ方についても高く評価しています。日本でのElasticのビジネスの将来には、エキサイトしていると言っておきましょう。

日本市場でのチャレンジは?

バノン:新しい市場に出て行くにあたって、適切なペースで行うということが重要だと考えています。他の会社であればとにかく速く仕事をして数字を出すことを目指す場合もあるでしょうが、Elasticはそうは考えません。例え成長の速度が遅くなっても、顧客に満足してもらうことのほうが重要です。

藤田:お客様にとって、私たちがやっていることをちゃんと見えるようにするということですかね。Elasticという製品だけではなくて、その後ろにいる私たちが会社として見えているかどうか。それを行うためには、やはり今のチャレンジは雇用、良い人材に参加してもらうことですね。

Elasticの製品はオープンソースソフトウェアだと思いますが、ビジネスの基本はサブスクリプションですか?

藤田:Elasticの製品はオープンソースソフトウェアとして開発されていますが、エンタープライズ向けには付加機能を加えたX-Packと言う製品があります。なのでRed Hatのように、同じ製品でサポートが有償というものとは少し違いますね。

オープンソースソフトウェアを開発する上でコミュニティは欠かせない要素ですが、Elasticにおいてコミュニティを作るための秘訣はなんですか? 特に日本ではなかなか良質なコミュニティを醸成するのは難しいと思いますが。

バノン:正直に言えば、コミュニティを作ることはとても難しいのです。それは日本だけではなく世界中どこの国、地域に行っても同じです。ですから我々は、常に努力を続けるしかありません。

他のIT企業には「コミュニティマネージャー」と呼ばれる役割を持った人間がいますが、Elasticにはそういうタイトルはありません。どちらかと言えば、Elastic全ての社員がコミュニティマネージャーであるという意識を持つべきだと思います。営業であれエンジニアであれ、常にコミュニティと共に活動をしているわけですから。

一方Elasticにはデベロッパーリレーションというポジションがありますが、これはMeetupなどでエンジニアからの質問に答えたり、プレゼンテーションを行ったりする役割です。一人のコミュニティマネージャーを持つということは、その人がSingle Point of Failure(SPOF、単一障害点)になる可能性があるわけで、Elasticとしてはその選択肢を選ぶことはありません。

さらに言えば、日本人はコミュニティを作るのが下手であるとは思えません。事実Rubyは日本で産まれましたし、ログ収集のFluentdも大きなユーザーベースそして開発コミュニティがあるではありませんか。ちなみにElasticが開発しているソフトウェアとFluentdは、よく組み合わされて利用されていますね。我々はElastic StackとしてKibanaやElasticsearch、Logstashなどを組み合わせて提供していますが、顧客はログ収集の部分にFluentdを選択することも出来ます。我々は自社の製品だけでロックインしようとは思っていません。

もう一点付け加えるとすると、Elasticの製品がエンタープライズ企業で使われる場合はほとんどがエンジニアから拡がっていくのです。つまり情報システム部門のトップからこれを使えと言われるよりも、自分で評価したログ収集や検索機能などのソフトウェアが一つのシステムから始まって、最終的に全社で使われるようになるというパターンですね。ゴールドマン・サックスなどは、その典型的な例です。ですから、デベロッパーコミュニティに対して真摯に対応するというのは非常に重要なのです。

次に製品の話を聞かせてください。

バノン:2017年の11月にElastic Stack 6.0というバージョンを出しました。Elasticsearch、Kibana、Logstashそれぞれに様々な機能強化がなされています。そしてこれらの製品は、分散型アーキテクチャーに移行しつつあるところです。

しかしここでは2017年6月に買収したOpbeatという会社の話をしましょう。この会社はコペンハーゲンにあるベンチャーで、オープンソースソフトウェアとしてApplication Performance Monitoring(APM)のソリューションを開発しています。Elasticはサーチとログの収集、ビジュアライゼーションなどを通じてエンタープライズのITインフラストラクチャーの分析を行ってきたわけですが、その延長としてAPMをソリューションとして組み込むのは、自然な流れだったわけです。APMにはNew RelicやCiscoが買収したAppDynamicsなどがありますが、どれもプロプライエタリなソリューションです。Elasticは、Elasticsearchがベストなオープンソースサーチエンジンであるのと同様に、ベストなオープンソースAPMになろうと思っています。ここが最大の差別化です。そしてElasticの他の製品とも統合が進められています。JavaScriptだけではなくPythonやRubyなどの言語で書かれたアプリケーションにも対応を進めています。

実は最近、Rubyデベロッパーを雇ったばかりですので、Node.jsだけではなく様々なフレームワークにも対応をする予定です。また機械学習についても、Prelertを2016年に買収して、異常検知の領域で利用を始めています。もう一つはCanvasです。これはまだ製品にはなっていませんが、数ヶ月後にはベータとして発表できると思います。Kibanaを拡張するダッシュボードの機能を実現するものです。

Elasticは新しい日本法人の代表が入ったことで、今後はパートナー拡大などの成果が出てくると思われる。また企業買収によるポートフォリオの拡張も、順調に進んでいるようだ。日本でのコミュニティ作り、そしてユースケースの公開などに期待したい。なおElasticのカンファレンスであるElastic{ON}は、2018年2月27日~3月1日までサンフランシスコで開催される予定だ。

Elastic{ON} 2018

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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