【CNDW2024】静的解析ツールを活用した快適なCIプロセスの実現 ─ 課題解消から効率化まで

CloudNative Days Winter 2024において、アクセンチュア株式会社の崎原 晴香氏が「そのCIは本当に役に立ってますか? 高品質なCIプロセスを実現する設計術」と題したセッションを実施した。本セッションでは、静的解析ツールを効率的かつ快適に活用し、高品質なCIプロセスを実現するための設計や実践手法を具体的に解説し、開発現場での課題解決に役立つ実践的なノウハウを提供した。
ツールが開発の妨げになる原因とその影響
「普段の開発に静的解析ツールを使っていますか?」という問いかけから、崎原氏のセッションは始まった。参加者の反応は控えめで、オンラインのチャット欄でも具体的なコメントは少ない。続けて「そのツールの良さを最大限に引き出せていると自信を持てる方はいますか?」と問うたが、さらに反応は薄く、会場の静けさが問題の深刻さを物語っていた。「おそらく手を挙げる人は少ないだろうと予想していました」と崎原氏は苦笑しながら語った。
崎原氏が挙げた課題は、静的解析ツールが開発現場で抱える普遍的な問題に焦点を当てたものだった。「多くの方が、どこかでツールの使い勝手に不満を感じているのではないでしょうか?」と語り、「あるある」として三つの問題を取り上げた。
まず一つ目は、解析結果が遅いことによる作業効率の低下だ。静的解析ツールがプルリクエストのマージやリリース承認の必須条件となる企業は多い。しかし「解析結果を待つだけで時間が失われるケースも珍しくありません。その間、作業はストップし、スケジュール全体に影響を与えます」と指摘した。
次に挙げたのは、リリース直前までFailに気づかないケースだ。「リリース時に初めてFailが発覚し、緊急修正が必要になることがあります」と述べた。とくに大規模プロジェクトでは、問題箇所の特定に時間を要し、全体の進行を妨げるリスクが高いという。
そして三つ目の課題が「チェックFailを無視する文化の蔓延」である。「Failが放置され続けると、『これは重要でない』という認識が広がり、本当に修正すべき問題も見過ごされてしまいます」と崎原氏は指摘。このような状況が繰り返されると、ツールの信頼性が失われる危険性が高まると強調した。
五つのステップで静的解析ツール設定の最適化
崎原氏は、静的解析ツールを有効活用するためには適切な設定が欠かせないと語り、そのための五つのステップを解説した。
まず「解析範囲の決定」では、不要なファイルやディレクトリを解析対象から除外することが重要だ。「これにより無駄な指摘を防ぎ、効率を大幅に向上できます」と崎原氏は指摘する。またその際には必要なファイルが対象外とならないよう確認することも欠かせない。
次に「解析ルールの決定」では、プロジェクトやチームの特性に合わせたルール選定が求められる。厳しすぎるルールは膨大な指摘を生み、対応が追いつかなくなるリスクがあるからだ。「現実的で柔軟な基準を設定し、段階的に適用するのが効果的です」とアドバイスした。
三つ目は「実行フェーズ」だが、これについては次章で詳細に説明される。
さらに「検知結果の抑制」では、誤検知や例外ケースに対処する設定が必要だ。特定のコードにコメントを挿入することで、ツールが無視するよう指示する方法が挙げられた。
最後に「終了コード設定」だ。ルール逸脱を見逃さないため、異常が発生した際にはCIが正しくFailするよう設計することが不可欠だ。「この設定が不十分だと重大な品質問題を引き起こす可能性があります」と注意を促した。
崎原氏は「静的解析ツールを適切に設定することで、開発効率と信頼性を大きく向上できます」と結論づけつつ、「一度にすべてを解決しようとせず、プロジェクトに合った最適化を段階的に進めるべき」と強調した。
ストレスレスな静的解析ツールの運用
崎原氏は、静的解析ツールの設定を整えた後に欠かせないのが、実行プロセスのストレスを最小限に抑えることであると強調した。CIプロセスの目的が品質維持にある以上、ツールの実行がストレスフリーであることは、開発効率を向上させる上で重要だ。「リリース時に初めてFailが発覚するのは最悪のケースです。これを防ぐためには、開発初期段階から問題を検知・解決するシフトレフトの思想が鍵となります」と崎原氏は語った。
そしてこれを実現するため、崎原氏は「ストレスレスな運用を支える三つの戦略」として以下を提示した。
一つ目は「並列実行による高速化」である。複数の静的解析ツールが独立して動作する場合、それらを同時に実行することで解析時間を短縮できる。「例えば、複数ツールを並列に走らせることで、全体の処理時間を大幅に削減可能です」と具体例を挙げて説明した。
次に「不要なプロセスのキャンセル処理」だ。連続するコミットで同じ解析が繰り返し実行されると、リソースが無駄に消費される。崎原氏は「最新コミットのみ解析する仕組みを導入することで、リソース効率を大幅に改善できます」と語った。
そして最後に「差分実行とキャッシュの活用」である。「変更箇所のみを解析する差分実行は、特に頻繁に更新が行われるブランチで効果を発揮します」と述べ、ツールの特性に応じた慎重な適用が必要だと指摘した。またキャッシュを利用して依存ツールの準備時間を削減する方法も提案した。
これらの工夫を実践することで、静的解析ツールの運用がスムーズになり、シフトレフトをさらに効果的に進められるとまとめた。「開発者がストレスを感じることなくツールを活用できれば、品質向上への道筋が広がります」と締めくくった。
ツールの補完でさらなる効率向上を目指す
崎原氏はまた、静的解析ツールを補完する手段としてコードレビューサービスの重要性を強調した。単にツールの設定や実行を最適化するだけでなく、コードレビューサービスを導入することで、CIプロセス全体の効率をさらに高められると語った。
静的解析ツールを快適に利用するためには、多様なツール間の設定や仕様の差異を吸収し、統一的な運用を可能にする仕組みが求められる。SaaS型のコードレビューサービスは、この問題を解決する有力な手段だ。崎原氏は、コードレビューサービスが提供する具体的な価値を三つにまとめて解説した。
まず一つ目は「解析の前後処理の一元化」だ。例えば、解析対象から特定のファイルを除外する設定が、ツールごとに異なる場合がある。コードレビューサービスは統一されたインターフェースを提供し、設定の手間を省略できるという。
次に「柔軟な実行戦略の提供」である。並列実行や差分実行を一貫して適用することで、複数のツール間で効率的な解析を実現できる。また連続コミットの際に不要なプロセスを自動的にキャンセルし、必要な解析結果のみを取得する仕組みも利便性を高めるポイントだと説明した。
そして三つ目は「コード品質評価の合理化」だ。多くのサービスがコードに点数やランクを付ける機能を持つが、これを適切に解釈することが重要だと崎原氏は語る。「ランクそのものを追求するのではなく、評価基準が妥当であり、それがプロジェクトの意思決定を支援するものであることが大切です」と強調した。
「カバレッジを100%にすることが目的ではありません」と崎原氏は付け加え、重要なリスクやテスト箇所を明確化するためのツールとしてコードレビューサービスを活用すべきだと語った。
快適で意義のあるCIプロセスを目指して
崎原氏はセッションの最後に、静的解析ツールを活用する上で意識すべきポイントを振り返りながら、快適かつ意義のあるCIプロセスの重要性を強調した。Failする文化を生まないこと、そして開発を妨げない環境の構築が鍵であると語った。
「ツールに引っかかった部分のリスク許容判断や、本当に人手を使うべき作業にリソースを割くことが重要です。これを実現するためには、解析ツールのチューニングを適切に行い、快適なCI環境を作る必要があります。一部の作業を専門のサービスに任せる選択肢も十分に考慮すべきです」と語り、開発者がツールの負担から解放され、本質的な作業に集中できる環境を推奨した。
最後に崎原氏は、「快適なCIを作るためのポイントをお話ししました。現場でぜひ生かしてください」と締めくくり、具体的な実践への意欲を参加者に促した。
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