【競争激化】人間中心の終わりとゼロクリック・AIモード

はじめに
本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動している8名で運営しています。この記事を通して、ぜひ皆さまも各々の半歩先の未来を想像しながら、色々な価値観を楽しんでいただけると嬉しいです。
前回「【AIの進化が加速】「Google I/O 2025」で見えたGeminiと検索の未来図」では、Googleの開発者会議「Google I/O」を取り上げました。「Gemini 2.5 Pro Deep Think」をはじめ、新しいAIモデルのほか画像・動画・音楽といったメディア生成AIモデルも大きな進化を遂げています。
さらに、高性能なモデルと利用制限の大幅な緩和を実現した「Google AI Pro/Ultra」というプランの発表により、本格的な利用にも切り込んできました。
【メモ】
OpenAIから始まった高額課金プランですが、Googleが発表したことにより3大AIの高額課金プランが出揃いました。それぞれのプランに違いについては「【最大課金してみた】3大AIの最強プラン徹底比較」で詳細に解説しています。
そして何より、Web検索の王者として君臨してきたGoogleが、その検索体験を次のステージへと進める「AI Mode」の発表がありました。
一見すると「Googleによる生成AIへの取り組みが大きく前進している」という発表のように見えますが、これは長年における検索分野の停滞が終わりを告げ、25年ぶりに競争が激化し始めたことを示唆しています。
今回は、25年ぶりに何が大きく変わろうとしているのかを深掘りしつつ、ざっくりと解説していきます。
Gen AI Chat>Hello world!

【出典】「ChatGPT search が登場」(OpenAI 2024年10月31日)
検索分野の動向を詳しく見ていく中で、特に目立って浮かび上がってきたのが次の3つのキーワードです。
- Googleの圧倒的な市場支配と広告依存構造
- 生成AIによる検索行動の変化
- 法的・規制面からの圧力
今回はこれらを手がかりに、今起きている変化を順に読み解いていきます。
Googleの圧倒的な市場支配と広告依存構造
・検索市場の独占

【出典】「Google holds illegal monopolies in ad tech, US judge finds」(Reuters 2025年4月18日)
Googleは現在も世界の検索市場で80%近いシェアを維持しており、圧倒的な地位を占めています。しかし、注目すべき点はMicrosoftの 「Bing」が徐々にシェアを拡大していることです。特にChatGPT連携後のBingはとうとう10%の大台を突破し、今もシェアを伸ばしています。
2022年(3月) | 2023年(3月) | 2024年(3月) | 2025年(3月) | |
---|---|---|---|---|
84.97% | 85.53% | 81.63% | 79.1% | |
Bing | 8.05% | 8.19% | 10.24% | 12.21% |
その他 | 6.98% | 6.28% | 8.13% | 8.69% |
・広告収入に対する極度の依存
Alphabetの2024年第4四半期決算を見ると、その収益構造の脆弱性が分かります。

【出典】「Alphabet Announces Fourth Quarter 2024 and Fiscal Year Results」(Alphabet 2025年2月4日)
- 総売上高:965億ドル(前年比12%増)
- 広告事業:725億ドル(全体の約75%を占める)
- うちGoogle検索広告:540億ドル(広告事業の中核)
この数字が示すように、Googleの収益の4分の3が広告事業に依存しており、その中でも検索連動型広告が最大の収益源となっています。これは、広告事業がなくなるとGoogleの事業は成り立たなくなるということです。
生成AIによる検索行動の根本的変化
・「ゼロクリック検索」の脅威

【出典】「Why publishers fear traffic, ad declines from Google’s AI-generated search results」(DIGIDAY 2024年5月24日)
生成AIの登場により、ユーザーは検索結果ページをクリックすることなく、一問一答で完結する情報取得が可能になりました。この「ゼロクリック検索」は、Googleの広告ビジネスモデルに以下の深刻な影響を与えています。
- 広告表示機会の減少:ユーザーが検索結果ページを見る時間が短縮
- クリック率の低下:広告への接触機会の減少
- コンテンツサイトへのトラフィック減少:オーガニックトラフィック(検索エンジン結果を通じてウェブサイトに訪れる訪問者)の最大20-60%減少の可能性
【参照】「Google’s AI-driven Search Generative Experience could slash publishers' organic search traffic by 20% to 60%」(EMARKETER 2024年5月15日)
・競合AIサービスの台頭
- ChatGPT Search:OpenAIが検索機能を統合
- Perplexity AI:検索特化型AIとして急成長
- Microsoft Bing:ChatGPT連携によりシェア拡大
これらのサービスは従来の「検索→クリック→閲覧」という行動パターンを「質問→回答」へと単純化し、Googleの広告エコシステムを迂回する新たなユーザー体験を提供しています。
これらの動向を受け、GoogleもAI Mode発表前には「AI Overview」というAIが関連性の高いページを要約して検索結果に表示する機能を導入しましたが、あくまで試験運用という位置付けでした。
法的・規制面からの圧力
2024年以降、Googleは米司法省から複数の反トラスト法(独占禁止法)訴訟で敗訴し、事業分割の危機に直面しています(Googleは控訴する方針のため、まだ決着はついていません)。
検索事業での独占認定
- 2024年8月:検索サービスでの独占が認定
- 司法省の要求:ChromeブラウザやAndroid事業の売却・分割、デフォルト検索エンジン契約の禁止など
【参照】「Google must sell Chrome to restore competition in online search, DOJ argues」(Reuters 2024年11月22日)
広告事業での独占認定
- 2025年4月:オンライン広告技術での独占も認定
- 想定される措置:広告事業の分割・売却命令
【参照】「Google holds illegal monopolies in ad tech, US judge finds」(Reuters 2025年4月18日)
いずれもGoogleの「広告+検索」支配構造に直接切り込む内容であり、技術面のリスクに加え、法的にビジネスモデルが制限される可能性が出てきています。
まとめ:変化を余儀なくされたGoogle

【出典】「Google、揺らぐ25年間のネット支配 「AIシフト」脅威に現実味」(日本経済新聞 2025年5月10日)
これまで見てきたように、Googleを取り巻く環境は25年ぶりに大きく変わろうとしています。Googleは自ら変革を遂げたというよりは「変わらざるを得なかった」状況と言っても過言ではありません。その変化の本質は、以下の3つの観点に集約されます。
- 圧倒的な市場支配と広告依存の脆弱性
Googleは依然として検索市場の圧倒的リーダーであり続けていますが、その収益の大部分を広告に依存しており、ビジネスモデルの偏りが露呈しています。特に検索連動型広告への依存は、構造的なリスクとなりつつあります。 - 生成AIによる検索体験の劇的変化
ChatGPTやPerplexityに代表される生成AIの台頭により、検索の在り方そのものが「リンクを選ぶ」から「回答を得る」へと移行しています。これにより広告表示やクリックの機会が減少し、Googleの従来の強みが逆に足かせとなる局面も生まれています。 - 法的・規制面からの構造的圧力
米司法省による反トラスト訴訟により、Googleは検索・広告の両分野で独占認定を受け、事業分割の可能性も現実味を帯びています。これは外部からGoogleのビジネスモデルに直接メスが入る初の本格的な動きです。
こうした要因が重なり、Googleは今、技術・ビジネス・規制の三方面からの変革を迫られています。AI Modeはこのような状況の中で発表されましたが、この対応策自体が既存の広告モデルを内部から破壊する可能性も指摘されています。
Googleは今後、検索とAIの統合を進めながら、同時に収益モデルの多様化と法的リスクへの対応を図る必要があります。25年間続いた検索独占の時代は確実に変化の局面を迎えており、Googleにとって根本的な事業変革が避けられない状況となっています。
GoogleがAIと検索、広告の新たなビジネスを築き上げるのか、それとも競合他社により淘汰されていくのか。検索という“日常インフラ”の主役が入れ替わる時代の節目に、私たちは立ち会っているのかもしれません。
おわりに
私たちも変化を迫られています。これまで私たちは「広告を閲覧する」ことを対価として「検索」を無料で利用してきました。しかし生成AIの登場により、その前提が崩れつつあります。無料プランはあるものの、AIによる検索体験は精度や利便性と引き換えに、月額課金という“直接的な対価”を求めるモデルへと移行しています。
検索とAI、そして広告。この三位一体の構造が今後どのように組み替えられていくのかは、まだ誰にも分かりません。それに伴い、Webサイトの役割も、私たちの情報の探し方や受け取り方も、大きく様変わりしていくでしょう。
今、私たちはその入り口に立っており、これからの情報体験は、これまでの常識を塗り替えるような変化をもたらすかもしれません。
【注釈】
🔢 検索の進化とナンバリング
🔍 検索1.0:ディレクトリ型検索(1990年代前半)
- 例:Yahoo!ディレクトリ、Infoseekなど
- 特徴:人力でカテゴリ分けされたリンク集。情報を探すというより「分類からたどる」体験
- 価値提供:情報が載っている場所の紹介
🔍 検索2.0:キーワード型全文検索(1998年〜)
- 例:Google Searchの登場以降
- 特徴:クローリングとインデックス技術によって、膨大なWebページを瞬時に検索。キーワードとリンクが主軸
- 価値提供:最も関連性の高い「ページ」にたどり着く手段を提供
🔍 検索3.0:パーソナライズド検索(2010年代〜)
- 例:Googleによる検索履歴・位置情報・行動に基づいた個別最適化
- 特徴:ユーザーごとに異なる結果が表示される。検索結果は広告ビジネスと結びつく
- 価値提供:価値提供:ユーザーに「最適と思われる答え」への誘導
🤖 検索4.0:生成AI検索・対話型検索(2023年〜)
- 例:ChatGPT(Search)、Perplexity、Google(AI Mode)
- 特徴:ページを探すのではなく、答えそのものが提示される。情報はWebから取得されるが、形式は自然言語の要約や対話
- 価値提供:「情報を探す」のではなく、「必要な知識や行動提案を得る」体験
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