MagicPodのエバンジェリスト伊藤由貴さん
第5回の今回は、MagicPodでエバンジェリストとして活躍する伊藤由貴さんを紹介します。
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はじめに
DevRelに関わる人たちは増えている一方で「なぜDevRelに関わるようになったのか」「どういったキャリアを歩んで現在があるのか」については、あまり明らかにされていません。それぞれ異なるキャリアを歩んできていますが、その共通項を探っていこうというのが本連載の目的です。DevRelとしてのキャリアに興味がある方に、ぜひ読んでほしいです。
第5回目となる今回は、MagicPodでエバンジェリストを務める伊藤由貴さんに、これまでのキャリアとDevRelとの関わりについてお話を伺いました。
テストエンジニアから社内に技術を広げる役割へ
伊藤さんのIT業界でのキャリアは、大学院を卒業して株式会社ベリサーブへ新卒で入社したのがはじまりです。テストエンジニアとして現場に入り、その後は会社の要請を受けて、テスト自動化に関する業務を約5年間担当しました。
当時は自ら手を動かしながら、顧客の現場でテスト自動化に取り組んでいたといいます。この時点では、DevRelに直接つながるような活動はまだ行っていませんでした。
転機となったのは、社内でテスト自動化の技術をより広く使えるようにする方針が決まった時でした。伊藤さんは現場を離れ、社内のエンジニアに向けた教育コンテンツや研修制度を作成し、テスト自動化を普及させる役割を任されます。
「おそらく、この辺りからDevRel的な仕事に足を踏み入れ始めたのだと思います」
製品や技術を自分で使う立場から、その価値や使い方を他者へ届ける立場へ。この役割の変化が、後のキャリアにつながる最初の一歩になったと振り返ります。
社内での普及活動と社外コミュニティが相互に作用
社内で技術を広げる活動には、社外に向けたDevRelとは異なる特徴があったといいます。社内では、それまでの人間関係や共通認識といった資産が存在するため、社外の人に働きかける場合と比べて活動を始めやすく、物事を進めやすい面があったそうです。
一方で、同じ頃に伊藤さんは個人のコミュニティ活動として、人前で発表する活動も始めていました。社外でほかの人の発表を聞き、自分でも発表し、そこで得た知見を社内の普及活動へ持ち帰る。そのような循環が生まれたことで、社内と社外の活動が相互に良い影響を与えるようになりました。
技術を一方的に説明するだけではなく、異なる場所で得た知識や経験を別の場所へ還元する。この経験を通じて、伊藤さんの活動は次第にDevRelに近づいていきました。
QA組織立ち上げ時にも外部発信が重要な仕事に
社内でのテスト自動化普及活動を約3年間続けた後、伊藤さんは1つの区切りを迎えます。
普及活動により一定の成果が得られた結果、この先は専門チームによる普及ではなく部署や個人ごとの自律的な取り組みで進めて行こうという判断となり、普及推進チームは発展的解散となりました。その後、株式会社カカクコムから声をかけられ、QAチームの立ち上げに携わります。
職種としてはQAエンジニアでしたが、その仕事にはDevRelに近い要素が含まれていました。QA人材を採用し、組織を作っていくためには、自分たちの取り組みや課題を社外に知ってもらう必要があったからです。
伊藤さんは、組織が何に取り組み、どのような課題を抱えているのかを積極的に発信しました。そのうえで、同じ課題に向き合う人に対して、一緒に働くことを呼びかけていきました。
「肩書がDevRelでなくとも、技術や組織の価値を外部へ伝え、人との接点を作る活動はできます。その意味では、開発者とのつながりを作る活動は、特定の職種に閉じたものではないと感じています」
これまでの活動が
MagicPodのエバンジェリストにつながる
カカクコムでQAチームを立ち上げていた伊藤さんに、MagicPodの代表から声がかかりました。プロダクトのエバンジェリストを探しており、伊藤さんに担当してほしいという話でした。
伊藤さんは以前からMagicPodを知っており、良いツールだと感じていました。また、代表から聞いた具体的な活動内容が、それまで自身が取り組んできた社外発信や技術普及と近く、過去の経験を活かせると感じたといいます。
「自分がそれまでやっていた社外への発信や活動とすごく近く、ちゃんと活かせると思いました」
これまでDevRelを正式な肩書きとして担当した経験はありませんでしたが、社内教育やコミュニティ活動、QA組織からの情報発信といった実績が、エバンジェリストとしてのキャリアにつながりました。
MagicPodで目指すのは
テスト自動化市場そのものを広げること
現在、伊藤さんが重視しているのは、MagicPodの利用者を増やすことだけではありません。テスト自動化に取り組む人や、テスト自動化を適切に実践できる人を増やし、市場全体を広げることです。
テスト自動化の市場には、競合する企業やOSSのツールも存在します。しかし、限られた市場を奪い合うだけでは、領域全体の発展にはつながりません。
そのため、MagicPodでは一見すると競合になる企業とも協力し、切磋琢磨しながらテスト自動化の市場を成長させることを重視しています。伊藤さん自身も、その考え方に強く共感しているといいます。
一方、テスト自動化には、開発者向けのツールと比べて知名度が低くなりやすいという難しさがあります。テスト自体は多くの企業で行われていますが、人手による確認が中心になっていたり、ツールの導入優先度が高くない傾向があります。
また、「開発者とQAやテストエンジニアが考えるテストとでは、認識の違いがある」と伊藤さんは指摘します。開発者が実施するチェックとしてのテストに対し、QAでは品質やユーザーにとっての振る舞いを体系的に確認します。
その違いを丁寧に伝えたうえで、テスト自動化の必要性へ話をつなげることも、伊藤さんが登壇やウェビナーで意識している点です。
ウェビナーやブログを通じてユーザーの活動を広く届ける
現在の伊藤さんは、ウェビナーへの登壇やブログでの情報発信を継続しています。
SNSでは、MagicPodのユーザーが公開した活用事例を積極的に共有し、より多くの人の目に触れるようにしています。自社から情報を発信するだけでなく、ユーザー自身の取り組みを広げることも活動の一部です。
MagicPodには、伊藤さんが入社する以前からコミュニティをはじめとするさまざまな取り組みがありました。そのため、現在は担当領域を明確に分けるのではなく、PRチームやセールスチームが実施したい施策や、強化したい活動を横断的に支援しています。
特定の施策だけを担当するのではなく、社内の複数のチームと連携しながら、技術やプロダクトを届ける活動全体を後押しするのが伊藤さんの担っている役割です。
QAで培った経験が人と技術をつなぐ土台に
伊藤さんは、これまでのテストエンジニアやQAエンジニアとしての経験が、現在のDevRel活動に確実に役立っていると話します。
現場のQAエンジニアは、開発者やほかの職種とどのようにコミュニケーションを取るか、品質の重要性をどのように理解してもらうかを日々考えています。
自分たちの取り組みの価値をほかの人に伝えて理解してもらい、実際の行動につなげてもらう。この点は、DevRelの仕事と非常に近いものです。
MagicPodの開発メンバーとやり取りする際にも、この経験が活かされています。ユーザーやQAエンジニアがどのように考えるかを、背景となる思考とともに伝えるよう心がけているそうです。自身がテスト自動化ツールを使っていた経験があるからこそ、ユーザーに近い立場から意見を伝えられることも強みになっています。
DevRelのためにエンジニアとしてのキャリアを捨てるのではなく、エンジニアとして得た専門性を別の方法で活用する。伊藤さんのキャリアは、その選択肢を示していると言えるでしょう。
DevRelに必要なのは他者の成功を後押しする姿勢と
プロダクト開発者への敬意
DevRelを目指す人に必要な素養として伊藤さんが挙げたことは2つあります。まず1つ目は、 “自分自身の成果よりも、他者の成功を優先して考えられること” でした。
「自分がいかにうまくやるかよりも、人の成功を後押ししたり、他人を加速させたりすることが好きな人の方が向いていると思います」
DevRelの役割は開発者とツールやサービスをつなぎ、開発者が日々の仕事をうまく進められるようにすることです。そのため、対象となる人がどのように成功できるかを第一に考える姿勢が重要になります。
具体的な経験として役立つのは、ブログでの発信や人前でのプレゼンテーション、技術を体系立てて教えること、教育コンテンツや研修の枠組みを作ることです。
伊藤さんが以前実施したテスト自動化研修は、受講者が社外でその経験を話したり、後にMagicPodのウェビナーへ参加したりすることにもつながりました。目の前の活動が、数年後に思いがけない形で人とのつながりを生むこともあります。
また、研修は技術を教えるだけの場ではないと伊藤さんは考えています。
「研修は、悩みを聞く場でもあります」
ワークの時間に参加者と雑談し、困っていることや参加した理由を尋ねることで、本質的な課題が見えてきます。一方的に話すのではなく、相手に話してもらう場を作ることも、技術を届けるうえで重要です。
そして、もう1つがプロダクト開発者への敬意です。
伊藤さんがDevRel活動を行ううえで、常に気をつけているのが、自分自身が特別な存在だと勘違いしないことです。
人前でプロダクトを紹介する役割では、必然的に自分が注目される機会が増えます。しかし、それはあくまでも担当している役割によるものです。
実際にプロダクトを作っているのは、社内の開発メンバーです。多くの人がプロダクトを開発しているからこそ、DevRelとして外部へ紹介できます。
表に立つ人だけで活動が成立しているわけではないことを忘れず、プロダクトを作る人への敬意を持ち続ける。この姿勢も、DevRelに必要な素養の1つだと指摘しています。
QAの外へ接点を広げ、テスト自動化の第一想起を目指す
現在の伊藤さんが感じている課題は、これまで築いてきたつながりがQAエンジニアの領域に集中していることです。開発者やエンジニアリングマネージャーなど、より広い職種に対しては、まだ十分な接点を持てていないと感じています。
そこで、他社のカンファレンスやイベントのスポンサーブースで積極的に参加者と話したり、QA以外の職種を対象としたウェビナーを開催したりしながら、少しずつ活動範囲を広げています。
直近の目標は、QAやテスト以外の人にもMagicPodを知ってもらい、導入を検討してもらうことです。そして、ゆくゆくの目標も次のように語ってくれました。
「開発の方や全然違う方面の方が、テスト自動化やテストのことで困ったときに、第一想起される人になりたいです」
現場で再びエンジニアとして手を動かすことよりも、幅広い人に技術を届けることにやりがいを感じているという伊藤さん。これまで積み重ねてきた専門性を基盤に、技術と人をつなぐ活動をさらに広げようとしています。
専門性を持って技術を届けることもエンジニアのキャリア
伊藤さんは、DevRelという肩書きになる以前から、社内での技術普及やコミュニティ活動、組織からの情報発信など、DevRelに近い活動を続けてきました。その積み重ねが評価され、現在のエバンジェリストという仕事につながっています。
今回、伊藤さんのお話を伺って感じたのは、DevRelはエンジニアリングとは別の道ではないということです。現場で培った専門性や課題を理解する力、他者へ技術を伝える経験は、そのままDevRelの土台になります。
自分で技術を使い成果を出すだけではなく、その技術を必要としている人に届け、成功を後押しすることもエンジニアとしてのキャリアの1つだと言えます。
伊藤さんの歩みは、肩書きにかかわらず日々の仕事や社外活動の中で技術を広げる経験を積むことが、将来のDevRelキャリアにつながる可能性を示していると言えるでしょう。
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