Postmanのテクノロジー・エバンジェリスト川崎庸市さん
第4回の今回は、Postmanでテクノロジー・エバンジェリストとして活躍する川崎庸市さんを紹介します。
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はじめに
DevRelに関わる人たちは増えている一方で「なぜDevRelに関わるようになったのか」「どういったキャリアを歩んで現在があるのか」については、あまり明らかにされていません。それぞれ異なるキャリアを歩んできていますが、その共通項を探っていこうというのが本連載の目的です。DevRelとしてのキャリアに興味がある方に、ぜひ読んでほしいです。
第4回目となる今回は、Postman株式会社のテクノロジー・エバンジェリスト川崎庸市さんに、これまでのキャリアとDevRelとの関わりについて話を聞きました。
話を通じて印象的だったのは、川崎さんが一貫して「現場感」を重視していることです。DevRelという職種を、単なる発信やイベント運営ではなく、技術とユーザーの課題をつなぐ仕事として捉えている姿が見えてきます。
社内開発からキャリアを始め
ソフトウェアエンジニアとして約10年を過ごす
川崎さんのキャリアは、大学卒業後に入社したテック系ベンチャーから始まりました。ソフトウェアエンジニアとしてキャリアをスタートし、2社のベンチャー企業とYahoo! JAPANで、合計約10年にわたって開発に携わってきたそうです。
扱ってきた領域は幅広く、Webサービス、モバイル向けの組み込み系ソフトウェア、大規模サービスのバックエンド、社内サービス基盤のようなプラットフォーム開発まで経験しています。当時を振り返り、川崎さんは「あまり外に出ることもなく、会社の中で内向きの開発をずっとやっていた」と話します。
その頃は、自分は一生ソフトウェアエンジニアとしてやっていくのだろうと考えていたそうです。そこから転機になったのが、Microsoft時代のAzureのソリューションアーキテクトでの経験です。
ソリューションアーキテクトとしてプリセールスに関わり、顧客やユーザーに向けてクラウドのアーキテクチャ策定や技術支援を行っていました。川崎さんは、DevRelのようなことに関わるきっかけは、この経験だったと振り返ります。
それまで社内開発が中心だった川崎さんにとって、外部の顧客やユーザー、コミュニティに向き合う仕事は大きな変化でした。「社外の人たちと関係を築くことや会話すること、お客さんと向き合って仕事をすることが好きだと気づいた」と話していたのが印象的です。
NoOpsコミュニティの運営で
外の熱量と課題に触れる
Azureのソリューションアーキテクトとして活動する一方で、川崎さんはNoOpsコミュニティ「NoOps Japan」の立ち上げにも関わりました。クラウドネイティブやDevOps、SRE、自動化といった考え方を背景に、技術的な障壁を減らしていこうというコミュニティです。
川崎さんにとって、これが初めて運営するコミュニティだったそうです。運営メンバーは少人数で、スピーカー探しや運営、企画まで担当していました。コミュニティを回していく中で、開発者や運用担当者が何に課題を感じているのか、参加者がどのようなテーマに関心を持っているのかが見えるようになったといいます。
この経験は、川崎さんにとってDevRel的な活動の原点の1つになりました。社外の人たちと広くつながる面白さ、人脈が広がる感覚、そしてコミュニティにある熱量。そうしたものが、後の活動に大きく影響していきました。
NoOpsコミュニティを運営するうちに、川崎さんの中で「それを人に語るだけでなく、実際に活用してプロダクト開発をやりたい」という思いが生まれていきます。
その後、川崎さんはZOZO Technologiesに移り、クラウドベースのシステムへ刷新するプロジェクトに関わりました。そこでクラウドネイティブな技術を現場で活用し、プレイングマネージャーやテックリードとして、チームマネジメントと技術横断的な相談を担ったそうです。
川崎さんのキャリアは、外に向けて技術を語ることと、実際に手を動かして現場で技術を使うことを行き来しています。この往復が、現在のDevRel活動にもつながっています。
製品だけでなく
業界全体を盛り上げるコミュニティ活動
川崎さんがPostmanに参画するきっかけは、Microsoft時代に一緒に仕事をしていた現Postman日本代表の平林さんからの声がけでした。川崎さん自身、クラウドに関わる中でAPIを扱う機会が多く、PostmanがまだChrome拡張機能としてリリースされていた初期のころから使っていたそうです。入社した当時は、まさに日本法人の立ち上げ期でした。最初の活動は手探りで、まず自社イベントを立ち上げるところから始まったといいます。
当初はPostman Meetupとして、Postmanにフォーカスしたイベントを行っていました。しかし運営する中で、自分たちの製品だけに閉じるのではなく、APIやソフトウェア業界全体を盛り上げることが重要だと考えるようになります。そうした思いから、現在はPostman API Nightへと形を変えています。
Postman API Nightは、APIというテーマを広く捉えたコミュニティです。SDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル)やAI、企業の取り組みやアーキテクチャ上の挑戦など、APIを軸にしながらも幅広いテーマを扱う場として育っています。
また、Postmanではイベント運営だけでなく、ワークショップにも力を入れています。川崎さんはワークショップに手応えを感じており、まもなく3年を迎えるほど継続して実施しています。コンテンツを作り、毎回フィードバックを受け取り、それをもとに継続的に改善しているそうです。入門編から始め、APIテスト、コラボレーション、認証など、段階的にテーマを広げていきました。
コミュニティなどの活動では、対面でユーザーの声を聞くことも重視しています。一方で、教育系のワークショップはオンラインの要望が多かったため、オンライン形式へ切り替えました。形式は変えつつも、フィードバックを重視する姿勢は変わっていません。
川崎さんによると、日本での地道で継続的な活動はグローバルでも評価されており、ヨーロッパやAPACでも同じような取り組みを進めたいという声が出ているそうです。
DevRel活動の中心にあるもの
川崎さんがDevRelとして重視しているのは、ユーザーの課題を深く理解することです。イベントに出てユーザーのフィードバックを聞き、各種アウトプット活動につなげています。この時意識しているのは単なる製品機能の紹介ではなく、その背景にある思想や考え方を伝えることだといいます。
「単なる製品紹介だと、自分じゃなくてもできる」と川崎さんは話します。製品ページを読めば分かるような機能説明ではなく、その機能がどのような課題を解決し、どのような体験や価値につながるのかを伝えることが重要だと考えています。
そのためには、製品理解だけでは不十分です。ロードマップやベータ段階の機能にも触れながら、プロダクトがどこを目指しているのかを理解する必要があります。さらに、APIの周辺技術、AIを使ったコーディングやテスト、アーキテクチャ、セキュリティ、ガバナンスといった領域にも目を向けています。
川崎さんは、開発者や利用者と同じ目線で話すには「現場感」が必要だと語ります。表面的な話では開発者に簡単に見抜かれるため、技術や課題を高い解像度で理解し、同じコンテキストを共有できるようにキャッチアップを続けているそうです。
だからこそ、DevRelがエンジニアリングから離れる仕事ではなく、むしろエンジニアとしての経験を形を変えて活かせる仕事だと川崎さんはいいます。ソフトウェアエンジニア、ソリューションアーキテクト、テックリード、コミュニティ運営、プリセールスやポストセールス的な導入支援。川崎さんのこれまでの経験は、現在のPostmanでの活動に総合的に活かされています。
同時に、川崎さんは今も技術の現場から離れないようにしています。積極的にコードを書き、技術顧問としてスタートアップのアーキテクチャや技術にも関わっています。記事や雑誌の執筆も、書きながら学ぶ機会として捉えているそうです。
DevRelは開発や営業、マーケティングのどれか1つに完全に収まる仕事ではありません。川崎さんは「その曖昧な立ち位置を受け入れることが重要」だと話します。どこからも完全には理解されないこともある一方で、だからこそ複数の視点を持ち、価値を翻訳する役割を担えるのです。
DevRelに必要なのは
「外に出る」「同じ目線で話す」「価値を翻訳する」
これからDevRelに興味を持つ人に向けて、川崎さんがまず勧めるのは「外に出ること」です。コミュニティに参加する、人と話す、オンラインでもオフラインでもよいので、社外の人と接点を持つことが大切だといいます。
川崎さん自身、もともとは社内向けのシステム開発をしていました。しかし外に出ることで、さまざまな人の考え方、課題感、求めているものが見えるようになりました。メディアから得られる情報だけでなく、生の声に触れることが重要だと話します。
特にコミュニティについては、マルチベンダー、マルチプロダクトで、さまざまなアイデアや立場の人が集まる場であることに価値を感じたそうです。最初に参加したとき、そこにある熱量に巻き込まれ、心地いいと感じたことが原点にあるといいます。
また、DevRelに必要な素養として、川崎さんは「価値を翻訳する力」を挙げています。機能そのものではなく、その機能によってどのような体験が得られ、どのような課題が解決されるのかを伝える力です。そのためには、ユーザーと同じ目線、同じ理解、同じ解像度を持つ必要があるといいます。
日本から、APIをプロダクトとして
成功させる事例を作りたい
今後の目標について、川崎さんは「Postmanから、日本でAPIをプロダクトとして成功させる事例を作っていきたい」と話します。海外と比べると、日本ではAPIをプロダクトとしてビジネス上成功させている事例が少ないと感じているそうです。
現在はAIという文脈もあり、APIを活用した新しい成功事例が生まれる可能性があります。川崎さんはPostmanを盛り上げるだけでなく、日本から優れたAPIをプロダクトとして成功させる事例を作ることを目指しています。
個人としての明確な肩書きや到達点については、固定した答えはないといいます。ただし、一貫しているのは、新しい考え方や技術の最前線に入り、現場感を忘れないエンジニアであり続けたいという姿勢です。
技術は変わり続けており、AIの次に何が来るかも分かりません。それでも常に解像度を高く保ち、現場に入り、学び続ける。その姿勢こそが、川崎さんのDevRel観であり、エンジニアとしての軸でもあるように感じました。
まとめ
今回のインタビューで見えてきたのは「DevRelという仕事が、発信力やイベント運営だけで成り立つものではない」ということです。川崎さんの活動の中心にはユーザー課題の理解に始まり、技術の背景を捉え、製品の価値をユーザーの言葉に翻訳する姿勢があります。
ソフトウェアエンジニアやソリューションアーキテクトとして顧客に向き合った経験、コミュニティを運営した経験、そして現場で手を動かし続ける姿勢。それらが重なり、現在の川崎さんのDevRelにつながっています。
DevRelを目指す人にとって、最初の一歩は特別な肩書きを得ることではなく、外に出て人と話し、リアルな課題に触れることなのかもしれません。そしてその先に、技術とユーザー、製品と体験、企業とコミュニティをつなぐ仕事としてのDevRelが見えてくるのだと感じました。
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