はじめに
DevRelに関わる人たちは増えている一方で「なぜDevRelに関わるようになったのか」「どういったキャリアを歩んで現在があるのか」については、あまり明らかにされていません。それぞれ異なるキャリアを歩んできていますが、その共通項を探っていこうというのが本連載の目的です。DevRelとしてのキャリアに興味がある方に、ぜひ読んでほしいです。
第1回目となる今回は、Salesforce Developer Advocateである小田祥平さん(以下、おだしょーさん)を紹介します。これまでのキャリアの変遷から外資系への転身、DevRelとの出会い、そしてエンジニアとしての経験がどのようにDevRelに結びついているのかまで、順を追って伺いました。
おだしょーさんの話を通じて印象的だったのは、キャリアの一つひとつが偶然の積み重ねではなく「技術を理解した上で人に伝える」という軸でつながっていた点です。職種や所属企業は変わっても、彼の姿勢は一貫しています。
技術と発信を軸に
積み上げてきたキャリアの変遷
おだしょーさんは新卒で日系SIerに入社し、コンタクトセンターシステムやBIツールなどインフラ領域を中心とした案件を担当していました。その後、社内異動を経てSalesforceやモバイルアプリ開発など、SaaSやアプリケーション領域へと経験を広げていきます。
SIer時代に社長直轄の選抜制度で抜擢され、技術コミュニティ活動に関わる機会を得たことが転機となりました。通常の開発業務に加えて外部活動を行うことで、技術を「作る」だけでなく「伝える」側面に強く関心を持つようになったといいます。
その後Microsoftへ転職し、Developer Audience Marketing ManagerとしてAzureを中心とした啓蒙活動に従事しました。COVID-19の時期には開発者向けYouTubeチャンネル「クラウドデベロッパーちゃんねる」を立ち上げ、新しいチャネルを活用した情報発信にも取り組みました。
さらにmablではQuality Advocate兼Product Marketing Managerとして生成AI時代におけるソフトウェアテストの重要性を発信し、コミュニティ支援やカンファレンス運営など活動の幅を広げました。現在はSalesforceにDeveloper Advocateとして所属し、Agentforceを中心とした技術啓蒙やコミュニティ支援を担っています。
外資系への転身は
裁量と実行スピードを求めた結果
日系企業から外資系への転身について、おだしょーさんは「明確な理由があったわけではない」と話します。ただし、若いうちから責任ある立場で仕事を任され、自分の裁量で動ける環境は大きな魅力だったといいます。
特に印象的だったのは、意思決定のスピードです。多くの承認を経てから動くのではなく、思いついたことを素早く形にできる環境は、コミュニティ活動や技術発信のような領域と相性が良かったと振り返ります。
おだしょーさんの言う「思い立ったらすぐ行動に移してアウトプットを出せる」という点は、単なる働き方の違いではなく、DevRel的な活動を継続する上で重要な要素です。それは現在のSalesforceでも同様で、管理はしっかりしている一方、アイデアを形にしやすい文化があると感じていると語っていました。
外資系を選んだ理由は、企業文化よりも「自分の行動が価値につながるまでの距離の短さ」にあるようです。
コミュニティで受けた衝撃
おだしょーさんとDevRelとの出会いは、日系企業時代に技術コミュニティへ参加したことが始まりでした。当時、同僚がDevRelコミュニティに関わっていることを知り、興味を持ったのが最初のきっかけだったといいます。
当初は、仕事以外の時間を使って技術コミュニティに参加することに抵抗があったそうです。しかし実際に参加してみると、純粋に技術を楽しみながら議論する人たちの姿に強い衝撃を受けたと語ります。
その経験を通じて、自分が「受け身の職業エンジニア」であったことに気づき、能動的に発信する側へと意識が変わっていきました。ここからコミュニティ運営や登壇活動へと関わりが広がっていきます。
「DevRelCon Tokyo」の運営や登壇などを経て、国内外で活動する立場になったことは偶然ではなく、コミュニティ参加から始まった小さな変化の積み重ねだったと振り返ります。
DevRelに関わって得た実感と広げたい価値
DevRel活動を通じて得た実感として、おだしょーさんは「自分のアウトプットが他者との議論や行動の変容を生み出す瞬間」を挙げています。登壇や発信を通じて参加者同士の会話が生まれることや、なんらかの変化を与えることに強い手応えを感じたそうです。
また、良い体験を他の人にも届けたいという気持ちが活動の原動力になっているとも話していました。自分自身がコミュニティで得た経験が大きかったからこそ、同じ体験を他者にも広げたいという考えです。
「自分の感じた良い体験を他の人にも味わってほしい」という言葉には、DevRelが単なるマーケティングではなく、人の成長やキャリアにも関わる仕事であるという認識が表れていました。
その結果として、単独で発信するだけではなくコミュニティの中で他者が発信できる場づくりにも意識が向くようになったといいます。これはDevRel活動の成熟を感じさせる視点でした。
現在の仕事と学び続ける姿勢
Salesforce入社後は、Trailheadを活用しながら技術的なキャッチアップを進めている段階だと話します。短期間で認定資格を取得し、Agentforce関連の理解を深めている点からも、新しい技術を貪欲に学ぶ姿勢が見えます。
現在は開発者や管理者向けのコミュニティ支援、イベントやハッカソンへの関与、オンライン配信への出演など、Developer Advocateとしての活動を広く担っています。
また、Salesforceの技術を自社だけに閉じず、外部との連携を強化していきたいという考えも示していました。技術の世界観を広げ、より多くの人が実際に手を動かすきっかけを作ることが重要だと考えているとのこと。
今後はブログだけでなく動画など複数チャネルでの発信も視野に入れており、Developer Advocateとしての活動領域をさらに広げていく意向が感じられました。
DevRelと
エンジニアのキャリアは地続きである
DevRelにはマーケティング的な要素もありますが、おだしょーさんは「DevRelのDev(Developer)の部分はエンジニア経験がないと成り立たない」と語っています。技術者と同じ視点で話せることが信頼形成の前提になるという考えです。
「同じプロトコルで会話できること」が重要であり、単にイベントを運営するだけではDevRelとして十分ではないとも述べています。技術的な疑問を解消し、プロダクトへの理解や愛着につなげる役割があるからです。
一方で「DevRelに移るとエンジニアとしての実務経験が減る」という課題もあります。そのため、学習コンテンツを活用したキャッチアップや顧客との接点を持つことを意識していると話していました。
エンジニアリングとコミュニケーションを往復する働き方は「攻撃も回復もできる魔法戦士のようなポジション」という表現に象徴されています。技術とビジネスを橋渡しする役割としてのDevRel像が明確に語られていました。
DevRelに必要な素養は
技術理解と関係構築の両立
インタビュー全体を通じて、おだしょーさんが繰り返し語っていたのは「同じ目線で話せること」の重要性でした。エンジニアコミュニティの中では、技術を理解していること自体が信頼の前提になります。
その上で、DevRelは技術だけでは成立しません。マーケティングやコミュニケーション、社内外の関係者との調整など、多面的なスキルが求められます。
さらに、プロダクトへの愛着も重要な要素として挙げていました。単に情報を伝えるのではなく、自分自身が熱狂的なファンであることが説得力につながるという考えです。
DevRelは技術者と企業、コミュニティとプロダクトをつなぐ存在であり、その中心には「人との関係性」があるという点が印象に残りました。
まとめ
おだしょーさんのインタビューを通じて見えてきたのは、DevRelが単なる発信職ではなく、エンジニアリング経験とコミュニティ理解の両方を必要とする実践的な役割であるということです。
おだしょーさんのキャリアは技術者としての経験を土台にしながら、コミュニティで得た価値を他者へ還元する方向へ自然に広がってきたように見えました。発信やイベントは手段であり、ゴールは「技術を通じて人の可能性を広げること」にあると感じます。
こうした働き方に興味がある方は、ぜひDevRelにチャレンジしてください!
