第三者インスペクションとは

2009年3月4日(水)
細川 宣啓

第三者インスペクションのメリット

 第三者インスペクションは、前述3つの欠陥の「精度」「客観性」「スピード」のすべてに利点が得られます。

 まず検出精度ですが、一般のソフトウエア/システム開発者とは比べ物にならないほど、たくさんの種類の欠陥に遭遇/経験しており、検査精度そのものが極めて高いと言えます。検出後についても正しい対処方法や除去時の優先順位(欠陥Aを除去した後に欠陥Bを除去しないとAが再発するといった除去順序のこと)などまで教えてくれるでしょう。

 この「欠陥の専門家」というような職業/職能の様子は、一般病院にはないが大学病院などに存在する「病理学」という分野の専門家に酷似しています。体の場所/診療科に関係なく、人間が患うすべての病気の感染原因、発生メカニズム、予防方法や治療計画を立てる専門家は、現代医学の分野ではその重要性がますます叫ばれている状況です(IT業界に置き換えるとこのような研究や専門性を持つ職能としての認知度はまだまだではないでしょうか)。

 プロジェクトの開発期間が例えば半年~1年であるのに対して、インスペクションの専門家は1年に数十から数百のプロジェクトを経験することも少なくありません。言い換えれば、業界知識やアーキテクチャー、そして一般的に陥りがちな落とし穴も数多く経験しており、これら経験や知識の横展開の恩恵に与れる点は、当該専門家の重要性として今以上にもっと認知されてよいと筆者は考えます。

 次に、客観性については、作った人間の思い入れ、正しいはずだという思い込みなどが全くないため、作成物をある意味「たたきつぶす」つもりで検査します。仕様や処理の誤解釈を誘発する原因となる(=つまり欠陥因子)をすべて洗い出し、欠陥を埋め込んだ人を非難せず、欠陥そのものと影響、被害のみに注力し客観性のある検査が行えるのです。

 ちなみにアメリカではインスペクションなどの検査専門家のことをブラックマジックチーム(黒魔術チーム)と呼ぶこともあります。なぜその欠陥を検出できたのか、なぜ短期間に見つけることができたのかなどの疑問を一切明かさずに、大量の欠陥リストだけが結果として出力される様子を「黒魔術」と称するのは納得できる内容です。

第三者インスペクションのコスト

 さらに、最も重要な品質コストへの影響ですが、専門家のスピードは圧倒的です。一般の人と専門家では、検査実施のスピード差があることは当然なのですが、それ以上に品質検査中に「プロジェクトチームを待たせない、とめてしまわない」ことが最大のメリットです。もしも、プロジェクトメンバー自身が検査を行う場合、検査期間中はプロジェクト内の開発ができないため、生産量はゼロになります。しかし、第三者にその検査を委ねた場合、開発と検査作業の並行実施が可能になるため、最終的な期間が短縮できるメリットがあります。

 実際は専門家の調達コストが若干増加することや、作成が進行している個所に欠陥が検出された場合の手戻りなどさまざまな課題もありますが、多くはコストの面から見るとかなり小さいものです。

 単純なコストメリットだけではなく、「確信を持ってプロジェクトを進められる」「みんなで確認したから安心できる」といった定性的効果は、健全なプロジェクト実現に大きな効果をもたらすことも特筆すべきメリットです。

日本アイ・ビー・エム株式会社
1992年日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。SEを経て1999年より同社品質保証組織にてQuality Inspectionチームを立上げ。品質工学および上流フェーズ欠陥検出技術の社内外への展開を手がける。IEEEAssociateMember. 経済産業省IPA/SEC価値指向マネジメントワーキンググループメンバー。2007年ASTA Korea、2008年4WCSQにて発表。http://www.ibm.com/jp/

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