定量データに基づくインスペクション
定量測定の動機
まず、今回は品質の定量測定について「定量測定はなぜ必要か」について考察してみましょう。品質定量測定の目的は、実にさまざまです。その理由は立場/役割(ロール)によって、品質を理解/把握したいと思う動機がさまざまだからです。例えば、品質定量測定を行う理由は次のようなものがあるでしょう。
1.不安を低減するため
2.開発の途中で価値を確認したい
3.正しいものを正しく作っているか、ふかん的/大局的にエラーを見つけたい
1は特にステークホルダーやスポンサー/エグゼクティブに多く、プロジェクトという「投資」がうまくいっていることを把握したいというのが第一の理由でしょう。また別の観点ではこのプロジェクトを中止する時期、タイミングを判断したいというネガティブな理由もあるでしょう。
一方2や3はプロジェクトマネジャーやリードアーキテクトの人に多く、自身の持つプロジェクトに関して正直に品質状況を把握して、打開策を早期に打ちたいという理由が多いでしょう。
どんな理由であれ、品質を「知りたい」というニーズは尽きることはありませんが、品質はほかの要素、例えばコストや時間と決定的な差異があるため定量化が困難です。単位がないからです。一般的にコストは「円」や「ドル」といった通貨単位が、また時間についても「日」「月」「半年」といった単位があります。ところが品質に関してだけは単位がないため、そもそも「品質がよい」「品質が低い」といった言い方にならざるを得ないのが実情です。
このような品質を定量化しようとする場合、何か別の指標(代替指標)によって数値化するしか手がありません。
測定困難な対象の定量化=代替指標による数値化
1つ非常に簡単な例として、「おいしさ」を測定(および推定)する方法にはどんなものがあるかを考えてみましょう。
まずは、とうもろこしの皮をむかずに「店の棚から一番おいしい(はずの)1本」を選ぶ方法を考えます。具体的には、皮の緑が最も濃いもの、先端のひげが多いもの、および太く重たいものを選ぶとよいと言われています。
とうもろこしのおいしさの成分を分解してみると、なぜそのような方法なのかが理解できます。とうもろこしのおいしさは、科学的には水分と甘み、および質量に分解できます。とうもろこしは枝から折り取った瞬間から水分と共に皮の緑の色が抜けていくそうです。そのため緑が濃い=新鮮ということを知っていれば、水分が多いことが類推できます。またひげの本数ととうもろこしの実の粒数は1対1だそうで、これを知っている場合、ひげが多いものを選べば粒が多いものになるというそうです。
このように「おいしさ」であっても緑の濃さやひげの本数といった代替指標による数値化を通じて定量化することが可能である、というわけです。
品質にもこのような「代替指標」の組み合わせによって定量化を実現する方法はないでしょうか。