データから読み解く! ITエンジニアの「市場価値」と「評価ポイント」

2025年4月2日(水)
大峯 瑞季
第2回の今回は、ITエンジニアの「市場価値」を構成する要素と「評価ポイント」について、データをもとに解説します。

はじめに

近年、キャリア形成の在り方は大きく変化しています。終身雇用が前提だった時代から、現在では転職が一般的な選択肢となりつつあります。レバテックの調査では、IT人材の約半数が転職活動について「経験あり」と回答しました*1

転職活動が一般化してきた現代において、IT業界に特化したキャリアアドバイザーとして、日々多くのIT人材の方からキャリアに関するご相談をいただきます。その中で、多くの方が不安に感じているのは「自身の市場価値」です。「今の会社での評価は転職市場でも通用するのか」「もっと自分を評価してくれる会社はないのか」といった不安や期待を抱えている方が少なくありません。

技術の進歩やトレンドの移り変わりが速いIT業界において、自分の理想とするキャリアを築き、市場価値を高めるためには、どのような準備が必要なのでしょうか。

*1: 2025年1月発表「レバテック IT人材白書 2025」

転職における「市場価値」と
トレンドの技術スキルを追い求める危険性

 転職における市場価値は、一般的に「市場全体の『需要』と『供給』のバランスによって決まる」と言われています。あるスキルや経験について求める企業が多く、そのスキルを保有する人材が少ないほど市場価値は高くなります。

IT業界では「特定の技術スキルを持っている=市場価値が高い」と思われる方もいるかもしれません。しかしながら、技術スキルの需要は常に変動するため、注意が必要です。

例えば「Python」の求人倍率*2は2021年12月時点で34.5倍でしたが、2024年12月には8.3倍に落ち着きました。「PHP」も2021年12月時点の12.3倍から2024年12月には4.5倍となっています。

*2: 求人倍率の定義
【算出式】求人倍率=求人数÷転職希望者数
【求人数】レバテックのエージェントサービスで募集中の中途採用求人数
【転職希望者数】レバテックのエージェントサービスで正社員転職を希望している利用者数

また、近年ではプログラミング学習の必修化、生成AIやローコード/ノーコードといった新しい技術の登場により、単にコーディングができるだけでなく、プロダクトの成長を見据えたビジネス的な視点を持つエンジニアの価値が高まっています。

つまり、技術の進化は速く、現在の主流技術や職種も数年後に需要が変化する可能性があるということです。自分自身の市場価値を正確に把握するには、技術トレンドを追いかけるだけでなく「自分を客観視して将来的なキャリアプランを設計すること」が重要です。

転職で評価されるIT人材とは
データから見る市場のリアル

転職におけるIT人材の市場価値は、実務経験、保有資格、技術スキル、マネジメント経験の有無など、複数の要素で決まるとされています。企業や職種によって重視するポイントは異なりますが、共通する傾向も見られます。

レバテックが過去に実施した調査*3によると、エンジニア採用において企業担当者が最も重視しているのは「コミュニケーション能力(44.1%)」となり、次いで「現職や前職での業務内容(29.4%)」「コーディング・技術力(27.3%)」が挙げられました*3

*3: 2024年1月発表「レバテック IT人材白書 2024」

特に評価されるポイントについて、企業のエンジニア採用担当者の実際の声をもとに解説していきます。

1位: コミュニケーション能力

企業が求める「コミュニケーション能力」とは、技術的な内容を分かりやすく説明する力や、チームメンバーと協力してプロジェクトを進める力など複数の観点を含みます。例えば、複雑な技術内容を非エンジニアにも伝えられる能力は、プロジェクトを円滑に進行するうえで重要です。また、課題解決に向けてチームで連携しながら取り組む姿勢も高く評価されます。

さらに、生成AIの普及によりエンジニアに求められるスキルも変化しています。レバテックの調査*4では、採用担当者の4割以上が「エンジニアに求めるスキルが変化した」と回答しており、その中で特に重要視されるようになったのが「コミュニケーションスキル(48.3%)」でした。生成AIが業務効率化を進める中、複雑化するプロジェクトやチーム間の連携が求められる現代では、今後ますますコミュニケーション能力が重要になると言えるでしょう。

*4: 2025年2月発表「生成AI時代における、IT人材の採用動向と働き方に関する調査」

しかし、面接の場においてコミュニケーション能力をアピールすることは容易ではありません。よくある失敗として、自分が担当したプロジェクトやサービスについて、面接官の理解度を確認せずに説明を進めてしまうケースが挙げられます。誰のために、どのような目的で開発されたシステムなのか」といった前提情報を丁寧に説明することで面接官の理解を深め、自身の貢献を明確に示すことができます。

また、ITリテラシーが異なる様々なステークホルダーと協業した経験について、職務経歴書に記載することも有効です。例えば、要件定義のためにユーザー部門と協力して業務フローを整理した経験や、クライアントへの仕様説明にモックアップや図解を用いた経験などは、非言語的なコミュニケーション能力を示す好例です。さらに、チームメンバーとのコードレビューやペアプログラミングの経験を記載することも、チーム開発力のアピールに繋がります。

2位: 現職や前職での業務内容

企業が採用時に重視するポイントの1つに「取り組んでいる業務内容が自社で活かせるかどうか」が挙げられます。そのため、自身の業務内容や専門性について説明できることはもちろん、その専門性が市場においてどの程度の価値を持つかを理解しておくことが重要です。

また、レバテックの調査では、採用時に注目される経験やスキルとして「顧客折衝経験(24.8%)」や「プロジェクトマネジメント経験(19.3%)」が上位に挙がりました*5。これらの結果からも分かるように、前職までの経験の中でも特に、クライアントとの信頼関係を築きながら課題解決に取り組む能力や、プロジェクトを推進した実績が重視される傾向があります。

*5: 2024年1月発表「レバテック IT人材白書 2024」

3位: コーディング・技術力

企業は、書類選考、面接、コーディング試験など様々な方法で技術力を総合的に評価します。

書類選考では、職務経歴書から経験年数、担当工程、使用言語といった基本情報に加え、プロジェクトへの貢献や課題解決能力などが確認されます。

コーディングテストは、スタートアップ企業やWeb系システム開発企業で多く実施され、プログラミング能力やアルゴリズム設計能力を測る指標となります。対策としては、書籍や過去問だけでなく、AIツールを活用した学習も有効です。

また、単にコーディングスキルや技術スキルが高いだけでなく、技術への理解度や関心の高さも重要な選考要素になります。

面接では、業務経験に基づいて技術の理解度や関心の高さを問う質問も少なくありません。想定される質問への事前の準備はもちろん重要ですが、日頃から下記のような活動に取り組むことで、面接や書類選考でより効果的にアピールできます。

・技術ブログ執筆
自身の技術的な知見や経験をブログで発信することは、技術力の証明材料となります。内容は特定技術の解説記事、導入事例紹介、新技術の学習過程や気づきなど、自身が執筆しやすいテーマから始めてみましょう。採用担当者は技術ブログの内容から、候補者の専門性、問題解決能力、コミュニケーション能力などを評価するケースがあります。

・OSS(オープンソース)活動
GitHubなどのプラットフォームでOSS活動に貢献することは、技術力だけでなく、コミュニティへの貢献意欲、協調性などもアピールできます。GitHubでの活動実績は、採用選考における評価ポイントとなる場合もあります。

・技術カンファレンス登壇
エンジニア向けの勉強会やカンファレンスは、規模の大小を問わず発表・登壇のチャンスがあります。自身の活動内容を発表することで技術力やプレゼンテーション能力を効果的にアピールできます。特にOSS活動の成果発表は、高い評価に繋がります。

自分を客観視するためには

ここまで、転職市場で一般的に評価されるポイントを解説してきました。それでは、実際に自分が転職市場でどれくらいの価値を持つのか、どのように把握すれば良いのでしょうか。IT分野は技術の進化が速く、企業が求めるスキルセットも変化しやすいため、常に最新の情報を取り入れることが重要です。

以下に、市場価値を把握するための具体的な方法をいくつか紹介します。自分に合った方法から始めてみてください。

【手軽に始められる情報収集方法】

  • ウェビナーへの参加(手軽度★★)
    市場ニーズや将来性のある技術について効率的に学べる。質疑応答で具体的な疑問を解消することも可能
  • SNSの活用(手軽度★★★)
    LinkedInやX(旧Twitter)といったSNSは業界内のトレンドをリアルタイムで把握するのに非常に有効。同じ業界で働く人との横のつながりを築く手段としても有効である

【より深く市場を理解する方法】

  • 交流会や勉強会への参加(手軽度★)
    同じキャリアを持つ人々が集まる交流会や勉強会は単なる情報収集にとどまらず、現場感覚を持った人たちとの「深い情報交換」が可能な場である。また、直接会って話すことで信頼関係を築きやすく、将来的な仕事の機会に繋がる可能性も
  • 転職エージェントやコーチングサービスの活用(手軽度★★)
    キャリアの専門家からのアドバイスを受けることは、自分の市場価値やキャリアプランの可能性を客観的に把握する上で効果的。自分のスキルがどのように評価されるか、またどの分野での活躍が期待されるかを具体的に教えてもらえる

市場を知ったうえで
転職で失敗しないためのポイント

市場で評価される方法や観点を理解した後で、市場価値の高さだけを追い求めるのは危険です。転職で失敗しないためには市場価値だけでなく、自分自身を理解することが重要です。以下の3つのポイントを意識しましょう。

自分にとっての幸せを深掘りする

「仕事でやりがいを感じるのはどのようなときか」「どのような仕事や環境なら苦ではないか」を考えてみましょう。市場における需要が高くても、興味が持てなかったり、やりがいを感じられない仕事は長続きしない可能性が高いです。自身の幸せを維持・実現するための働き方やキャリアを考えることが重要です。

【例】

  • 家庭で過ごす時間や趣味の時間に最も幸せを感じる
    →プライベートを充実させられるようなワークライフバランスの良い仕事
  • コミュニケーションを取るのが好き→交流機会の多い仕事

強みを活かす

自分の強みは何で、どのような環境で活かせるかを考えましょう。これまでのキャリアを振り返り、得意なこと、成果を出せた経験、そしてそれらを通して得られた強みを具体的に洗い出しましょう。

どのようなキャリアパスを歩みたいか考える

エンジニアのキャリアパスはゼネラリストとして幅広い業務経験を積む、スペシャリストとして特定の技術を深掘りする、フリーランスとして独立するなど、様々な選択肢があります。Web系であればフロントエンド・バックエンドそれぞれの技術力を身につけたフルスタックエンジニアを目指す方もいれば、インフラ系でクラウドエンジニア・AIエンジニアとして専門性を追求する方も少なくありません。だからこそ、ご自身の個性や志向に合ったキャリアパスや目指したい姿を考えてみましょう。

おわりに

転職が一般的な選択肢となりつつあるなかで、自身の市場価値に不安を抱える人は少なくありません。IT業界においては、技術スキルの需要の変動が激しいため、特定のスキルだけを追い求めるだけでは市場価値の向上に繋がらないケースも存在します。

転職を成功させるには、採用担当者が求めることを正しく理解し、客観的な情報収集を通して自身の市場価値を適切に把握することが重要です。同時に、自己分析を深め、強みやスキルを効果的にアピールできるよう準備することも大切です。日々の業務や自己研鑽において、これらの点を意識的に取り組むことで、市場価値の向上と転職成功の可能性を高めることができるでしょう。

レバテック株式会社
レバレジーズ株式会社に入社後、レバテックに配属。レバテックのキャリアアドバイザーとして、年間約300名以上のIT人材のキャリア支援を行い、現在は中堅層やベテラン層の支援を中心に実施。マネージャーや管理職としてのキャリアだけでなく、スペシャリストやコンサル、PdMといった幅広いキャリア支援の実績を持つ。

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