「DrupalCon Singapore 2024」参加レポート ー最新の「Drupal CMS」における進化と展望を探る

2024年12月9日〜11日、世界的に使われているコンテンツ管理システム(CMS)であるDrupalに関連するイベント「DrupalCon Singapore 2024」が開催されました。株式会社メタ・インフォではDrupalに特化したシステム開発、Webサイト構築を行っていることもあり、過去のDrupalConには何度か参加をしてきました。本記事では、DrupalCon 2024の当日の様子や感想などを紹介していきます。
Drupalとは
まず、Drupalを知らない方に簡単にDrupalについて紹介します。DrupalはPHPで書かれたオープンソースのコンテンツ管理システムです。企業サイトの構築だけでなく、eコマースサイト、モバイルアプリケーション、デジタルサイネージ、ソーシャルネットワーキングサイト、イントラネット、ポータルサイトなどの構築に使われています。
- スモールスタート・MVP開発に最適
豊富な機能と柔軟なカスタマイズ性で機能を組み合わせることでスピーディに開発できる - 大規模システムの開発
大規模かつ複雑で膨大なデータを取り扱うシステムの開発に適する。データベースで1億以上のレコード、数万ユーザーの管理も可能 - 多言語対応
標準で100カ国以上の言語に対応した高度な多言語対応機能が搭載されている - セキュリティに強い
システムの構造上、セキュリティに問題が出にくい設計になっているため、世界的には政府機関・公共機関で利用されています。日本ではデジタル庁のホームページがDrupalで構築されている
弊社では東京大学の様々な部局が独自に公開してきた貴重なコレクション等をアイテム単位で横断的に検索できるシステム「東京大学学術資産等アーカイブズポータル」や図書館関係者のためのコンベンション「図書館総合展」のサイトなどをDrupalで構築しています。
また、Drupalは活発なオープンソースコミュニティによって作成されています。世界のコミュニティが一体になることでイノベーションが共有され、世界基準のセキュリティの恩恵を受けることができます。コミュニティイベントは世界中のさまざまな場所で開催されており、新しいスキルを学んだり、人脈を広げることも可能となっています。
DrupalConとは
DrupalConはDrupalのコミュニティイベントとしては最大規模で、北米では毎年開催されています。DrupalCon Singaporeは2016年にインドのムンバイ以来8年ぶりのアジアでの開催となりました。イベントロゴには「世界三大がっかり名所」とも言われているシンガポールのマスコットであるマーライオンが使われていました。
今回のDrupalConの構成は、北米でのDrupalConと同様に以下のとおりでした。
- 基調講演、セッション
DrupalConの目玉であるDrupalの創設者であるDries Buytaertによる基調講演(DriesNote)や各分野での専門家による講演やセッション - Splash Awards
Drupalで構築された優れたプロジェクトを表彰する授賞式 - コントリビューション・デイ 参加者がDrupalをより良くするため直接貢献でき、誰もが参加できるイベント
会場の様子
今回の会場はシンガポールのビジネスの中心街とマリーナベイの中央に位置する「パークロイヤル コレクション マリーナベイ」です。スペースとしてはアメリカで開催されているDrupalConほど大きくはありませんでしたが、天窓から光が降り注ぎ、植物がいたるところに栽培されており大変開放的な空間でした。
会場に到着すると、まず受付でネームホルダーとTシャツを受け取ります。初めての参加者は「First Timer」のステッカーがもらえます。
企業のブースでは趣向を凝らした展示が多く、ゲームに参加できたり、ステッカーやグッズがもらえたりして他の参加者と交流することができました。
Drupal創設者Dries Buytaertによる基調講演
「DriesNote(ドリスノート)
ここからは、DrupalConの目玉であるDrupalの創設者であるDries Buytaert(ドリス・バイタルト)による基調講演「DriesNote(ドリスノート)」で紹介された「Drupal CMS」について紹介していきます。
Drupal CMSとは
Drupalは以前から学習曲線が険しく「インストールしたものの何から始めれば良いか分からない」と言われてきました。UIも他のCMSと比べてユーザーフレンドリーではなく、コンテンツ編集者やサイトビルダーにとってもとっつきにくい印象を持たれてきました。
Drupal CMSではDrupalの経験のないサイトビルダーでもブラウザのみを使用して、新しいDrupalサイトを簡単に構築できるようになります。Drupal CMSをインストールするとレシピ(Recipes)と呼ばれるツールセットが提供され、高度なメディア管理、SEOツール、AI駆動型Webサイト構築、データプライバシー、分析機能、高度な検索機能、自動更新などがすぐに使用できるようになります。
今回の基調講演では、いくつかのレシピのデモを見ることができました。
AI
このレシピでは、ClaudeやChatGPTといったAIエージェントがDrupalを組み込み、コンテンツ作成だけでなく複雑なサイト構築を支援します。ユーザーはAIにタスクを自動的に構築を完了させるか、ステップバイステップのガイダンスでDrupalを学習しながら構築を進めるかを選択できます。
高度な検索
Drupalではオートコンプリートやファセット検索などの高度な検索機能を構築できますが、そのためには複数のモジュールをインストールして複雑な設定を行う必要があります。このレシピを使えば、すぐにこれらの高度な検索機能を持った検索ページを作成できます。
データプライバシー
プライバシー規制の強化に伴いデータプライバシーの設定は複雑になり、UIもユーザフレンドリーでなくなるケースがありますが、このレシピを使えばデータプライバシーをユーザー中心のアプローチで容易かつ効果的な方法で提供します。
メディア管理
焦点制御や様々な画像スタイルのプリセットなどの機能が含まれるようになります。コンテンツ編集者はアクセシビリティの標準を維持しながら、コンテンツに応じた画像・動画などのメディアを効率的に登録できるようになります。
アクセシビリティツール
コンテンツ作成中にリアルタイムで視覚障害のある訪問者のユーザーエクスペリエンスに影響を与える可能性を指摘して、修正方法を提案します。ユーザーエクスペリエンスの向上だけでなく、SEOの対応策にも役立ちます。
分析
Googleアナリティクスとタグマネージャーの設定が効率化されます。
エクスペリエンスビルダー
事前に用意されたコンポーネントをドラッグ&ドロップすることで視覚的なページを容易に作成できます。Drupalで使われているテンプレートエンジンであるtwigで独自のコンポーネントを作成することも可能です。
今後の展望
Drupal CMSはバージョン1.0が1月15日にリリースされました。今回紹で取り上げた以外にも、イベント、ダッシュボード、ブログ、ナビゲーションなどのレシピがあります。今後3ヶ月ごとのマイナーバージョンアップで、さらに新しいレシピや機能が追加されていきます。
また、今回紹介したDriesNoteはYouTubeで公開されているので、興味のある方はぜひアクセスしてみてください。
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