Open Dynamics Engineとロボット研究
日本におけるグループ研究活動の価値 ~準受動四脚移動ロボット&筋電義手
ヨーロッパでの研究活動の後、私は東京大学大学院・工学系研究科・精密機械工学専攻・知能システム分野・横井研究室(http://www.robot.t.u-tokyo.ac.jp/index-j.html)の博士課程学生となりました。
日本に帰ってきて特に感じた海外との違いは、日本のグループ研究の良い点でした。西欧諸国は研究活動においても個人主義的な考え方で、教授と学生、もしくはプロジェクトリーダーと学生というように1対1で研究を進める傾向にあり、他のメンバーの研究の詳細まで踏み込むことはあまりありませんでした。つまり、自分の研究のみにまい進するSPECIALIST教育だったと思います。
それに対して、日本では学生のうちから後輩たちを指導するなど、自分の研究以外の内容に深くかかわることができ、研究における広い視野を身につけることができます。このようなGENERALIST教育は、いろいろな仕事をこなせることにもつながり、海外において非常に強力なコミュニケーションスキルとなります。今解説しているOpen Dynamics Engineも、同僚のジョシュの研究や仕事を手伝いながら、空いた時間に教えてもらったものです。
このようにいろいろな仕事をこなせることにつながる能力は、海外において非常に強力なコミュニケーションスキルとなります。今解説しているOpen Dynamics Engineも、同僚のジョシュの研究や仕事を手伝いながら、空いた時間に教えてもらっているのです。
さて、私の研究課題の話に移りますが、博士課程では「準受動歩行ロボット」と「筋電義手」の研究開発を行いました。
準受動歩行ロボット研究は、これまで培ってきた二足ロボットの研究開発の知識と経験を活かし、新しい構造の準受動歩行機を開発することを目指しました。その成果として、モータ1個で犬のような歩き方(トロット歩容)をする準受動4足歩行ロボットを開発しました(サンプルコード「ppdq.cpp」に対応)。
このロボットの構成は、図3-1に示すように背骨関節にモータ1個が配置され、四脚の根元の腰関節が粘性関節となっています。あとはシミュレーションを確認して、なぜ、トロット歩容が実現されるのかを調べてみてください(ヒント:図3-2)。
また横井研究室は5指筋電義手を開発しており、私も「表面筋電位センサーの開発」や「5指ハンドシミュレーションの構築」などで貢献しました。特に 5指ハンドシミュレーションは、義手のハンド部が物体を把持(はじ)するための関節動作を計画するために利用されます。
関節動作の探索プログラムがあると使い方が難しくなるので、ここではキーボード入力により、5指ハンドを「グー」「チョキ」「パー」にすることのできるハンドシミュレーション「hand.cpp」を提供します。把持(はじ)用のボックス型物体も上から落ちてきますので、ハンドでしっかりと物体をつかむことがいかに難しいかを体験してみてください。また、ハンドに圧力センサー取り付けて、物体把持(はじ)時の圧力変化を計測するのも面白いと思います。
実用性をもとめるアメリカのロボット研究 ~リトルドック
昨年度1年間は、準受動歩行機の研究の関係で、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、Computer Science and Artificial Intelligence(CSAIL)、Robot Locomotion Group(Prof. Russ Tedrake)(http://groups.csail.mit.edu/locomotion/)におりました。
そこで気が付いたのは、日本とアメリカのロボット開発方針が異なることです。簡単にまとめると、日本は小さいころ見たロボットアニメを現実化しようとする「夢」が前提となっているのに対し、アメリカは実用性(≒ビジネス価値)を見据えて、確実に安定して動作することが前提となっていることです。
そんな理由から、アメリカにはゴツイ(≒頑強)ロボットが多いのかなと思えました。
次に、私がアメリカで行った研究の紹介をします。Robot Locomotion Groupでは、従来のしっかりとした位置制御で動かすロボットではなく、劣駆動系ロボット(簡単に言うと準受動歩行ロボット)が不整地などで安定して歩行できる制御理論の構築を目指しています。
そこで私が協力した研究のひとつは「膝付コンパスゲート」です。これは、受動歩行機よりも単純な4リンクモデルを用いて、動作解析と制御則の構築を試みるものでした。今回提供する「kneed_walker.cpp」はモータを一切持たない膝付コンパスゲートで、どのような姿勢からシミュレーションを開始しても、斜面において4歩以上進めない状態となっています。読者の皆さんには、モータを1個追加して、斜面だけでなく平面でも安定して歩けるような制御系を試行錯誤してもらえればと思います。
もうひとつ私が協力した研究に、「Little Dog」ロボットの不整地歩行制御の構築があります。Little Dog(http://www.bostondynamics.com/robot_littledog.html)は、Boston Dynamics社が開発したロボットであり、読者の中にもインターネットで有名となったBig Dogというロボットを知っている方がいるとは思いますが、これはその兄弟ロボットです。実機における制御系の構築が主な開発方針でしたが、いろいろな制御系をシミュレーションで試せるように、「little_dog.cpp」を作成してみました(図3-4)。なお、提供するプログラムには制御系を書き込んでいませんので、各自で階段を上る制御系を作るなどして遊んでみてください。
今回は私の研究活動を主に紹介してきました。今後もODEを利用したロボット研究活動を行い、節目節目にプログラムを公開していこうと考えています。私のHP(http://www.koj-m.sakura.ne.jp/ode/)を利用していただければ幸いです。
最後となりますが、気軽に購入できるロボットとして有名な「近藤化学のヒューマノイドロボットKHR」を模倣したロボットシミュレーション「humanoid.cpp」も作成しました。図3-5に示すように多くの自由度をもっていますので、ZMP制御器やCPG制御きを構築するなどして、ロボット研究開発に挑戦してみてください。