日本のSIベンダーは、「賢く」システムを組み合わせて、きれいなアーキテクチャの下でシステムを構築するというより、とりあえず人海戦術でバグを潰すというアプローチが多いように見える。「賢い」システムづくりが評価されない限り、SIベンダーは人月モデルによるコスト圧力に頼って、下請けに仕事を回すしかないだろう。だが。この枠組の中では、SEたちがシステム技術をレベルアップするインセンティブは生まれず、モラルも失いかねない。
ユーザ企業のシステム部門が人数が少ない（コラム参照）ことなどから、それ自体で開発作業を担えない場合、SIベンダー、さらにその下請けに開発作業が依頼される。その際、プロジェクトマネジメント（PM）のスキルがカギになるが、欧米と比べると日本のPMスキルが高いとは言えないのが実情だ。
日米の企業システム部門の技術力格差の原因は？
米国のユーザ企業のIT部門は、自社内にしっかりとした技術力のある部隊を持ちながら、維持・保守・運営などの業務を積極的にアウトソーシングしている。その規模は、日本のシステム部門の約十倍に相当する。
そこには、コンサルティング会社やソフトベンダー、SIベンダーから転職してきた者も多い。パッケージやAPI、SDKなど汎用部品の専門知識を持った人材が、社内の業務知識を習得しながら、部品の組み合わせで戦略的に業務のニーズに対応するシステムを構築する能力を磨いている。そして、そういった人材を集めるため、IT部門における待遇の仕組みは、年功序列ではなく、専門家による市場価値の評価を反映する体制になっている。
日本の場合、一般的な企業の情シス部門の人数はあまり多くない。そのため、現行システムの保守で精一杯になり、ITやその最新トレンドなどを勉強する時間と余裕がないようだ。
また、システム部門の子会社化にも課題が残る。その本来の狙いは、同じIT業界内の切瑳琢磨を促進しやすくし、組織の技術力を向上させ、親会社以外の顧客にまでサービスビジネスを広げることだ。だが現実的には、親会社のシステムの保守作業しかビジネスになっていないケースがほとんどのようだ。
SEの現場に行くと、電話ばかりしているプロジェクトマネージャが必ずいる。日本のPMは顧客対応や人間関係、擦り合わせといったソフトスキルを偏重し、科学的なプロジェクトマネージメント手法を応用できるPMが少ない。事実、図1のように欧米と比べると日本のPMの専門性が低いことがわかる。
図1：人口1万人あたりのPM団体メンバー数の推定
参考：IBM Japan, Ltd（2001年未推定）
（画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します）
日本企業のITマネージャとSIベンダーのPMの腕は、システム構造の良し悪しを見分けたり、アーキテクチャを洗練させることでは評価されない。
むしろ、チームメンバーの気持ちをいかに結べるかが重視される。一緒に飲みに行ったり、人間関係の悩みを聞いたり、トラブルが発生すると「頑張れ！」と肩を叩いたりする。大きなトラブルが発生した場合は、「人間力」を生かし、組織の人海戦術で「何とか動かす」形で対応する。
だが、これでは当面のトラブルには対処できても、抜本的な対策にはならない。目先のトラブルの火消しと人事の仕事ばかりに目がいき、本来の古くなっているシステム構造の改善を先送りすることになってしまう。エンジンニアもトラブルシューティングとバンドエイド・ソリューションで多忙になり、「賢く」システムを構築する機会に恵まれないということになる。これが第3のスパイラルだ。
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