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「木を見て森を見ず」のスパイラルから抜け出せ!
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以上のように、ユーザ企業は「木を見て森を見ず」のような評価基準を使う。そして、それに従うSI企業とソフトベンダーの人海戦術のスパイラルによって、「賢く」システムを構築する技術を育てられない環境が形成されている(図2)。優秀な人材がいても、この環境の中では世界レベルのスキルは育まれないということになってしまう。

図2:スパイラル関係から形成されたIT業界の環境
これを打ち破るために最も重要なのは、人材問題の根本的な原因でもある、前述の業界構造にある。これを、複数の企業・機構に跨る問題として認識することが必要だ。つまり、対策も複数の企業・機構が協力して取り組まねばならない。既存スキルを標準化し、教育を強化するだけでは抜本的な対策にはならない。その認識の上で、以下のような手を打つ必要があるだろう。
ユーザ企業はコンサル能力があるベンダーと一体化して、課題を模索。また、企画段階からシステムの戦略性とアーキテクチャの評価について、共同で見直していく。また、既存業務を支援する「守備」型ITだけでなく、戦略的に事業を改革・展開する「攻め」のITにできるだけ投資を振り向ける。さらに、目先の画面や操作性だけではなく、システムアーキテクチャと科学的なマネージメント方法を生かし、全体的に投資対効果の高いシステムを構築する。こうした取り組みが、本章のスパイラル問題から脱出するカギになるだろう。
そのためには、複数の分野の専門家を集め、チームとして動かなければならない。日本のシステム部門の体制を、今の十倍増やして米国並みにするのは当面不可能なので、さらにベンダーとの協力を強化するしかないだろう。
ユーザ企業とベンダーの両者にいえることだが、国内でなかなか育てられない技術を持っている外国人のエンジニアや外資系ベンダーをさらに積極的に採用することも必要だ。
筆者のこの数ヶ月の経験の中で次のようなことがあった。日本語と英語でビジネスコミュニケーションでき、加えて技術力があるSEを募集したが、履歴書を見て会いたいと思った人は10人だった。その中で、日本人はわずか2人しかいなかった。残り8人は、日本のIT業界で経験を積んだ中国人のエンジニアだった。ここでも、日本人の優秀な技術者が足りないと強く感じた。
長期策として、学界と職場の交流を改善し、ユーザ企業のITマネージャやベンダーのPMがプロフェショナルコミュニティを積極的に参加する。これにより、コンセプチュアル・スキルを重視し、業界横断の切瑳琢磨を促進するような風土・文化を醸成し、会計士や弁護士、医師なみのプロフェショナリズムを確立する。
2回にわたりシステム構築を中心に取り上げたが、次回は上流のプロジェクト定義とガバナンスといった、日本のプロジェクト文化について考えてみたい。
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著者プロフィール
アプリソ・ジャパン株式会社 ジェームス・モック
香港生まれ、英国ブリストル大学機械工学卒、米国スタンフォード大学工学修士、テンプル大学MBA修了。1991年に来日。東京大学生産技術研究所でシュミレーション研究と日本企業で鉄鋼成形機械のCAD・CAM設計・開発に携わる。2001年に米アプリソの日本支社を立上げ、テクニカルディレクターとしてMES・POP・WMSなどのソリューションをスペインや中国、韓国、日本で導入するプロジェクトを取りまとめる。現場ユーザや企業の情報システム部門、導入コンサルタント、ソフトベンダの立場から純日本企業と外資系企業の日本国内外ITプロジェクトを幅広く経験している。
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