Money 20/20:IDEMIAのデジタルとフィジカルのカードビジネスの責任者に訊くデジタル金融の世界
ITとファイナンスの接近を実感できるイベントMoney 20/20で、先日新しいブランディングと新社名を発表したIDEMIAのエグゼクティブへのインタビューを行った。その2回目となる今回は、Digital部門のSenior VP、Mehdi Elhaoussine氏、従来の物理的なクレジットカードなどを対象とするPowered Cards部門のVP、Patrice Meilland氏のインタビューをお届けする。
デジタルバンキングは既存の銀行業務と併存する
まずはHead of DigitalのMehdi Elhaoussine氏だ。
日本では先代のiPhoneの発表に合わせて、約1年前にApple Payが始まりました。それについてはどう評価していますか?
Elhaoussine:日本では好調に伸びていますが、もっと伸ばしていくことができると思っています。Apple PayによってSUICAのような交通系カードとペイメント系カードがデジタル化されたことは大きな進歩だと思いますが、まだまだやるべきことがあると考えています。他のスマートフォンに拡大することもその一つですが、他にも例えばIDEMIAが可能にしている例として銀行口座の即時開設、そしてペイメントカードの即時発行というものがあります。これはすでにヨーロッパのデジタルバンクでは可能なのですが、スマートフォンでIDとなるドキュメントを撮影し、銀行側でその内容を審査した後に10分もすれば口座を開くことが出来るようになっています。当然、その後にクレジットカードの即時発行も可能になります。このようなソリューションをエンドツーエンドで可能にするのは、IDEMIAのソリューションだけです。
このようにペイメントとアイデンティティは、デジタルというエリアではコンバージ(融合)し始めていると思います。アイデンティティの世界では「認証」というのは3つの要素があります。1つは「What you know」、これはパスワードやあなただけが知っている秘密の質問などを指します。2つ目が「What you have」、これはクレジットカードや携帯電話など何を持っているのかを指します。そして3つ目が「What you are」、これは指紋や虹彩などのバイオメトリクスによって、あなた自身を特定するためのものです。この3つを組み合わせることで、セキュアな本人認証がスムーズに行えるのです。これが今、金融業界で起こっていることですが、実はこれは銀行などだけではなくFBIやTSAなどアメリカの公的機関でも必要とされていることなのです。それらのシステムをIDEMIAが担当しています。IDEMIAは、それらを実現するテクノロジーを元に、顧客からの長期にわたる信頼を得ています。もちろん日本でも同じようにシステム化が進んでいます。
デジタルの領域でオベルチュールとMorphoはまだ別の組織として活動しているのですか?
Elhaoussine:いえ、すでにデジタルのエリアではオベルチュールとMorphoは一つのグループとして開発を行っています。実はテレコムオペレータが利用するアイデンティティも、個人が支払い時に利用するアイデンティティも、外国に入国する際のアイデンティティも「アイデンティティを確認する」という意味では同じなのです。つまり同じテクノロジーが様々な利用シーンで使われる、そのための必要な技術をIDEMIAはエンドツーエンドで持っている。そして私の組織は、それをデジタルの形態で使う場合のビジネスを担当しているということです。
これから5年後のバンキングビジネスはどうなると予測していますか? そして中国で進行しているペイメントの変化についてコメントは?
Elhaoussine:金融業界は全てが何か新しいものに置き換わるのではなく、新しいものが追加されていくのだと思います。つまり従来の銀行業務は残りつつ、そこにデジタルの機能が追加されていくということですね。キャッシュを使うということはそのまま残りますし、プラスティックのクレジットカードもまだ残るでしょう。それに追加される形で、スマートフォンを使ったデジタルなペイメントも拡大していくと思います。
中国についてもAlipayなどの新しいペイメントの方法がどんどん出てきていますよね。我々はグローバルなベンダーとしてそのような状況を注意深く見ていますし、それはVisaなども同じだと思います。
中国の状況は国内の独自の進化だと思いますか? それともいずれ全ての国がたどり着く未来だと思いますか?
Elhaoussine:中国で起こっていることは、いずれ他の国でも起こるでしょう。あれは決して中国だけの話ではありません。だからこそ我々も動向を見守っていますし、それに参加しようとしています。
クレジットカードは進化しつつデジタルと共存
次に話を聞いたのは、クレジットカードなどを担当するPowered Cards部門のVP、Patrice Meilland氏だ。
まずIDEMIAが持っているカードの種類というのはどのくらいあるのでしょうか?
Meilland:10種類程度はあると思います。例えば、コンタクトレスのものからPINをカードのディスプレイに表示するDisplay Card、カードの表面を押すことで使い方を変えられるBLINK Card、また指紋のスキャナーが付いているカードもあります。そしてMotion Codeと呼んでいるカードは、通常はカードの背面に書かれているセキュリティコードを一定時間の間隔で変えてしまうものですね。このようにIDEMIAは、様々なカードを開発しています。
Motion Codeがあれば、カード番号などが盗み見られたとしても、常に入れ替わっているので悪用されにくいということですか?
Meilland:そうなります。このカードの非常に優れている点は、これまでのシステムをそれほど変えることなくセキュリティを高められることです。販売店もインターネット販売のサイトも従来通り、セキュリティコードを受け入れるシステムにIDEMIAのサーバーを加えるだけで、カードの情報とセキュリティコードを確認するのはIDEMIAのシステムが行います。またユーザーにとっても、このカードはセキュリティが高いということをとてもわかりやすく見せてくれるのです。セキュリティというものは、ユーザーに理解してもらうのが難しいものなのですが、番号が変わっていることで確かにセキュリティが高いということを理解できるのです。
事実、このカードを採用した銀行では新規顧客が5%も増えたという事例があります。通常の新規顧客獲得キャンペーンの成果が1%程度であるのと比較して、その5倍の成果を出しました。ユーザーはその価値を認めて、自ら「これを使いたい」と言うそうです。Motion Codeカードのコストは数十ドル程度ですが、従来の手法で新規顧客を獲得するためには数百ドルのコストがかかると言われていますので、非常にコストパフォーマンスが良い事例となりました。
現状ではMotion Codeの出荷枚数はまだそれほど多くはありませんが、今後数年のうちに数百万枚という単位で出荷がされていくと予想しています。2023年までには、IDEMIAが発行するカードの10%程度を占めるようになると考えています。
これからデジタルと物理のカードの比率はどうなると考えていますか?
Meilland:ユーザーはカードそのものの価値を認めていますので、物理のカードがすぐになくなるとは思いません。ただデジタルのフォーマットになった時には、それをペイメントだけに使うのではなく、他の用途にも使えるわけです。また発行までの時間を短縮することも可能になります。物理のカードの場合、やはり1日とか数日はかかってしまいます。しかしそれでも物理的なカードが欲しいというお客様はいますので、デジタルと物理カードは併存していくと思います。
また先程お見せした指紋スキャナーが付いているカードは、PINを入力する必要がないだけではなく、バックエンドのシステムを何も変える必要がないというところもメリットなのです。そのためヨーロッパだけではなく、ブラジルや中国、アメリカなど様々な国で同時進行で導入が進んでいます。ユーザーにとって、目に見えるところにセキュリティがあるというのは非常にアピールしますし、それを差別化の要因として考えている金融機関は増えています。
今回インタビューした2名のエグゼクティブは、アイデンティティをペイメントという側面からデジタルとフィジカルの双方の方法論で進めるIDEMIAの責任者であったが、オベルチュールがMorphoというバイオメトリクスのトップベンダーと組んだことによる効果は絶大であるということが感じられたインタビューであった。日本でもMotion Codeや指紋認証機能付きのクレジットカードが浸透することを期待したい。
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