起業ファイナンスのリアル:専門家が語る創業融資と資金調達の「勘どころ」

2025年1月27日(月)
伊藤 隆司(Think IT編集部)
起業ファイナンスの現状と成功のカギについて、専門家にお話を伺いました。特に創業期から成長期までの資金調達戦略を具体的に紹介します。

起業におけるファイナンスは、多くのエンジニアにとって理解が難しく、挑戦する際に大きな壁となりがちです。特に、創業初期には資金調達の方法や適切な選択肢を見極めることが重要ですが、その一方で制度や支援の仕組みが整備されつつあります。日本政策金融公庫の創業融資や、近年注目されているベンチャーデットなど、選択肢は増えているものの、それぞれの特性を理解し、適切に活用するには専門的な知識が必要です。

今回は「特別編」として、起業ファイナンスの現状と課題について、融資の専門家である株式会社INQ 代表取締役 CEOの若林 哲平氏と、ベンチャーデットに詳しい株式会社Fivot 代表取締役の安部 匠悟氏の2名にお話を伺いました。インタビューを通じて、創業期から成長期にかけての資金調達のポイントや、成功のための実践的なアドバイスを詳しくお届けします。

創業融資の活用とそのポイント

まず、日本政策金融公庫の創業融資制度がどのように起業家を支援しているのかについて伺いました。起業初期における資金調達の現実的な方法についての見解となります。

若林氏は「日本の創業融資制度は非常に優れています。創業者にとっては、日本政策金融公庫への相談がまず第一歩となるでしょう。特に、経験や自己資金、事業計画が評価されるため、この3点をしっかりと準備することが重要です」と説明します。

株式会社INQ 代表取締役 CEO 若林 哲平氏

若林氏は特に「創業者が融資担当者に信頼感を与えることが重要だ」と述べた上で、例えば、以下のような具体的な準備を挙げました。

  • 経験:これまでのキャリアを活かし、事業に必要な知識やスキルをアピールすること
  • 自己資金:創業者自身がどの程度資金を用意しているか
  • 事業計画:説得力があり、現実的な収益計画を提示すること

若林氏は、これらの準備が融資成功のカギであると強調しています。また、日本政策金融公庫の創業融資制度では、初期のリスクを伴う事業にも積極的に融資を行うことで、起業家を支援しています。

エクイティファイナンスと
デットファイナンスの違い

資金調達方法として、エクイティファイナンスとデットファイナンスが存在します。インタビューでは、それぞれの特徴と使い分けについて意見を伺いました。

(※クラウドファンディングにもいくつか種類があるが、ここでは「株式投資型クラウドファンディング」のことを指す)

安部氏によると「エクイティファイナンスは自己資金として扱われるため、財務基盤を強化できるのがメリットです。しかし、株式の希薄化によって経営権を失うリスクも伴います。一方、デットファイナンスは経営権を保ちながら資金を得られる反面、返済義務があるため慎重なプランニングが必要です」とのこと。

株式会社Fivot 代表取締役 安部 匠悟氏

安部氏は、さらに「スタートアップの規模や成長段階に応じた柔軟な選択が重要である」と述べています。具体的には、以下のようなポイントです。

  • エクイティファイナンス
    • メリット:大規模な資金調達が可能。投資家からのネットワークやサポートが得られる
    • デメリット:経営権の喪失リスク。投資家との意見の相違による経営方針への影響
  • デットファイナンス
    • メリット:経営権を維持可能。利益が出ればリターンは全て経営者のもの
    • デメリット:返済義務があり、計画が破綻すると倒産リスクが高まる

安部氏は、エクイティファイナンスが特に急成長を目指す企業に適している一方、デットファイナンスは持続可能な事業運営を志向する企業に適していると述べています。

成長ステージごとの資金調達戦略

起業の各ステージにおいて、どのような資金調達方法が適しているのかを具体的にお聞きしました。

  1. 創業期: 日本政策金融公庫の創業融資を活用して経営基盤を整える。この段階では自己資金を用意しつつ、小規模な事業から開始することが求められる
  2. 成長期: プロダクトマーケットフィット(PMF)を目指し、ベンチャーキャピタルやエクイティファイナンスを活用する。この段階では、事業の規模拡大に向けた人材採用や機能拡充が重要
  3. 安定拡大期: 銀行融資やベンチャーデットを利用し、成長を加速させる。この段階では収益基盤が安定していることが前提となるため、財務計画の精度が重要

「創業融資を足がかりに、成長期にはエクイティとデットを適切に組み合わせることが鍵です。また、日本では近年ベンチャーデットが注目されており、これが成長を支える重要な手段となっています」(若林氏)

「各段階に応じた資金調達戦略を練ることで効率的かつ持続的な成長が可能になる」と若林氏、安部氏ともに口を揃えています。

事業計画の精度と融資審査への影響

事業計画の精度が融資審査にどのような影響を与えるかについて、詳しく意見を伺いました。

若林氏は「融資審査では事業計画の現実性と収益性が非常に重視されます。単なる理想論ではなく、数字に裏付けられた計画が必要です」と説明した上で、具体的な売上予測やコスト分析を含む詳細な計画を提示することが、融資成功の鍵であると強調しています。また、過去の経歴や成功例を活用し、計画の信頼性を高めることも有効としています。

一方の安部氏は「計画が具体的であるほど、融資担当者とのコミュニケーションがスムーズになります。見込み顧客のリストや市場分析のデータを用意することも効果的です」とした上で、専門家の意見を参考に緻密な計画を立てることで、融資の成功率を大幅に向上させることが可能と説明しました。

未来を見据えた起業の勧め

最後に、起業を目指すエンジニアに向けたアドバイスを伺いました。

「ITエンジニアは、技術的な強みを活かしながら、経営やファイナンスの知識を身に付けることで、成功の可能性を大きく高めることができます」(若林氏)

「エンジニア出身者の重要性は増しており、特にスタートアップ業界では貴重な人材です。ぜひ、幅広い知識を得て起業に挑戦してください」(安部氏)

若林氏、安部氏からのメッセージは「技術力と経営力を兼ね備えたエンジニアが、起業の新しい可能性を切り開く重要な存在である」という点に集約されています。起業は決して簡単ではありませんが、多くの支援制度や専門家のサポートがある今、挑戦の価値は計り知れません。本記事がその第一歩となれば幸いです。

著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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