スタートアップからVisa/Master、中国系ベンダーまで勢揃いするMoney 20/20
Fintechの最新が集うMoney 20/20
ITとファイナンスは近いようで遠かった領域だが、今や金融事業はソフトウェアやインターネットなしでは成り立たないと言っても過言ではないほど、ITとファイナンスは融合を見せているといえる。実際、クレジットカードを使わなくてもiPhoneで決済が行われ、中国では小さな屋台でもスマートフォンとQRコードを使って支払いができる。またBitcoinに代表されるクリプトカレンシー(仮想通貨)も、コンピューターのCPUパワーが有り余っていなければ実現できなかっただろう。Money 20/20は、そんな時代にマッチしたカンファレンスとして多くの出展者、参加者を集める巨大なイベントである。1万人を超える来場者が集まり、大企業からベンチャーまで数百の企業が自社のサービスをアピールする場所である。今回、ラスベガスで行われた「Money 20/20 North America」に参加し、テクノロジーとお金の最新情報に触れることができた。この連載では、カンファレンスの膨大なセッションの中で、筆者が知り得た情報のサマリーをお届けする。
IT業界のカンファレンスとは少し異なり、メインのコンテンツとなるキーノートは会期の2日目、10月23日の午後に行われた。その前に開かれたスタートアップのプレゼンテーション大会、題して「Startup Pitch at Money 20/20」は、Fintechのベンチャーに3分だけ自社PRの時間を与え、その後にジャッジとして登壇した金融業界関連の投資家から質問を受ける、いわゆるプレゼンテーション大会だ。登壇者にはジャッジの点数と会場の参加者が公式アプリから投票した点数が加味され、最終的に勝ち上がった優勝者には4万ドルの現金が手渡されるといういかにも金融業界、いかにもラスベガスというスタイルのものだった。
しかしその内容は至ってまじめなものであり、非常にバリエーションに富んだものとなっていた。その内容を以下に列挙しておこう。
- 自営業の財務プランニングを支援するサービス
- 自分が行った寄付がどれだけの成果を出しているのかを調べるサービス
- スマートフォンを使って銀行の口座から現金をスマートフォンに移すサービス
- インターナショナルな送金サービス
- クリプトカレンシーのトークン化を支援するサービス
- 個人事業主が自分の能力と仕事をマッチングするサービス
- ミレニアム世代向けの金融サービス
一方のジャッジ側からも「そのサービスのマネタイズは?」「顧客獲得の方法は?」などポイントを絞った質問が飛び交い、3分のプレゼンテーション、3分の質疑応答はとても密度の濃いものであった。早朝8時20分から10時10分という時間帯で7社が連続してプレゼンテーションを行い、最終的にこの時間の勝者を決めるという仕組みで、他にも数回、同じ仕組みの予選となるプレゼンテーション大会が行われた。最終的には3日目にあたる10月24日に決勝が行われた。
この時間にプレゼンテーションを行ったベンチャーのサイトは以下の通りだ。
これだけ見ても、まだサービスを公開していない会社もあれば、すでに投資を受けて次のステージに進もうとしている企業もありレベルは様々だが、まだ誰も手を付けていない領域において新しいサービスを作り出そうとする意欲は感じられるプレゼンテーション大会であった。残念ながら、これ以降の予選には参加できなかったが、決勝で最終的に賞金を勝ち取ったのは、個人事業主やパートタイムワーカーが自分の空き時間と就業可能な仕事をマッチングさせるサービスであるSteadyだった。SteadyのCEOのAdam Roseman氏は「アメリカでは学生を始め、複数の仕事を掛け持ちして生計を立てている個人は2025年までに7千万人にもなる」とSteadyが生まれた背景を説明した。
会場には個別の会議室だけではなくオープンなプレゼンテーションステージも設けられ、カンファレンスの至る所で会話が行われており、会話することで出展者と参加者がお互いに理解を深めようとする姿勢が見て取れた。この辺は、ベンダーが行うプレゼンテーションを参加者が聴く、というスタイルが一般的な日本のカンファレンスとは異なる点だろう。
午後に行われたキーノートセッションではPayPalのCEOであるDan Schulman氏、IBMのBridget van Kralingen氏、SamsungのInjong Rhee氏、Visa AmericaのOliver Jenkyn氏などが20分という短い持ち時間で登壇。ブロックチェインや金融機関の未来についてプレゼンテーション、パネルディスカッションなどを行った。
その中で注目したいのは、SamsungのCTO兼EVP of Software&Services, Mobile Communications Businessという肩書を持つInjong Rhee氏と、451 Researchのリサーチャーが行った次世代のユーザーインターフェースに関するディスカッションだ。
Rhee氏は、最新のGalaxy Note8を取り出してライブデモを行った。デモはGalaxyに付属しているBixbyというインテリジェントなアシスタント機能を使って音声による操作を行うもので、Rhee氏はイラクに駐留している娘にGalaxyから音声だけで写真を送るデモを実演。iPhoneのSiriやGoogleのインテリジェントアシスタントと同じような機能を実現するものだが、タッチパネルやキーボードを置き換えるものではなく、シーンに合わせて利用が拡がるだろうと予測を付け加えた内容だった。
BixbyはAppleやGoogle、Amazonなどが先行するインテリジェントアシスタントのSamsung版と言ったところだが、画像認識からAmazonで購買するまでの仕組みがすでに組み込まれており、展示ブースでデモを体験したレベルでは良く出来ているという印象だ。特徴的なのは複数のタスクを登録して音声で瞬時に呼び出したり、タスクを組み合わせたりできる部分だ。現状では英語と韓国語にのみ対応ということで、日本のユーザーにとっての評価は保留しておいたほうが良いだろう。
全体的に短めの時間を使って、各社が工夫していたのが印象的だったキーノートだが、やはり総花的で今ひとつ驚かされる内容が少ないと感じるのは、IT業界のカンファレンスに慣れた筆者のワガママかもしれない。しかしこのフォーマットが、ベンダーニュートラルな立ち位置で業界動向を探るのには適しているのだろう。
次回は先日、フランスのMorphoとの統合によってOberthur Technologiesから新社名「IDEMIA」にリニューアルしたIDEMIAのエグゼクティブのインタビューをお送りする。
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