連載 [第4回] :
  FIDO APAC Summit 2023レポート

FIDO APAC Summit 2023、FIDOを支援する各国政府の動きを紹介

2023年10月5日(木)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
FIDO APAC Summit 2023より、FIDOの活動を支援する各国政府機関の動きを紹介する。

FIDO APAC Summit 2023から、FIDO AllianceのテクノロジーをAPACの多くの政府機関が活用しているようすをタイ、中国、シンガポール、そしてベトナムの例を参考に紹介する。

ベトナム

ベトナムについては多くの政府関係者、VinCSSが所属するVinGroupの管理職がイベントに参加していたようで、ベトナム挙げてのFIDO Alliance祭りとでも言える賑わいを呈していた。Vin Groupはベトナム最大のコングロマリットと称されるほど巨大な企業グループであり、民間企業におけるIT活用のリーダーシップを担っていると言える。しかしデジタルIDは国家、国民における基盤であり、その部分に国家戦略が必要となるのは自明だろう。今回はオープニングの挨拶にベトナムの情報通信省の副大臣が参加していたことからもわかるように、開催地であるベトナムはデジタルIDの重要性を認識していたと言えるだろう。

タイ

またタイも電気通信開発局(Thailand Electronic Transactions Development Agency)のシニアマネージメントオフィサーが参加しており、タイのデジタルIDについて詳細な解説を行っていた。

タイのデジタルIDを紹介するKhanit Phatong氏

タイのデジタルIDを紹介するKhanit Phatong氏

タイにおけるFIDOのソリューションについても触れ、法務省における利用者登録にFIDO UAF(Universal Authentication Framework)が使われていることを紹介。

タイ法務省でパイロット的な利用が進むFIDOの認証フレームワーク

タイ法務省でパイロット的な利用が進むFIDOの認証フレームワーク

そしてグランドデザインができていると筆者が感じたスライドはコレだ。「デジタルIDの進化の方向」というスライドで、現行は中央管理的に行われているID発行や管理が複数に分散されフェデレーション式に認証が行われる姿に、そして各々が独立したうえで連携する方式に進化していくだろうということをこのスライドでは語っている。

デジタルIDの進化を解説

デジタルIDの進化を解説

他にも多様な領域での利用を想定していることを示し、デジタルIDに関するレガシーなシステムが少ないこともあリ、タイが大胆な選択を行っていることを感じさせるセッションとなった。

中国

中国におけるFIDO関連の活動を紹介したのは、Lenovoの関連会社であるGMRZ TechnologyのHenry Chai氏だ。中国もデジタルIDに関する開発と利用が盛んに行われており、経済規模の大きさとも相まって動き出すと速い中国らしさを示したプレゼンテーションを行った。

中国国内の利用事例を紹介するChai氏

中国国内の利用事例を紹介するChai氏

シンガポール

シンガポールからはGovTechのEric Chang氏が登壇。

シンガポールのデジタルIDを解説するChang氏

シンガポールのデジタルIDを解説するChang氏

シンガポールのデジタルIDはSingPassという名称で知られており、すでに5億回/年のトランザクションが発生しているという。またSingPassを使うことでトランザクションの処理時間を80%削減できたこと、顔認識によって店頭での処理時間が10分程度削減されたことなども紹介した。具体的にどんな効果が出ているのかを数値で明らかにするのは良い方向だ。

シンガポールと同様に数字を示して効果を見せる説明は、メルカリの発表者も用いていたので参考にしてほしい。

●参考:FIDO APAC Summit 2023からドコモとメルカリのセッションを紹介

SingPassによる効果を紹介

SingPassによる効果を紹介

またPasskeyについても解説を行い、ここでも政府に近い組織に属するソリューションアーキテクトが適切な理解と情報を持っていることを実感した。

Chang氏によるPasskeyの解説

Chang氏によるPasskeyの解説

政府関係者によるディスカッション

「Government & Policy Discussion」というパネルディスカッションを紹介しよう。チェアパーソンとなったTeresa Wu氏はIDEMIAのスマートカード担当VPという肩書きを持つ女性だ。ベトナム、シンガポールなどのパネリストから各国の状況を聞きつつ、意見をまとめていたが、それほど生々しい話は出てこずベトナムの情報通信省の副大臣を囲む会という雰囲気であった。

各国の政府関係者とパネルディスカッションを実施。

各国の政府関係者とパネルディスカッションを実施。

最後にこのイベントに参加し政府に近い内容を解説していたプレゼンターのリストをおいておこう。ここに日本政府のデジタル庁や関係研究機関などの名前がないのが非常に残念である。

  • ベトナム:Nguyen Huy Dung, Vice Minister of Vietnamese Ministry of Information and Communication
  • タイ:Khanit Phatong, Senior Management Officer, Thailand Electronic Transactions Development Agency
  • 中国:Henry (Haixin) Chai, FIDO China Working Group Co-Chair / CEO of GMRZ Technology, Lenovo
  • シンガポール:Eric Chang, Principal Solutions Architect, GovTech
  • 韓国:Hyung Chul Jung, Head of Security Engineering Group, Samsung Electronics
  • 韓国:Jaebeom Kim, Principal Researcher, TTA (Telecommunications Technology Association)
  • アメリカ:Teresa Wu, FIDO Government Deployment Working Group Co-Chair / Vice President, Smart Credentials - Civil Identity IDEMIA Identity & Security North America

またFIDO Allianceも各国の活動を網羅するページを作成しており、ここで一覧することが可能だ。

●参考:各政府の動き:FIDO Government Deployments and Recognitions

FIDO Allianceは、例年12月に日本での活動を報告するイベントを行っているという。2023年も12月に行われる予定であり、そこで日本としての活動やユースケースを聞けるのが楽しみだ。日本政府のさらなる活躍を期待したい。

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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