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  インタビュー

アプリケーションモダナイゼーションを加速する「テスト自動化ツール」の真の実力とは

2025年3月26日(水)
工藤 淳伊藤 隆司(Think IT編集部)
この記事では、Tricentis社が実施したアプリケーション モダナイゼーション調査をもとに、成塚氏に日本企業のレガシーシステム移行の課題や、テスト自動化の重要性、導入のポイントについて伺った。

日本企業にとって、今や喫緊の課題となっているアプリケーション モダナイゼーション。だが、実際には「着手してみたものの、思うように進んでいない」という声も少なくない。Tricentis Japan(トライセンティス ジャパン)合同会社の2024年調査レポートによれば、国内大手企業の進捗率は平均でわずか41.2%に留まっている。背景には人材不足とコスト問題があるが、そうした中でもテスト自動化を導入した企業は50%超のコスト・時間削減に成功しているという。

【参照】Tricentis 2024年 レポート「アプリケーションモダナイゼーションとテスト自動化の現状」~人材不足時代の課題と見通し~
https://www.tricentis.com/ja/resources/applicationmodernization-testautomation-report2024

そこで今回は、同社代表執行役の成塚 歩氏に、日本企業におけるアプリケーション モダナイゼーション調査の結果を踏まえた現状と課題、そこに同社の自動化ソリューションがもたらすメリットを伺ってみた。

Tricentis Japan合同会社 代表執行役 成塚 歩氏

日本企業の
アプリケーション モダナイゼーションは厳しい現状

今回、調査レポートを実施したTricentis Japanの親会社であるTricentis社は、エンタープライズテスト自動化ソリューションのパイオニアとして、AIを活用したテスト自動化ソリューションをグローバルで展開する企業だ。日本法人であるTricentis Japanは2024年2月に設立。テスト自動化ツールにより、IT人材不足と高コストに悩む日本企業のアプリケーション モダナイゼーション支援に向けた、さまざまな取り組みを進めている。

2024年の独自調査に基づくレポート「アプリケーション モダナイゼーションとテスト自動化の現状 ~人材不足時代の課題と見通し~」(以下、レポート)は、いよいよ日本法人を立ち上げ、国内企業のモダナイゼーション支援を強化していくためにリアルな現状と課題を知ることが目的だったと、同社 代表執行役 成塚歩氏は語る。

「この調査では、国内の13業界・年間売上高500億円以上の大企業のITリーダー204名を対象に、皆様の現状や課題などを詳しく伺いました。その結果、アプリケーションのモダナイゼーション完了率は平均41.2%と半数にも満たない状況でした。これを放置すれば、日本企業の成長と競争力の大きな障壁になるのは間違いありません。この進捗をスピードと品質の両面から、飛躍的に加速することが求められています」

日本企業は、高度経済成長期から1990年代のバブル期にかけて、メインフレームを中心とした大規模な基幹システムを構築してきた。その後、2000年代初頭のインターネット普及につれて、Webアプリケーションへの移行が進んだものの、多くの企業では旧システムを維持したまま、新しいシステムを継ぎ足していく「延命」が行われていった。

当然これらのシステムは、時間の経過とともに多くの問題を抱えるようになる。アプリケーションそのものの陳腐化に加え、クラウド化への対応遅れやセキュリティリスクの増大。そして何より深刻なのが、レガシーシステムの維持・改修にかかる膨大なコストだ。

この結果、多くの日本企業は現在、ITコストの大半をレガシーシステムの「守りの投資」に割かざるを得ず、DX推進に向けた新たなシステム投資が圧迫されている。デジタル時代における競争力の低下に直結する問題であり、これが「モダナイゼーションが喫緊の課題」である理由だ。

調査結果から分かった
「ヒトもカネも足りないから進まない」

それでは、なぜモダナイゼーションが思うように進まないのか。今回のレポートによれば、モダナイゼーション推進を妨げる要因として、79.9%のITリーダーが「質的なIT人材不足」を挙げ、64.7%が「量的なIT人材不足」、57.8%が「コスト」を挙げているという。

「つまるところ『ヒトがいなくて、オカネも足りない』。この状況を打開するうえで鍵となるのが、アプリケーション・テストの効率化です。実際に今回のレポートでも、テスト自動化を導入した企業では、コストは50.7%、テスト時間で51.5%の削減効果が、それぞれ報告されています」

それにも関わらず、アプリケーション・テストの自動化率は、いまだ33.0%にとどまっている。モダナイゼーションの遅れがこのまま続けば、システムの複雑化と硬直化がさらに進み、ビジネス環境の変化への対応が一層困難になるのは明らかだ。では、具体的にどう取り組んでいけばよいのか。次章から、成塚氏に詳しく伺っていこう。

自動化ツールは
テストの効率化だけでなく人材育成にも使える

実際のところ、日本企業でアプリケーション・テストの自動化が進まないのは、担当者がその便利さを知らないからではない。むしろその価値は理解していて、ぜひ導入したいのだが踏み切れないというのが現状だと、成塚氏は明かす。

「テストの自動化を試みる方は多いのですが、実際の開発では必ず途中で仕様変更が入りますよね。そうなると、テストケースも全部メンテナンスしないといけない。ここで皆さん、諦めてしまうのです。その点Tricentisは、モデルベースのアプローチをとって、各画面の操作を部品化できるため、仕様変更の際も該当する共通部分の一部だけ作り直せば済みます。ここは非常に高い評価をいただいています」

成塚氏は、実はもう1つ、日本には自動化が進まない要因があるという。日本のエンジニアの「職人気質」だ。もちろんこれは、技術者としては美徳とも言えるのだが、人によってはマニアックにこだわるあまり、効率は二の次になる傾向があるという。

「やはり日本人は、自分に与えられた仕事を死力を尽くして頑張る方が多いですね。テストケースにしても、かゆいところに手が届くようなスクリプトを手書きで書いていく。そういう方たちには、私たちの自動化ソリューションはあまり嬉しくないでしょうが、企業や組織として効率と品質を上げるという視点では、十分に活用いただけると思います」

例えば、それだけのこだわりとスキルを持ったベテランはアプリケーション開発に集中して、モダナイゼーションは新人に任せる。その際に自動化を導入して「若手の育成」と「品質と効率のアップ」を両立させるといった棲み分けをするのだ。これなら、レポートが指摘していた「IT人材の不足と高コスト」の解決策にもなる。若い頃はエンジニアとして仕事をした経験のある、成塚氏ならではのリアルな提案だ。

「また、CIOでも非エンジニア領域のご出身だと、テストの重要性は理解していても細かい技術レベルでの評価は難しい。そうした場合に、テクニカルな部分は自動化ソリューションに担保させて、ご自身はより会社の経営戦略に沿った部分での人材育成や、エンゲージメントの醸成に注力するといったことも可能です」

テストケース作成から証跡管理まで
ツールが自動的に実行

ここからはTricentisのテスト自動化ツールの具体的な特徴や、それらがもたらすメリットについて、さらに詳しく伺っていこう。成塚氏は同ツールについて、大きく3つのアドバンテージ=「ローコード、ノーコードで習得・操作が簡単」「モデルベースでメンテナンスが非常に簡単」「マルチベンダー対応で複雑化したアプリケーション環境に対応可能」を挙げる。

「Tricentisのテスト自動化ツールの中でも、エンタープライズ向けのエンドツーエンド製品であるTosca(トスカ)は、非常に幅広いテクノロジーとプラットフォームに対応しています。SAPやOracle、Salesforceを始め、非常に多くのベンダーをサポートしており、Webアプリケーションからモバイルまで、さまざまなアプリケーションのテストを、全てTosca上に統合した上で自動化できます」

さらにはAPIテストも含めてシステムの統合テストを効率化するなど、特定のアプリケーション単体にとどまらない、包括的かつ柔軟な対応が可能だ。将来的なシステムの拡張や変化にも追従していけるため、長期にわたる投資保護が期待できるという。

Tricentisのテスト自動化ツールに期待できるメリットを、成塚氏はテストケースを作成する際の手動と自動化した場合の比較を挙げて説明する。

まず、手動の場合、テストケースを作成するには、当たり前だが全て手動でシナリオを書く必要がある。しかも、これを従来の自動化ツールを用いて自動化しようとすると、その自動実行するためのプログラムを機械語で書かなくてはならなかった。要するに、今までは自動化しようとすると手動のときより工数が増えたのだ。

「これがTricentisのテスト自動化ツールならば、テストケースはもちろん自動実行の部分までを、全てツール側でノーコードにて作成可能です。またテストを実行した証跡も、従来はテスターが手動で取っていたのが、全てツールが自動で取得してくれる。テスターの作業は、テストを実行して、どこでバグが出たのかテストシナリオと比較するだけです」

メリットは作業の自動化や効率化だけではない。こうしたテストの証跡はツール上に保管されて、プロジェクトマネージャーとテスターで共有できる。このため社内のメンバーだけで完結するにしても、一部を外部に委託するケースでも、PMとテスト現場が分断されないといった、チーム連携上のメリットもあると成塚氏は強調する。

Tricentisで実現した
「スピードアップ」と「トラブルの抑制」

すでにTricentisを導入している、日本企業での成果事例を見ていこう。

まず、大幅なスピードアップだ。ある大手商社では、海外へのロールアウトのテストに従来は手動で22日かかっていたのが、自動化ソリューション導入後は1日で完了できるようになったケースがあるという。ちなみにTricentis Japanの平均的な顧客企業の場合、リリースのスピードが約10倍、コストは約半分になったとの調査結果があると成塚氏は言う。

さらにもう1つの特徴は、トラブルの抑制だ。Tricentisではテストの進捗度を見る際に、単純に『100ケースのうち80ケース終わったから80%』とはしない。

「『リスクベースド』という考え方で、例えば100個あるテストの要件に、リスクの大きさに応じて重要度をランク付けし、どれがテスト完了しているかで進捗度を計る、いわゆるリスクベースの進捗評価を採用しています。このため高リスクのところを重点的にテストでき、結果的にトラブルの抑制につながるのも、当社ならではの特徴です」

最後にもう1つ、「使いやすさ、習得しやすさ」も若手エンジニアの育成には重要だ。Tricentisの稼動安定性は非常に高く、しかもオンプレミスとクラウドを選択できるため、自社の環境に合わせ柔軟に導入が可能である。また習得しやすさという点では、ローコード、ノーコードで操作できるうえ、基本的なトレーニング用のコンテンツは全て日本語化されているという。

「Quality Assurance」を
日本に根付かせていくのが課題

今年の2月でようやく設立1周年を迎えたTricentis Japanだが、今後の重点テーマについて伺ってみよう。成塚氏は、テストの自動化に対するTricentis独自の考え方として「Quality Assurance」というキーワードを挙げる。

「これは通称『QA』と言って、アメリカでは非常によく使われています。当社のCEOもこの表現を使います。『テストの自動化=テストオートメーション』とは言いません。あくまで目的は自動化ではなくて『品質の保証』なのですね。ただ、これを日本語で『品質保証』というと少し意味が変わってしまうので、『テストとは品質を確実にするための重要な工程である』という認識を広めるためにも、テストによる『Quality Assurance』を日本に根付かせていくのが、私たちの重要なミッションの1つだと考えています」

テクノロジーの側面からは、やはりAIへのさらなる対応が、今後のテーマになると考えている。だが、このままAIが進化してシステム開発まで完璧にこなすようになれば、そもそもテストが不要になったりはしないのだろうか。

「むしろ逆だと思います。当社のCEOは『AIによる開発が進めば進むほど、その中身は人間に見えなくなってくる。そうなったときこそ、AIを活用した私たちのソリューションで確実に品質保証をしなければ、安心してアプリケーションを使えなくなってしまう』と言っています。その意味で今後はAIの進化に伴走しながら、常に確実なQuality Assuranceを提供していくのが、私たちの使命になると考えています」

ちなみに、Tricentisのソリューションには、すでに分析機能やテストケース作成のための画面キャプチャなど、さまざまな部分でAIが導入されているという。

日本法人設立から2年目を迎え、これまで以上に日本のユーザーへTricentisブランドを訴求していきたいと、Tricentis Japanでは考えている。「2024年は日本市場に基礎を築く1年でしたが、今年はお客様のアプリケーション モダナイゼーションの取り組みをさらにご支援していきたいと願っています」と意気込みを語る成塚氏。モダナイゼーションに悩む日本企業は、ぜひTricentisに注目してみてはいかがだろうか。

フリーランス・ライター兼エディター。IT専門出版社を経て独立後は、主にソフトウェア関連のITビジネス記事を手がける。もともとバリバリの文系出身だったが、ビジネス記事のインタビュー取材を重ねるうち、気がついたらIT専門のような顔をして鋭意お仕事中。
著者
伊藤 隆司(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集部 担当編集長
IT系月刊誌、資格系書籍、電子書籍、旅行パンフレット等の企画・編集職を経て現職。Think ITのサイト運営と企画・編集、「CloudNative Days」の運営に携わりながら、エンジニア向け書籍の企画も手がける。テクノロジーだけでなく、エンジニアの働き方やキャリアップなどのテーマに造詣が深い。

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