AI規制への対応 : 最適なテスト戦略を構築・導入するための7つの検討事項

2025年2月21日(金)
David Colwell
第2回の今回は、AI技術の規制対応に向けた最適なテスト戦略と、その重要なポイントを解説します。

アプリケーションテストの重要性

アプリケーションテストは、AIベースのツールの完全性、信頼性、健全性を検証するために、AI駆動型開発において極めて重要な役割を担います。また、セキュリティリスクを低減し、最適なパフォーマンスと高い品質を確保するといったメリットもあります。

従来のコード化された、あるいは構築されたアルゴリズムと比べてAIシステムはその透明性が低いため、アプリケーションテストの重要性が一層高まります。AIには声のトーンや暗黙のバイアス、不正確な回答や誤解を招く表現、規制対応の不備など、従来のシステムにはない新たな障害形式や障害タイプが存在します。開発完了後でも、開発チームがさまざまな状況下でシステムの信頼性を十分に検証できない場合があります。

このような不確実性を踏まえ、品質保証(QA)の専門家には、その役割をさらに強化することが求められています。これはすなわち、単に厳格な一連の要件を遵守するだけでなく、エッジケースを特定・検証して意図的にアプリケーションに不適切な応答を行わせようとするレッドチームに参加し、システム内で未検出のバイアスや障害を明らかにすることを意味します。意欲的かつ徹底的なテストを行うことで、AI技術の導入と管理を効果的に進めることが可能です。

また、著作権侵害に対する法的保護の観点から、一部のAIプロバイダーはアプリケーションテストレポートの提出を求めています。これらのレポートは安全で信頼性のあるAIシステムを構築するための規制の中核をなすものであり、欧米の法規制などでも重要な役割を果たしています。AIシステムのテストを徹底することはユーザーに一貫した快適な体験を提供するための推奨事項であるだけでなく、企業の責任にもなっています。

本記事では、AI規制の下、企業が最適なテスト戦略を構築・導入する上で重要なポイントを7つ解説します。

ポイント1: リスク評価

ソフトウェア開発チームが最初に行うべきことは、自社のAIシステムに関連する潜在的なリスクを評価することです。このプロセスでは、ユーザーがシステムの機能とどのように相互作用するか、障害の重大性および発生確率を考慮することが含まれます。

AIには、新たに対応が求められるリスクがいくつも存在します。こうしたリスクには、エージェントが企業に代わって誤った推奨を行うなどの法的リスク、非決定論的システム・暗黙のバイアス・疑似ランダム結果などへの対処を含む複雑な品質リスク、AIは演算量が非常に多いためにクラウドのAIエンドポイントに制約が生じるなどのパフォーマンスリスク、AIシステムの運用コストなどの運用面・コスト面のリスク、プロンプトのハイジャック、コンテキスト抽出、プロンプトインジェクション、敵対的データ攻撃などの新規のセキュリティリスク、及びレピュテーションリスクなどが挙げられます。

ポイント2: 制約の理解

AIは与えられた情報以上のことは実行できません。論理的推論の欠如、ハルシネーション、情報合成など、AIには学習能力の限界や新たな障害形式の問題が付随しています。ソフトウェア開発チームは、こうしたAI特有の制約を十分に認識する必要があります。

ポイント3: 教育とトレーニング

AI利用が拡大する中、潜在的な問題を特定し、システムの挙動を理解してAI活用から最大の価値を引き出すためには、チーム全体がAIの複雑さを学習しなければいけません。これにはAIモデルの学習方法、データサイエンスの基礎、生成AI、古典的AIなどに関する知識の習得が含まれます。

ポイント4: レッドチームによるテスト

レッドチームによるAIテストは、AIシステム内の脆弱性や欠陥を体系的に特定します。このテストでは実環境の攻撃をシミュレートし、継続的に脅威をもたらすアクターが使用すると想定される手法を実行することが一般的です。これによりシステム内の特定の脆弱性を発見し、リスク軽減施策の優先順位をつけることができます。

AIの能力の限界を試すとともにAIシステムの安全性やセキュリティを確保し、実環境のシナリオを予測する準備を整える上で、このようなAIモデルの意図的な調査は不可欠です。AI向けSOC2と同様にレッドチームのレポートも重要な基準になりつつあります。

ポイント5: 継続的なレビュー

AIシステムの進化に伴い、アプリケーションテスト戦略にも進化が求められます。企業はAI技術の新たな動向や要件、新しい脅威に対応できるように自社のテストアプローチを定期的に見直し、刷新することが求められます。

ポイント6: 法令遵守と文書化

ソフトウェア開発チームは、米国での大統領令の新たな要件への対応など、法令遵守と監査に対応できるよう、テストに関するあらゆる手順と結果を確実に文書化する必要があります。

ポイント7: 透明性とコミュニケーション

利害関係者とユーザーに対して、AIの各種機能やその信頼性、制約について透明性を維持することが重要です。

上記の検討事項は、日々変容する規制基準に対応できる堅牢なAIアプリケーションテスト戦略を策定する上で鍵となります。AI技術の進化に伴い、アプリケーションテストと品質保証(QA)のアプローチも進化する必要があることを忘れてはいけません。

AIの進化とテストの進化

今後数年間でAIはますます大規模に進化し、ソフトウェア開発全体でより広く採用される見通しです。それに伴い、システムとデータセットの高度化が進むにつれて変化するリスクと課題に対応していくことが必要となります。そのため、テストはさらに厳格なものとなり、AIツールの信頼性、正確性、公共利用に対する責任を確保するための重要な役割を果たし続けると考えられます。

ソフトウェア開発チームは、堅牢なテスト戦略の策定により規制基準を満たすだけでなく、AI技術の責任、信頼性、アクセス性を確保する必要があります。

AIの活用は業界や技術の枠を超えて拡大し、米国及び世界ではAI関連の基準やガイドラインの策定が政府レベルで進んでいるため、AIを活用した変革的なソフトウェアソリューションを開発する良い好機となっています。効率的なテスト戦略を策定し、安全で信頼できるユーザー体験を提供することが開発者コミュニティの重要な役目となっていくでしょう。

Tricentis AI&ML担当 バイスプレジデント
TricentisのAIチームを一から立ち上げ、AI、機械学習、ニューラルネットワークの開発、テスト、本番への展開において10年以上の深い経験を持つ。Tricentisのテスト自動化ソリューション「Tosca」のAIを活用した機能である「Vision AI」の共同発明者である。AIによるテキスト認識の高速化と実現を目指して、シングルパス光学式文字認識の新手法に関する特許をUSPTOから取得。

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