単層ネットワークへのアプローチ
クラウド対応インフラの3つの要件
前回は、企業ネットワークが抱える課題である3階層アーキテクチャの問題点を明らかにするとともに、問題解決のヒントとして「ネットワークの簡素化」を提唱しました。今回は「ネットワークの簡素化」に対する具体的なアプローチの例を解説します。
3階層アーキテクチャの問題点は、高遅延、複雑性、高コストです。これらを解消しない限り、企業はクラウド本来の価値を実感できません。そこで「ネットワークの簡素化」が重要になります。ネットワークを簡素化すれば、性能、拡張性、経済性を高められるからです。
ネットワークの簡素化により、クラウド・インフラに求められる効率性や柔軟性が増し、リソースを共有しやすくなります。一方で、リソースを共有できるようになると、データやトランザクションの整合性を維持するため、データ・フローをセキュアにする必要が生じます。
これら(簡素化、共有、セキュア)を、筆者が所属するジュニパーネットワークス(以下、ジュニパー)では、クラウド対応データ・センターに必要な3つの要件として推奨しています(図1)。3つの要件すべてにおいて運用の自動化を図ることで、データ・センターの運用を効率化できるようになります。
この3つの要件の中で、クラウドの価値を生かす根本的な要素となるのが、"簡素化"です。今回は、この簡素化を実現するためのアプローチ(全部で3ステップ)を解説します。
ネットワークの簡素化は、ネットワークやアプリケーションの性能を向上させるだけでなく、初期導入コストと運用コストの削減に直結します。ネットワークを構成する機器の数を減らすことができるからです。設置スペース、消費電力、冷却コストを削減できます。
図1: クラウド対応データ・センターに必要な3つの要件 |
3-2-1階層ネットワーク: 段階的に簡素化
図2: ネットワークを3層から1層まで段階的に簡素化する(クリックで拡大) |
ネットワークを簡素化/フラット化する具体的なアプローチは、3階層を2階層に、場合によっては1階層に変えるというものです(図2)。このアプローチを、ジュニパーでは「3-2-1データセンター・ネットワーク・アーキテクチャ」と呼んでいます。
ネットワークの簡素化にとって必須となる技術コンセプトが、any-to-any接続を実現するジュニパーの「ネットワークファブリック」です(図3)。
図3の左に示した構造は、今日の我々が利用している、典型的なデータ・センターの例です。いくつかのコンピュータ、ストレージ、外部接続機器があり、これらのリソースを3階層アーキテクチャによって接続しています。
理想としては、これらの機器間を"any-to-any"で接続する構造、つまり、すべての機器同士が互いに直接接続されたフラットな構造が望ましいでしょう。通信の経路で情報を仲介するネットワーク機器の台数が少なくなることで、ネットワーク通信の効率が上がり、通信の遅延が減ります。
図3: 現状の3階層ネットワークと、理想的な単階層ネットワーク |
単階層ネットワークでは、適切に設計された単一のスイッチによって、すべてのリソースが"any-to-any"で接続されています。これにより、一度の参照だけで、データが直接、Ingress(イングレス、スイッチに入ってくる通信)ポートから、適切なEgress(イーグレス、スイッチから出ていく通信)ポートへと送信されます。
前回の記事では、ネットワークの複雑さを表す関係式について解説しました。「管理対象のネットワーク機器数が増えるにつれて、ネットワーク機器間の相互作用数が指数関数的に増える」という、以下の関係式です。
単階層ネットワークでは、上記の関係式において、「N=1」という理想的なネットワーク構造を実現できます。STP(スパニング・ツリー・プロトコル)を用いず、スイッチ間での相互作用も無く、可能な限り簡素化された環境となります。スイッチ内のファブリックが、これを可能にします。