仮想化から見たネットワーク機器の進化
2010年のまとめ
今からちょうど1年前、「仮想化時代のデータセンター・ネットワーク」というタイトルで全4回の連載を掲載した。この時は、主に以下の3つの観点に立って、いくつかの技術を俯瞰(ふかん)した。
取り上げた内容 | 背景 | 適用技術 |
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ビジネス・スループットを向上するための、データセンター・ネットワーク技術 | Spanning Treeの弱点である、Ethernetネットワークの帯域が無駄になる問題を排除し、データセンター・ネットワークのスループットを向上させたい | IETF TRILL |
限られたデータセンター内リソースを有効活用するための、リソース・エリア・ネットワーク技術 | データセンター内にある各種ネットワーク(LANやSAN)を統合し、コストを低減させたい ストレージなどのリソースを有効活用したい |
DCB、FCoE、PB/PBB、VPLS |
データセンターの運用管理を省力化/自動化するための、管理ネットワーク・フレームワーク | サーバーやストレージなどと同様に、ネットワークも含めたデータセンター・システムを一元管理し、システム・プロビジョニングやモニタリングを行い、自動化/省力化を実現したい | オーケストレーション・フレームワーク システム連携プラグイン イベント関連付け |
図1: データセンター内の3種類のネットワーク(クリックで拡大) |
(1)「ビジネス・スループットを向上するための、データセンター・ネットワーク技術」とは、データセンターのサービス・スループットを向上することによって、データセンターという限定された物理リソースに対して、より多くのサービスを収容する技術である。1年前の連載でも触れた通り、これは主に、Ethernetで使われるSpanning Tree Protocol(STP)と呼ぶループ回避の仕組みによって生じる帯域の狭さを解消する技術である。
(2)「限られたデータセンター内リソースを有効活用するための、リソース・エリア・ネットワーク技術」は、同様に、データセンターの限られたリソースを、より効率よく活用できるようにするためのネットワーク技術である。Data Center Bridging(DCB)技術やFC over Ethernet(FCoE)などに代表される技術群が中心となる。
(3)データセンターの運用管理を省力化/自動化するための、管理ネットワーク・フレームワーク」は、いまだにまとまったフレームワークとしては提供されていない分野である。しかし、仮想サーバー、ストレージ、ネットワークなど、データセンターを構成する個別の要素を管理する目的に対しては、いくつかの管理フレームワークやオーケストレーション・フレームワークが提供されてきている。
では、2010年2月に提示したこれらの技術群は、2010年の1年間で実現されたのだろうか。
第1に、スループット向上については、IETF TRILLが技術要素となる。IETF TRILLにおけるBase protocolなどの主要部分が規定化されており、実装上の問題は無い。実際に、米Brocade Communications Systems(以下、Brocade)や米Cisco SystemsはTRILLを製品に取り込むことを表明。Brocadeでは「Brocade VDX6720シリーズ」として出荷済みである。Ethernetの制限を無くすことに成功していると言ってよい。
図2: Brocade VDX6720シリーズ(クリックで拡大) |
第2のリソース・エリア・ネットワークについては、DCB/FCoE技術が、2009年に市場に投入されている。しかし、日本では、ほかの技術と同様に、DCB/FCoEの採用は進まなかった。2010年末になって、ようやくサービス・プロバイダにおいてDCB/FCoEを使用したサービス基盤の構築とサービス・インの事例が出てきた。
第3の運用管理の自動化/省力化のためのフレームワークについては、まだまだ発展途上である。分散管理をディスカッションしているDMTFや、ストレージ業界団体であるSNIAなどが、それぞれ個別に運用管理技術をディスカッションしているにすぎない。ただし、1年前の連載でも触れたEucalyptusだけでなく、OpenStackなど多くのクラウド運用ソフトが登場してきている。