インフラエンジニアからクラウドエンジニアへ! 成功する転職&スキルアップ戦略

2025年3月3日(月)
上田 将吾
第1回の今回は、インフラエンジニアがクラウドエンジニアへ転職するための実務経験、資格取得、自己研鑽の重要性と具体的なキャリア設計について解説します。

はじめに

クラウドの市場規模は急速に拡大しています。総務省の「令和4年情報通信に関する現状報告の概要」によると、世界のパブリッククラウドサービス市場は2020年時点で35兆315億円(前年比27.9%)でした*1。その後の予測値として、2024年にはその倍近くに至るとされています。クラウドサービスの市場拡大を受け、クラウドエンジニアの正社員求人倍率*2は26.3倍(2024年12月時点)に達し、需要の高さがうかがえます。

このような状況を受け、インフラエンジニア、特にオンプレミス環境で活躍されている方の中には「将来はクラウドエンジニアに転職したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。

実際、弊社にも下記のような相談をいただくことが増えています。

「クラウドエンジニアの経験を積んでいかないと、将来的に取り残されてしまうんじゃないか」
「オンプレ経験だけだと年収が上がりにくい」 「クラウドエンジニアになる方がフルリモートなどの就業がしやすいので、クラウドエンジニアになりたい」

しかし、クラウドエンジニアへのキャリアチェンジは、具体的にどのような資格や実務経験が必要なのか、イメージしづらいのが現状です。

そこで今回は、インフラエンジニアの方々の転職支援の経験をもとに、オンプレ系インフラエンジニアがクラウドエンジニアへキャリアチェンジをするために必要な要素を「実務経験」「資格取得」「自己研鑽」の3つの観点から紹介します。

*1: 令和4年 情報通信に関する現状報告の概要
*2: 求人倍率の定義
【算出式】求人倍率=求人数÷転職希望者数
【求人数】レバテックのエージェントサービスで募集中の中途採用求人数
【転職希望者数】レバテックのエージェントサービスで正社員転職を希望している利用者数

実務経験

クラウドエンジニアを目指す上で最も重要なのは「実務経験」です。理想はクラウド環境の構築や最適化の経験をしていることですが、「現職ではクラウド経験を積むのが難しい」という方も多いでしょう。

ここでは、オンプレミス環境での経験を活かしてクラウドエンジニアに転職するための方法を解説します。

まず、大前提として基本設計以上の工程の経験と理解があると有利です。クラウドエンジニアの業務内容はパブリッククラウドを用いたインフラ環境の構築ですが、ネットワークやサーバーなどをはじめとするITインフラに関する知識が抜けていると業務遂行が困難になります。顧客のニーズを的確に捉え、最適なクラウド環境を設計・提案するためには、要件定義、設計、構築、運用といった一連の流れを理解している必要があるからです。

具体的には、下記のような経験やスキルが評価されやすいでしょう。

  • IPAの非機能要求に基づいた要件の設計書の作成
  • お客様へ設計に対するメリット・デメリットの提示
  • テンプレートの設計書を使用していても、設計書の目的が理解できている
  • シェルスクリプト、PowerShell、Pythonなどを使ったスクリプトを作成し自動化

つまり「顧客の要件を理解し、最適な設計を考えられるか」という点が大切になってきます。クラウドエンジニアは各パブリッククラウドの特性を理解し、顧客の要件とすり合わせながら行うことが主な業務です。単純な構築作業が迅速かつ簡単にできてしまうからこそ、基本設計以上の経験が重要視されているのが実情です。

また、実務経験だけではなく、パブリッククラウドの利用を検討・提案したものの、最終的にオンプレミスの運用になった経験も転職市場では高く評価されます。実際に公共関連の案件に携わっていた方がオンプレ環境がメインではあるものの、複数パターンの設計をメリット・デメリットを交えて説明できる能力、非機能要件の設計経験が評価され、AWSの経験がなくても採用に至ったケースもあります。要件定義の段階で既に定められている場合は実現可能性が低いこともありますが、検討してみる価値はあるでしょう。

【オンプレミス経験のクラウドへの転用例

  • オンプレミスでのシェルスクリプトによるサーバー監視自動化 → AWS Lambdaを利用したサーバーレス監視自動化へ転用できる
  • 非機能要求に基づいた要件の設計書の作成 → 要件に沿って構成を考えた経験がクラウドの構成設計に活かせる

資格取得

実務経験に加えて「資格取得」も重要です。資格を取得することでスキルアップや評価・年収アップにつながります。クラウドエンジニアはクラウドサービスを使用して仕事を進めるケースが多く、一般的にはAWS、Azure、GoogleCloudなどのパブリッククラウドを扱えるエンジニアは市場価値が高いと言われます。

これらのパブリッククラウドには各ベンダーが提供する専用の資格が存在します。これらの資格は実務に直結する資格が多く、転職市場においてはクラウドインフラの市場シェアが最も大きいAWSの資格が特に重宝されることが多いです。

AWSの資格は複数存在しますが、クラウドエンジニアへのキャリアチェンジに有利な資格としては、以下の3つが挙げられます。

  • AWS Certified Solutions Architect – Associate
    AWSクラウド上でのアプリケーションおよびシステムの設計・構築に関するスキルを測定するものです。この資格を持つことは、AWSクラウドでのソリューションアーキテクトとしての能力を証明します。
  • AWS Certified SysOps Administrator – Associate
    システム運用・管理に関する知識と技術を問う、アソシエイトレベルの認定資格です。AWSを使ったインフラ構築だけでなく、モニタリング、バックアップ、トラブルシューティングなど、運用フェーズに必要なスキルの習得が目的となります。
  • AWS Certified Solutions Architect – Professional
    AWSでのクラウドアーキテクチャの設計とデプロイにおいて2年以上の実践的な経験を持つ個人を対象とするものです。AWSに関する専門的知識とスキルの実力を証明することが可能になり、特に「システム設計や分散アプリケーションにおける高度な専門的知識やスキル」を証明できます。

AWS Certified Cloud Practitionerはクラウドの基礎知識を学ぶ上で有効な初級資格ですが、加えて上記で紹介した資格を取得することで、転職においてより有利になると言えるでしょう。転職市場において、これらの資格を取得していると一定以上のスキルを持っていることの証明になるだけでなく、就職後、資格保有者に対して一定の金額を支給する企業もあるので、給与アップを狙うことも可能になるでしょう。

そのため、クラウドエンジニアへのキャリアチェンジを目指す方は、以下の順序で資格取得を進めることがおすすめです。

AWS Certified Solutions Architect – Associate(学習期間の目安:1~3ヶ月)

AWS Certified SysOps Administrator – Associate(学習期間の目安:1~3ヶ月)

AWS Certified Solutions Architect – Professional(学習期間の目安:3~6ヶ月)
※もちろん、AWSが全くイメージしづらいという方は、まずAWS Certified Cloud Practitioner(学習期間の目安:約1ヶ月)の取得をおすすめします。

資格取得は転職活動だけでなく、現職での給与アップや新規プロジェクトへの参加など、キャリアアップに貢献する可能性があるでしょう。

自己研鑽

最後は「自己研鑽」です。豊富な実務経験や資格を持っていても、継続的な自己研鑽がないためにクラウドエンジニアへのキャリアチェンジが叶わないケースもこれまでに数多く見てきました。一方で、実務経験が少なくても熱意を持って自己研鑽に取り組んでいる方は、希望のポジションでの転職を成功させています。

では、どのように自己研鑽に取り組めば良いのでしょうか。実際にクラウドエンジニアへの転職を成功させた方の実例を紹介します。

  • ①書籍や動画講座の利用だけでなく、AWS動作や機械学習の動作確認に必要だったPythonを扱えるようにするため、先輩エンジニアに積極的に質問し、実際に動作確認を行っていた
  • ②現職の案件において、クラウドを導入した場合のコストやメリット・デメリットをまとめ、上司やお客様へ提案することで、実務的にクラウドへの理解を深めていた
  • ③学んだ内容をブログやGitHubで発信し、そのURLを履歴書や職務経歴書に記載することで、技術力や学習意欲を効果的にアピールしていた

これらの事例から分かるように、自己研鑽は単に知識習得だけでなく、実践とアウトプットを通して学習を深化させ、それを効果的にアピールすることが重要です。

企業の採用担当者が重視する点

実際に採用担当者は面接で候補者のどのような点を見ているのでしょうか。私たちが企業の採用担当者からヒアリングした結果、多くの企業がクラウドエンジニア志望者に対して以下のような点を重視していることが分かりました。

  • 経験:実際にAWSのアカウントを登録し、各種サービスに触れているか。実際に手を動かしてみる経験をしているか
  • 応用力:現職の案件をクラウドで実現するとしたら、どのような構成になるか、コストはどのくらい削減できるかなど、具体的に考えているか
  • 学習意欲:常に最新のクラウド技術をキャッチアップし、新しいサービスの用途や使用方法を理解しているか、勉強しているか
  • 深い理解:各サービスの特性を理解しているか。例えばAWSの場合、ECSとFagateなどのサービスがどのように異なるのかまで理解できるているか
  など

キャリアチェンジを検討している方は、これらのポイントを意識して自己PRや面接に臨むことで採用担当者に好印象を与え、選考を有利に進めることができるでしょう。ご自身の経験やスキルを棚卸し、上記のポイントを踏まえて効果的にアピールできるように準備しておきましょう。

クラウドエンジニアのキャリアプラン

最後にクラウドエンジニアの代表的なキャリアプランを紹介します。クラウドエンジニアとして専門性を深める道以外にも、培ってきた経験を活かして様々なキャリアパスを描くことができます。

サーバーサイドエンジニア

クラウドエンジニアの中でもアプリケーション開発に特化し、Webアプリケーションのサーバー側(クラウド側)を担当するのがサーバーサイドエンジニアです。開発が向いていると感じている場合におすすめのキャリアプランと言えます。JavaScript・PHP・Ruby・HTML/CSSなどの複数のプログラミング言語を身につければ、開発に特化したサーバーサイドエンジニアになれるでしょう。

クラウドスペシャリスト

インフラ、ネットワーク、アプリケーション開発など、クラウドに関する幅広い知識とスキルを深め、専門家を目指す道です。上流工程の設計から開発・運用管理・保守まで対応可能なクラウドに特化することでクラウドプロジェクトで重宝されるでしょう。

プロジェクトマネージャー

クラウドシステム開発の予算・スケジュール・工数・プロジェクトメンバーの役割分担などを決定し、プロジェクト全体を管理するポジションです。管理能力が高く、コミュニケーションに長けた人が向いていると言えます。

クラウドコンサルタント

クラウドを使ったシステム提案を行うコンサルタントです。企業の経営・事業に関する課題を解決するため、最善と思われるクラウドでの情報システム活用策を策定します。オンプレミスからクラウドへの最適な移行を行うコンサルティングなども行います。

クラウドエンジニアを目指す段階から将来のキャリアプランを明確にしておくことで、スキルアップの方向性も定まりやすくなります。自分に合ったキャリアパスを検討しておきましょう。

おわりに

クラウド技術の需要増加、リモートワークの進展などにより、クラウドエンジニアの将来性は非常に高いと言われています。実際に様々な企業のクラウド部門の方との交流を通じて、クラウド技術は今後のインフラエンジニアにとって必須のスキルとなりつつあることを実感しています。オンプレミス環境からクラウド環境への移行が加速する中、クラウド技術を習得したエンジニアの需要はますます高まっていくことが予想されます。

クラウドエンジニアの需要の高まりを受け、インフラエンジニアからクラウドエンジニアへのキャリアチェンジを目指す方も少なくありません。しかし、クラウドエンジニアへのキャリアチェンジを叶えるためにはいくつか課題も存在します。

自身の希望する転職を叶え、理想のキャリアプランを実現するために自己研鑽や資格取得に加え、現在の業務を将来のクラウドエンジニアとしてどのように活かせるか意識して取り組むことが重要です。現在の業務で得られるスキルや経験がクラウド環境でも応用できる点を意識することで、より効果的な学習やスキルアップが可能になります。転職活動においても、自身の経験をクラウドエンジニアの視点で説明することで、企業へのアピール力を高めることができるのではないでしょうか。

レバテック株式会社
レバレジーズ株式会社に入社後、レバテックに配属。キャリアアドバイザーとして年間300名以上のエンジニア・ITコンサルタントのキャリア支援を手がけ、最適なキャリアパスの提案を行う。その後、インフラエンジニアに特化した専任チームの立ち上げを主導し、専門領域における採用支援の基盤を確立。現在はレバテックのインフラエンジニアチームのリクルーティングアドバイザーとして、業界の最新動向を踏まえたキャリア支援をしている。

連載バックナンバー

キャリア・人材技術解説
第1回

インフラエンジニアからクラウドエンジニアへ! 成功する転職&スキルアップ戦略

2025/3/3
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