要件の整理/共有でシステム設計の品質を高める

2010年8月5日(木)
北山 厚荒川 英俊

これから4回に分けて、「組み込み製品の品質を高めるシステム設計」をテーマに、組み込み製品開発における実践的なプラクティスを紹介する。

組み込み製品とは、特定の機能を実現するためにコンピュータ・システムを含んでいる製品を指しているが、対象とする製品は時代とともに変わってきている。

例えば、メカニクス製品の代表のような自動車を例に見てみよう。自動車は、走る、曲がる、止まる、運ぶ、というのが代表的な機能だが、これらの機能は駆動制御、ボディ制御、安全制御、マルチメディア制御などで構成され、いまやコンピュータ・システムのかたまりといえる。

この例からも分かるように、以前であれば組み込み製品とは思われていなかった製品も、組み込み製品に分類されるようになってきている。現在では、組み込み製品でない製品を探す方が難しい状況となっている。

背景には、製品機能の高度化が挙げられる。製品開発に携わる人々は、ネットワーク化やソフトウエア化という手段、つまりIT技術を駆使して、これらの機能を実現しているのである。

経済産業省が公開した「2009年度組み込み産業実態調査」によれば、組み込みソフトウエアの開発費総額は、過去5年以上にわたって年率平均15%以上で増加しており、いまや組み込み製品開発総額の49.0%を占めている(図1)。つまり、製品開発費の約半分を、組み込みソフトウエア開発が占めているのである。

図1: 製品開発費に占める組み込みソフトウエア開発費の割合が増加

しかし、これだけソフトウエア開発のウェートが高まっているにもかかわらず、製品開発の現場は、以前と変わっていない。依然として、かつてメカニクス製品を開発していたときと同じような、メカ主導型の開発の進め方を続けているのが実態だ。

メカ主導型の開発には問題がある。メカ開発(以下、メカ)に比べて、エレクトロニクス開発(以下、エレキ)とソフトウエア開発(以下、ソフト)の着手時期が遅くなってしまうのである。これにより「メカとエレキ/ソフトとの間で技術情報が伝わらない」「メカとエレキ/ソフト間の業務分担が確立されない」といった問題が発生する(図2)。これでは、重大な品質問題を引き起こしかねない。

図2: 組み込み開発時代には、メカ設計とエレキ・ソフト設計のギャップが問題を引き起こす

事実、コンサルティングの現場で出くわすのは、「とにかく納期優先*1」というスタンスで、品質を後回しにする開発現場である。「作ってみないとわからない*1」というスタンスで、検討もそこそこに終わらせて、製品を試作してはモグラたたきのように不具合をつぶす。ひとりよがりの表現や用語で仕様を伝達して「伝わっているはず*1」と思い込む。設計が完了すると、他者への影響はお構いなしに「自分は大丈夫*1」と考える。こうした、タコツボ化した技術者の集まりの開発現場である。
*1: 「太字」表現は『それでもコストは削れる。』(iTiDコンサルティング編著、日経BP社発行)より

これらの事態を、技術者の努力や1人のスーパーマンの活躍で解決するのは、難しい。要求が高度化し、その要求を満たすための機能が複雑化しすぎている現状は、1人の人間が設計できる限界を超えている。開発対象が今後も複雑化していくことが見えている以上、技術者の努力といった根性論ではなく、仕組みとして仕事のやり方を根本的に変えていかねばならない。

では、どう仕事のやり方を変えていけばよいのか。それが、今回の連載のテーマである。

(株)iTiDコンサルティング 代表取締役社長
製造業の開発力強化をミッションとする(株)iTiDコンサルティングの設立に参画。開発業務の生産性と製品価値の向上に関する改革コンサルティングに多数従事。2008年より現職。
(株)iTiDコンサルティング シニアマネージングコンサルタント
製造業の開発力強化をミッションとする(株)iTiDコンサルティングに所属。組み込み製品の設計開発プロセス改革コンサルティング業務に従事。製品要件の分析からシステム設計業務領域を強みとする。

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