「DevRel Survey 2024」から読み解くDevRelの現状

2025年1月16日(木)
中津川 篤司
今回は、2024におけるDevRelの現状に関する調査結果をまとめたレポート「DevRel Survey 2024」について紹介します。

はじめに

DevRel Survey 2024」が公開されました。これは、DevRel.Agencyが毎年行っているDevRelに関する調査結果をまとめたレポートです。今年で11回目になり、レポートは2017年からアーカイブ公開されています。

今回は、このレポートからDevRelの現状を読み解いていきます。なお、表については上位項目のみとしています。すべての内容を確認したい場合は、実際のレポートの内容を確認してください。

回答者について

今回のレポートの有効回答数は310、国数としては33となっており、過去最大規模とのことです。実際、DevRelは世界中に広がっており、その活動は多岐にわたっています。

年齢

DevRelに関わっている人たちの約4割が35〜44歳となっています。また、63.2%が35歳以上となっており、エンジニアと比べて年齢層が高い傾向にあります。また、年々徐々に上昇傾向が見られ、DevRelに関わる人たちの年齢層が上がっているとのことです。

【出典】DevRel Survey 2024

一方、24〜34歳も33.6%となっており、ジュニアレベルのDevRelも増えていることが分かります。

性別/性自認

女性と自認している人は28.1%(昨年は32.1%)となっています。エンジニア界隈と同じく女性の割合は多くないと感じますが、2018年が20.5%だったことを踏まえると、徐々に女性層が増えていると言えます。

働き方

勤務形態

企業勤務の方が、2023年は93.5%であったのに対して、2024年は83.2%と減少しています。逆にフリーランスやエージェント、コンサルタントなどが増えているとのことです。つまり、DevRelを専門的に扱う会社や個人が増えていると考えられるでしょう。

なお、レイオフを経験した人は14.6%(昨年は15.1%)であり、シニアレベルのDevRel経験者が多かったとのことです。

職種

デベロッパーアドボケイトとして働いている方が53.1%で最も多くなっています。最近ではDevRelエンジニアと呼ばれる職種も増えています。その他、エバンジェリスト(5.5%)、コミュニティマネージャー(4.2%)、マーケター(1.9%)などとなっています。

表1:Figmaと従来ツールとの比較

グループ パーセント 主な役職
デベロッパーアドボケイト 53.1% デベロッパーアドボケイト(29.9%)
シニアデベロッパーアドボケイト(11.6%)
デベロッパーアドボカシーマネージャー(7.4%)
デベロッパーリレーションズ リーダーシップ 20% デベロッパーリレーションズ責任者(8.8%)
デブレルディレクター(8.4%)
デベロッパーリレーションズVP(1.6%)
デベロッパーリレーションズ エンジニア 8.8% デベロッパーリレーションズエンジニア(6.5%)
ソフトウェアエンジニア(2.3%)
エバンジェリスト 5.5% デベロッパーエバンジェリスト(4.2%)
テクニカルエバンジェリスト(1.3%)
コミュニティマネージャー 4.2% コミュニティマネージャー(4.2%)

リモートワーク

78%がフルリモート、21%がハイブリッドとのことです。最近では、オンラインでの登壇やコミュニティ運営など、リモートでも問題のない働き方も増えています。そうした傾向がグラフにも出ていると考えられます。

報酬

中央値が15万ドル、平均値は15万6,157ドルとのことです。これは2023年に比べると約15%減少しています。特にこの部分について注記はありませんが、よりジュニアレベルのDevRelが増えているところに起因しているのかも知れません。

なお、報酬については国や地域の影響を受けやすくなります。シリコンバレーでは20万ドルを超えていますし、EU圏では11万ドルくらいです。

キャリアパス

自社組織において、明確なDevRelとしてのキャリアパスがないと答えた方が61%でした。これは2023年の54%から増加しており、DevRelに関わる年齢が高くなっている中にあって、若干の不安要素ではあります。

活動

活動内容

最も多いのはコンテンツ作成(ビデオ、ワークショップ、チュートリアル、ウェビナーなど)で50.3%となっています。続いて、ドキュメントやGetting Startedガイドの作成(43.5%)、アドボカシー(43.2%)、登壇(40.3%)となっています。

この他、ブログやマーケティング素材の作成、SDK開発など、コンテンツやコードなどに関する施策が上位を占めています。面白い点としては、ソーシャルメディアは16.7%から12.3%と減少傾向にあるとのことです。

トップアクティビティ 割合
コンテンツ作成 - 教育 - ビデオ、ワークショップ、チュートリアル、ウェビナーなど 50.3%
コンテンツ作成 - 技術 - ドキュメント、Getting Startedガイドなど 43.5%
アドボカシー - 開発者との連携とフィードバックの内部チームへの提供 43.2%
イベント - 公演 40.3%
コンテンツ作成 - マーケティング - ブログ、ウェブサイト、マーケティング素材 31.6%
戦略と計画 27.4%
デベロッパーエクスペリエンス - SDK作成、APIガバナンス、開発者ツールなど 24.5%
オンラインコミュニティの管理 20.3%

企業について

企業規模

昨年と比べて大企業(従業員千人以上)と中堅企業(従業員200人以上)の割合が増えているとのことです。これまでスタートアップが中心でしたが、徐々に企業規模の大きなところでも、DevRelが認知されていると言えそうです。

【出典】DevRel Survey 2024

ビジネスモデル

DevRelなので、開発者向けにサービスを提供していたり、APIを提供するところが多いです。SaaSと開発者向けツールで、ほぼ7割を占めています。AIは今年新しくできたカテゴリーとのことです。

ビジネスモデル 割合
Software as a Service(SaaS) 37.7%
Developer Tools 33.1%
Cloud Infrastructure 21.6%
Information Technology / Services 21.0%
Artificial Intelligence 16.4%

施策

チーム体制

43.6%の人たちが複数人で(チームで)DevRelに取り組んでいると回答しています。逆に言えば、56.4%の人たちは1人でDevRelを行っている状態です。2023年は67%が1人だったそうなので、その割合は減少傾向にあります。

対象について

90%が外部の開発者を対象としています。また、約6割がインテグレーターやパートナーを対象にしていると回答しています。

【出典】DevRel Survey 2024

レポートライン

いわゆる所属に関するところです。33.1%がマーケティング部に所属しています。次いで製品部、CEOと続き、エンジニアリング(開発部)、CTOといった順番となっています。

主な機能

DevRelの目的については、最も多いのが開発者支援(82.2%)です。次にコミュニティ(52.7%)、テクニカルライティング(42.7%)となっています。

DevRelの価値

62.3%の方がDevRelの価値はCxO(CEO、CTO、CFOなど)に認識されていると回答しています。また、56.2%はチーム長まで伝わっていると回答しており、DevRelの価値は広く認識されてきていると言えるでしょう。

【出典】DevRel Survey 2024

予算

約3割の人が予算は増加傾向にあると回答しています。24%が変化なし・減少と回答しています。コロナ禍前に比べると出張やブース出展に対する予算が絞られてきており、オンラインイベントや教育コンテンツの作成などに割り当てられているというのが肌感としてあります。

コミュニティ

規模

コミュニティの約半数は10,000人未満の規模とのことです。ただし、開発者コミュニティは100人未満(7.5%)から200万人以上(8.3%)と、とても幅広くなっています。

メンバーの定義

コミュニティメンバーをどう定義しているかという面白い質問がありました。開発コミュニティに参加してくれている人、サービスのユーザー、チャンピオンをコミュニティメンバーとして見る割合が多いようです。フォーラムユーザーは若干減少傾向にあります。

コミュニティメンバーの種類 割合
開発者コミュニティメンバー(Stack Overflow、GitHubなど) 37.7%
ユーザー 75.6%
アドボケイトまたはチャンピオン 71.1%
フォーラムユーザー 68.8%
ソーシャルチャネルフォロワー(X/Twitter、LinkedIn、YouTubeなど) 46.6%

アクティブの定義

これは、コミュニティメンバーがアクティブであると見なす基準になります。昨年はリポジトリでのアクションが最も多かったようですが、今年はプロダクトの使用が1位になっています。また、APIコール数も入っていることから、コミュニティにおいても実際にプロダクトを利用してくれている人を重視する傾向があるようです。

アクティビティ 割合
プロダクト使用 36.2%
リポジトリでのアクション(GitHub、Stack Overflow) 29.4%
コンテンツ作成(ブログ、ニュースレター、YouTube動画の公開) 29.4%
イベント参加 - オンライン 26.4%
コミュニティツールのメトリクス 25.7%

戦略

DevRelの目的

DevRelの目的として、製品やサービスの認知拡大を挙げる人が66.1%と最も多いです。次いでコミュニティの構築と育成が51%となっています。一部売上げに関するところもありますが、やはりDevRelの目的は製品やサービスの認知拡大にあるようです。

目的 割合
製品/サービスの認知度と採用を推進する 66.1%
開発者コミュニティを構築・育成する 51.0%
開発者への教育とサポートを提供する 42.0%
製品の利用促進を推進する 31.0%
ブランド認知を推進する 25.7%

KPI

DevRelプログラムにおけるKPIとして、アクティブユーザー数を挙げている方が44.3%となっています。また、コンテンツを通じたエンゲージメントが37.8%となっています。

アクティブユーザー数は最も収益につながりやすく、測定しやすいKPIなので、個人的にもお勧めです。

目標・指数 割合
アクティブユーザー数 44.3%
コンテンツエンゲージメント 37.8%
開発者満足度(NPS)および影響された収益 17.5%
ニュースレター登録者数 13.7%
収益 6.5%

AI

AIはどの業種でも注目されていることもあり、本レポートでも項目が追加されています(おそらく2023年から)。

利用目的

テキスト生成が最も多く、42%となっています。また、デモプログラムやちょっとしたコードの補完などに使っている場合も多いようです。一方、AIを使っていないという回答も21.8%となっており、まだまだAIの導入が進んでいるわけではないようです。

目的 割合
テキスト、音声転写、コードなどの生成 42.0%
コード提案や補完の強化 28.8%
コンテンツ制作 26.8%
繰り返し作業の自動化 24.3%
AIを使用しない 21.8%

利用しているツール

OpenAI(ChatGPT、DALL-E)が最も人気です。GitHub Copilotはコード補完で使われているのでしょう。SlackやDiscordのボットも使われているようです。

AIツール 割合
ChatGPT(OpenAI) 67.4%
GitHub Copilot 31.4%
Google Gemini 18.2%
使用なし 17.4%
DALL-E(OpenAI) 16.5%

課題

一方で、AIツール利用に際して課題も分かってきており、ハルシネーションやセキュリティに対する懸念が多くなっています。レポートの中ではStack Overflowのレポート(「2024 Stack Overflow Developer Survey」)でも約3割が出力結果の精度について懸念しており、それと回答が一致するとしています。

課題 割合
出力の正確性の確保 37.8%
セキュリティ懸念への対応 30.7%
ツールの有効性評価 21.6%
データセキュリティの確保 21.2%
使用しない 17.8%

おわりに

今回はDevRel Survey 2024の結果から、グローバルに行われているDevRelプログラムの状況を見てきました。雑感としては、DevRelプログラムの成熟が見られる一方で、まだまだ課題も多いと感じました。特にCxOレベルまで情報が届くことで、より分かりやすいビジネス指標との連動が求められているように思います。

本レポートは毎年行われており、過去のレポートも公開されています。本記事では紹介していない内容も多数ありますので、DevRelに関わる方は、ぜひ参考にしてみてください。

オープンソース・ソフトウェアを毎日紹介するブログMOONGIFT、およびスマートフォン/タブレット開発者およびデザイナー向けメディアMobile Touch運営。B2B向けECシステム開発、ネット専業広告代理店のシステム担当を経た後、独立。多数のWebサービスの企画、開発およびコンサルティングを行う。2013年より法人化。

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